子どもの感覚過敏への対応|6つの感覚別チェックと、学校に配慮を求めるときの伝え方
「うるさいと言って耳をふさぐ」「服のタグを切らないと着てくれない」「掃除機の音でパニックになる」——こうした困りごとを園や学校に相談すると、「慣れれば大丈夫ですよ」「わがままを聞きすぎでは」と返されることがあります。
この記事では、そこで引き下がらずに済むように、国の公的文書に書かれていることだけを根拠にして感覚過敏への対応を整理します。結論から言うと、感覚過敏は「気の持ちよう」ではなく、国の教育課程に対応すべき項目として名前が載っているものです。イヤーマフの使用も、教室の明るさや静かさの数値基準も、公的な文書に書いてあります。
- 結論|「慣れさせる」より先に「環境を変える」
- 感覚過敏は「国の教育課程に項目として載っている」もの
- 「過敏」の反対側——鈍麻と「感覚探し」も同じ枠組みで見る
- 感覚別・家庭でできる環境調整
- 環境調整は「買い替え」の連続になる——先に言っておきます
- 学校・園に伝えるときは「数値」を持っていく
- イヤーマフは学校に持ち込んでいいのか——解説に書いてあります
- 合理的配慮は2024年4月から義務——手帳も診断も必須ではない
- 実際に認められた配慮の例(内閣府の事例集から)
- そのまま使える、学校・園への伝え方
- 食べられないが重なっているとき
- 現場で効いた、地味だけど効果が大きい5つ
- よくある質問
- まとめ
- あわせて読みたい
- 参考にした一次情報
結論|「慣れさせる」より先に「環境を変える」
放課後等デイサービスの現場で感覚の困りごとに向き合ってきて、最初に押さえてほしいことは3つです。
- 順番は「環境調整が先、慣れは後」。刺激を減らしてから、本人が自分で対処する方法を覚える。逆にすると失敗します
- 感覚は5つではなく6つで見る。視覚・聴覚・触覚・嗅覚に加えて、固有覚・前庭覚を入れる。これは国の学習指導要領解説の区分です
- 学校への相談は「つらそうです」ではなく数値と条文で。教室の明るさ・静かさには基準があり、合理的配慮は2024年4月から義務です
診断も障害者手帳も、配慮を求めるための必須条件ではありません。理由は後半で条文とともに説明します。
「慣れさせる」を先にやってしまう家庭は、とても多いです。私も新人のころはそうでした。でも、刺激が強すぎる状態のまま我慢を重ねさせても、耐性はつきません。つくのは「その場所が嫌い」という記憶のほうです。
感覚過敏は「国の教育課程に項目として載っている」もの

まず、いちばん大きな誤解を外しておきます。感覚過敏は、医療や育児書の中だけの話ではありません。特別支援教育の指導内容として、国が正式に項目立てしています。
特別支援学校の教育課程には「自立活動」という領域があり、その中の「4 環境の把握」という区分に、「(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること」という項目が置かれています(特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編/平成30年3月告示・第6章)。
この項目が何を指すのか、解説にはこう書かれています。
障害のある幼児児童生徒一人一人の感覚や認知の特性を踏まえ、自分に入ってくる情報を適切に処理できるようにするとともに、特に自己の感覚の過敏さや認知の偏りなどの特性について理解し、適切に対応できるようにすることを意味している。
同上
「自己の感覚の過敏さ」——この言葉が、国の文書にそのまま書かれています。しかもこの項目は、平成30年の改訂で名称が「感覚や認知の特性への対応に関すること」から「理解と対応に関すること」へ変更されました。発達障害を含む多様な障害に応じた指導を充実させるため、という理由です。国として、扱いを強める方向に動いた項目だということです。
つまり、園や学校で「うちの子は音がつらいようです」と伝えることは、特別な要求ではありません。国が指導内容として示している領域の話をしているだけです。この前提を知っているかどうかで、面談の空気はかなり変わります。
感覚は「6つ」で見る——固有覚と前庭覚を落とさない
同じ解説の「(1)保有する感覚の活用に関すること」は、「保有する視覚、聴覚、触覚、嗅覚、固有覚、前庭覚などの感覚を十分に活用できるようにすること」と定義しています。
一般的な育児記事は「五感」で止まりますが、国の区分は6つです。後ろの2つは耳慣れないと思うので、解説の定義をそのまま引きます。
- 固有覚……「筋肉や関節の動きなどによって生じる自分自身の身体の情報を受け取る感覚であり、主に力の加減や動作等に関係している感覚」
- 前庭覚……「重力や動きの加速度を感知する感覚であり、主に姿勢のコントロール等に関係している感覚」
特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(平成30年3月告示)第6章より。
この2つを知らないと、見落とす困りごとがあります。「力の加減ができない」「友だちに触るとき強すぎる」は固有覚、「じっと座っていられない」「グラグラ揺れる遊具を極端に怖がる/逆に延々と回り続ける」は前庭覚の話であることが多い。これらを「乱暴」「落ち着きがない」と性格の問題にしてしまうと、対応が一生見つかりません。
| 感覚 | 過敏なときに出やすい姿 |
|---|---|
| 聴覚 | 掃除機・ハンドドライヤー・運動会のピストル・ざわざわした教室で耳をふさぐ、教室から出る |
| 視覚 | 蛍光灯や窓の光をまぶしがる、掲示物の多い教室で落ち着かない、黒板が見えにくいと言う |
| 触覚 | 服のタグ・靴下の縫い目・特定の素材を嫌がる、手が汚れると固まる、散髪や爪切りを激しく嫌がる |
| 嗅覚 | 給食室・トイレ・柔軟剤・特定の人のにおいで入室できない、吐き気を訴える |
| 味覚・食感 | 特定の食感を受けつけない、混ざったものが食べられない(偏食として現れます) |
| 固有覚 | 力の加減が難しい、物をよく壊す、姿勢が崩れる、疲れやすい |
| 前庭覚 | ブランコ・すべり台・階段を怖がる/逆に回転や揺れを求め続ける、乗り物酔いが激しい |
味覚・食感は学習指導要領解説の6区分には別建てされていませんが、家庭での困りごととしては大きいので併記しました。
そして、対応を考えるうえで最も重要な一文がこれです。
なお、ある幼児児童生徒にとって不快な刺激も、別の幼児児童生徒にとっては快い刺激である場合もある。したがって、個々の幼児児童生徒にとって、快い刺激は何か、不快な刺激は何かをきめ細かく観察して把握しておく必要がある。
同上
感覚過敏に「共通の正解」はない、と国の解説が明言しています。ネットで見つけた対策がうちの子に効かなくても、それは失敗ではありません。観察して当てにいくもの、と最初から決めておいたほうが消耗しません。
「過敏」の反対側——鈍麻と「感覚探し」も同じ枠組みで見る

感覚の困りごとは、過敏だけではありません。刺激が届きにくく、自分から強い刺激を取りにいくタイプもいます。同じ解説には、こう書かれています。
不足する感覚を補うため、身体を前後に動かしたり、身体の一部分をたたき続けたりして、自己刺激を過剰に得ようとすることもある。
同上
ここで解説が示す対応が、現場的でとても良いので紹介します。
例えば、身体を前後に動かしている場合には、ブランコ遊びを用意するなど、自己刺激のための活動と同じような感覚が得られる他の適切な活動に置き換えるなどして、幼児児童生徒の興味がより外に向かい、広がるような指導をすることが大切である。
同上
「やめさせる」ではなく「置き換える」。これが国の解説に書かれている方針です。体を揺らすのを止めるのではなく、同じ感覚が得られる活動を用意する。飛び跳ねるならトランポリン、手をたたくなら太鼓や粘土。行動を消すのではなく、行き先を作るという発想です。
この視点は、家庭でもすぐ使えます。「やめなさい」と言い続けても減らなかった行動が、代わりの活動を置いた途端に落ち着くことは珍しくありません。
感覚別・家庭でできる環境調整
ここからは実践です。まず刺激を減らし、次に本人が自分で調整できるようにする——この順番で並べています。すべてやる必要はありません。前章の表で当てはまった感覚のところだけ見てください。
聴覚——「音を消す」より「予告する」が効くことがある
- 苦手な音のリストを作る。掃除機・ドライヤー・トイレの乾燥機・花火・雷・赤ちゃんの泣き声など。特定できると回避できます
- 使う前に予告する。「今から掃除機かけるよ、3・2・1」だけで反応がまったく違う子がいます
- イヤーマフ・ノイズキャンセルイヤホンを試す。後述しますが、これは国の解説にも出てくる正規の手段です
- 逃げ場所を決めておく。「つらくなったらここに行っていい」場所を先に決める。我慢の限界まで待たせない
- 音の理由を説明する。解説も、音が発生する理由を知らせて少しずつ慣れていく指導を挙げています
順番は「避ける」→「理由を知る」→「少しずつ慣れる」。いきなり3番目から入らないことです。
聴覚過敏でよく誤解されるのが、「音量の問題ではないことがある」点です。小さい音でも、予測できない音や、意味のわからない音は強い不快になります。逆に、自分でスイッチを押した掃除機は平気だったりする。コントロールできるかどうかが効いていることが多いのです。
視覚——まぶしさと「情報量」の両方を見る
視覚の感覚過敏には、明るさ(まぶしさ)と情報量(ごちゃごちゃ)の2種類があります。学習指導要領解説でも、蛍光灯のまぶしさに対して遮光眼鏡やカーテンでの調整が挙げられています。
- 直接光を目に入れない。照明カバー、間接照明、電球色への変更。窓側ならカーテン・ブラインド
- 屋外は帽子・サングラス・日傘。「大げさ」ではありません。後述の公的な配慮事例にも出てきます
- 学習スペースの視界を減らす。壁に向ける、机の上を空にする、仕切りを立てる
- 掲示物を減らす・布で覆う。家庭ならカレンダーやポスターの位置を見直す
- 紙の白さを落とす。クリーム色の紙やカラーフィルムで読みやすくなる子がいます
触覚——衣服の材質は「国の解説」に名指しされている
「服のタグくらいで」と言われがちな部分ですが、これも国の解説に明記があります。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、聴覚の過敏さのため特定の音に、また、触覚の過敏さのため身体接触や衣服の材質に強く不快感を抱くことがある。それらの刺激が強すぎたり、突然であったりすると、感情が急激に変化したり、思考が混乱したりすることがある。
特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(平成30年3月告示)第6章
「衣服の材質」がそのまま書かれています。そして注目してほしいのは後半です。「感情が急激に変化したり、思考が混乱したりする」。つまり、服が原因で癇癪が起きたり、話が入らなくなったりするのは想定されている反応だということです。しつけの問題ではありません。
- タグは切る。縫い目は裏返す。タグレスの肌着を選ぶ。これだけで朝の攻防が消えることがあります
- 素材を固定する。「これなら着られる」素材が見つかったら、同じものを色違いでまとめ買いするのが結局いちばん安上がりです
- 身体接触は予告してから。解説も「身体接触の意図を知らせる」ことを挙げています。後ろから突然触らない
- 散髪・爪切りは手順を固定する。場所・順番・終わりの合図を毎回同じにする
- 食器の素材を変える。触感が理由で食べられないことがあります(後述の公的な配慮事例にも出てきます)
嗅覚——原因物質を特定できると一気に解決する
嗅覚は、対応が地味なわりに効果が出やすい感覚です。柔軟剤を無香料に変えただけで登園しぶりが止まった、という例は現場でも家庭でもあります。トイレの芳香剤、除菌スプレー、給食室の前を通るルート。「どこで嫌がるか」を地図にすると、原因はだいたい絞れます。
固有覚・前庭覚——「落ち着きがない」の正体かもしれない
この2つは、過敏よりも「足りない」側で問題になることが多いのが特徴です。刺激が足りないから、体を揺らす、飛び跳ねる、椅子をガタガタさせる、人にぶつかりにいく。前章で引いたとおり、対応の方針は「やめさせる」ではなく「置き換える」です。
- 体を揺らす → ブランコ、ハンモック、バランスボール(解説が挙げている例そのものです)
- 飛び跳ねる → トランポリン、階段の上り下り、縄跳び
- 人や物にぶつかる → 布団の下に潜る、重い荷物を運ぶ、押し相撲
- 椅子で揺れる → 座面にクッション、足台を置いて足裏を着ける
- 口に物を入れる → 硬めのグミ、するめ、水筒のストロー
学習の前にこうした活動を5分入れると、その後の集中が続く子がいます。「動いてから座る」の順番です。
逆に前庭覚が過敏な子は、階段・すべり台・自転車・エスカレーターを極端に怖がります。これを「臆病」と言われると本人はつらい。高さや揺れの情報が、定型的な感じ方より強く入っているだけです。
環境調整は「買い替え」の連続になる——先に言っておきます
ここまで読んでお気づきかもしれませんが、感覚過敏の対応は買い直しの連続です。着られる肌着を探して何枚も失敗する。食器を替える。照明を替える。柔軟剤を替える。正解が事前にわからないので、試した分だけ無駄が出ます。
わが家は4人育てていますが、いちばん消耗したのはここでした。子ども本人の困りごとより、付き合う側のコストのほうが先に限界に来る。そこを軽くしておかないと、環境調整そのものが続きません。
- 衣類は「当たり」を見つけたらセールでまとめ買い。肌着やインナーは価格差が大きいので、底値の時期を押さえておくと消耗が減ります → 【2026-2027年版】西松屋の底値セールはいつ?時期と狙い目の見分け方
- 食事の工夫に体力を回す。献立を考える時間を削ると、食感の調整に手が回るようになります → オイシックスとヨシケイを徹底比較|料金・お試し・向き不向き
- 限界のサインが出たら手を止める。環境調整は長期戦です。親が倒れたら終わります → 育児のイライラ限界に悩む親へ|子どもを守る5つの行動
感覚過敏への対応は数か月から数年の話になります。「全力でやる」より「続く形にする」ほうが結果的に早いです。
学校・園に伝えるときは「数値」を持っていく

ここからが、この記事でいちばん使ってほしい部分です。教室の明るさと静かさには、国が定めた基準があります。学校保健安全法にもとづく「学校環境衛生基準」(文部科学省告示)です。「まぶしそうです」「うるさいみたいです」と言うより、この数字を知っているほうが話が早い。
| 項目 | 基準 | 書きぶり |
|---|---|---|
| 照度(下限) | 教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は300lx | 「とする」 |
| 照度(目標) | 教室及び黒板の照度は500lx以上 | 「望ましい」 |
| 明暗の差 | 最大照度と最小照度の比が20:1を超えないこと(10:1以下が望ましい) | 「こと」 |
| まぶしさ | 児童生徒等から見て、黒板の外側15°以内の範囲に輝きの強い光源(昼光の場合は窓)がないこと | 「こと」 |
| まぶしさ | 見え方を妨害するような光沢が、黒板面及び机上面にないこと | 「こと」 |
| 騒音 | 教室内の等価騒音レベルは、窓を閉じているとき LAeq50dB以下、窓を開けているとき LAeq55dB以下 | 「望ましい」 |
文部科学省「学校環境衛生基準」(令和8年2月27日文部科学省告示第35号による改正を反映したもの)第1「教室等の環境に係る学校環境衛生基準」より。
ここは正確に使ってください。右端の列を入れたのはそのためです。照度の300lxは「下限値は300lxとする」という断定、まぶしさの2項目も「〜ないこと」という基準です。一方で、500lxと騒音のLAeq50dBは「望ましい」、つまり努力目標です。
「50dBを超えているから違法だ」と言ってしまうと、話がこじれるだけで何も進みません。正しい使い方は、「基準にこう書かれているので、うちの子の席や教室について一度測っていただけませんか」です。学校環境衛生基準の検査は、もともと学校が定期的に実施することになっているものです。新しいお願いではなく、すでにある仕組みに乗せるだけ——この持っていき方がいちばん通ります。
特に「黒板の外側15°以内に輝きの強い光源(窓)がないこと」は、視覚過敏の子にとって実利が大きい項目です。席替えやカーテンの運用を変えてもらう根拠になります。これを知らずに「席を替えてほしい」とだけ伝えると、単なる要望として扱われがちです。
イヤーマフは学校に持ち込んでいいのか——解説に書いてあります
相談でいちばん多い質問がこれです。「イヤーマフを使わせたいけれど、特別扱いになるのでは」。答えは、国の解説に名指しで書かれています。
自閉症のある幼児児童生徒の場合、聴覚に過敏さが見られ、特定の音を嫌がることがある。そこで、自分で苦手な音などを知り、音源を遠ざけたり、イヤーマフやノイズキャンセルヘッドホン等の音量を調節する器具を利用したりするなどして、自分で対処できる方法を身に付けるように指導することが必要である。
特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(平成30年3月告示)第6章
「使ってもよい」どころか「指導することが必要である」と書かれています。しかも、目的は「音を遮ること」だけではありません。本人が自分で対処できるようになることが目的だと明記されています。さらに解説は、「状況に応じてこれらの器具を使用することを周囲に伝えることができるようにすることも大切である」と続けます。
つまり「必要なときに自分で着け、必要だと周りに言える」ところまでが指導の射程です。これは学校側にとっても納得しやすいはずで、「甘やかし」ではなく「自立に向けた指導」という枠に入ります。面談ではこの言い方を使ってください。
また、幼稚園段階についても、幼児期の配慮の例としてこう書かれています。
集団の中でざわざわした声などを不快に感じ、集団活動に参加することが難しい場合、集団での活動に慣れるよう、最初から全ての時間に参加させるのではなく、短い時間から始め、徐々に時間を延ばして参加させたり、イヤーマフなどで音を遮断して活動に参加させたりするなどの配慮をする。
同上(障害のある幼児などへの指導に関する記述)
「最初から全ての時間に参加させるのではなく、短い時間から始め」——この一文も強力です。全員と同じだけ参加させることが目標ではない、と国が書いている。行事への部分参加を相談するときの根拠になります。
合理的配慮は2024年4月から義務——手帳も診断も必須ではない
ここが制度面の要です。障害者差別解消法が改正され、令和6年(2024年)4月1日から、事業者による合理的配慮の提供が「努力義務」から「義務」になりました。民間の学習塾、習い事、店舗、施設も含まれます(行政機関と公立学校はもともと義務です)。
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 第8条第2項(令和6年4月1日施行)
そして、多くの親御さんが誤解している点がここです。
法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」
手帳は要件ではありません。基本方針では、心身の機能の障害があり、障害や社会的障壁によって継続的に日常生活・社会生活に相当な制限を受けている人が対象とされています。発達障害も明示的に含まれます。「診断がついていないから言えない」ということはないのです。
さらに、意思の表明についても手当てがあります。
知的障害や精神障害(発達障害を含む。)等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。
同上
つまり保護者が代わりに伝えてよい。子ども本人が「音がつらい」と言葉にできなくても、配慮を求める手続きは成立します。
ただし「言えば必ず通る」ではない——3つの留意点
公平に書いておきます。合理的配慮には枠があります。基本方針は、①過重な負担にならないこと、②事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと、を前提としたうえで、次のように述べています。
当該障害者本人の意向を尊重しつつ、過重な負担の有無も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で柔軟に対応がなされる必要があります。
内閣府「合理的配慮の提供等事例集」
キーワードは「建設的対話」と「代替措置」です。要求が100点で通らなくても、代わりの手段を一緒に探すのが制度の想定です。「この方法がダメなら、どういう形ならできますか」——この一言を用意しておくと、面談はまず止まりません。
実際に認められた配慮の例(内閣府の事例集から)
「そうは言っても、実際どこまで認めてもらえるのか」——内閣府が合理的配慮の提供等事例集を公開しています。感覚に関係するものを抜き出しました。これらはすべて、国の資料に載っている実例です。相談のときに「こういう例が事例集にあります」と言えると強い。
| 困りごと | 実際に行われた配慮 |
|---|---|
| 運動会のピストル音でパニックを起こしてしまうかもしれない | ピストルは使用せず、笛・ブザー音・手旗でスタートの合図をした |
| 多くの人が集まる場が苦手で、集会活動や儀式的行事に参加することが難しい | 集団から少し離れた場所に負担のない席を用意し、聴覚に過敏があるのであればイヤーマフなどを用いることとした |
| 光に対して感覚過敏があるので、屋内外での活動で配慮してほしい | 窓側の席ならカーテンやブラインドを閉め、屋外活動では日陰に入ることや日傘をさすことを許可した |
| 食器の触感を受けつけない | シリコン製やポリプロピレン製など、受け入れやすい触感の食器を用いることとした |
| 建て替えで室内の声が反響するようになり、聴覚過敏があるのでつらい | 面談を会議室や相談室などの別室で実施した |
| プールでスイムキャップ着用が義務だが、帽子類を嫌がって外してしまう | 配慮すべき理由がある場合には非着用でも利用を認めることとした |
| 症状の特性をクラス担任だけでなく教科担任にも知っておいてほしい | 周知する内容を本人と事前に確認したうえで、関係者全体で情報共有するようにした |
事例集は「こういう対応が実際にあった」という例示であり、同じ配慮が必ず認められるという意味ではありません。ただ、交渉の出発点としては十分に使えます。
個人的にいちばん効くと思っているのが運動会のピストルの例です。「音が苦手なので休ませます」ではなく「笛にしていただけませんか」と言える。参加をあきらめる方向ではなく、参加の形を変える方向に話を持っていける材料になります。
そのまま使える、学校・園への伝え方

面談で緊張して要点が飛ぶ、というのはよくあります。紙に書いて渡すのが確実です。口頭だけだと、担任が替わった時点で消えます。以下の順番で1枚にまとめてください。
- ①困っている場面を具体的に。「音がダメ」ではなく「掃除の時間、教室の掃除機の音で廊下に出てしまう」
- ②本人に起きていること。「わがままではなく、感覚の過敏さによる反応です。強い刺激が突然入ると、感情が急に変わったり、話が入らなくなったりします」
- ③お願いしたいこと(第1希望)。「掃除の時間、イヤーマフの使用を認めていただけませんか」
- ④代替案も自分から出す。「難しければ、掃除機をかける5分間だけ別の場所で過ごす形でも構いません」
- ⑤根拠を一行だけ添える。「学習指導要領解説の自立活動編にも、イヤーマフ等を利用して自分で対処できる方法を身に付ける指導が挙げられています」
- ⑥家庭でやっていることを書く。丸投げではないと伝わります
④が入っているかどうかで、相手の受け取り方がまったく変わります。「要求」ではなく「相談」になるからです。
それでも話が進まない場合は、担任だけで抱えている可能性があります。特別支援教育コーディネーター、養護教諭、管理職に同席してもらってください。学校には校内委員会の仕組みがあります。個別の教育支援計画や個別の指導計画に書き込んでもらえれば、担任が替わっても引き継がれます。
なお、文部科学省が令和4年に公表した調査では、通常の学級に在籍する小中学生のうち8.8%に、学習面または行動面で著しい困難を示すという結果が出ています(学級担任等の回答にもとづく推定値で、診断を意味するものではありません)。35人学級なら3人前後という計算になります。「うちの子だけ特別な話をしている」わけではない、ということです。
食べられないが重なっているとき
感覚過敏のある子では、食事の困りごとが同時に起きていることがとても多いです。味・食感・におい・見た目はすべて感覚の話なので、当然といえば当然です。
ただし、偏食は感覚以外の原因で起きることもあるため、対応の組み立てが少し違います。食べる量や体重が気になっている場合は、この記事ではなく子どもの偏食はいつ治る?3タイプの見分け方と、小さじ1杯から始める対応法のほうが役に立ちます。判断の基準は品目数ではなく体重と成長である、という話と、医療機関が公開している進め方をまとめています。
整理すると、この記事=音・光・触覚・におい・体の動きと環境調整、偏食の記事=食べない。両方あるなら、まず食事のほうを先に見てください。体重は待ってくれないからです。
現場で効いた、地味だけど効果が大きい5つ
最後に、放課後等デイサービスの現場と、わが家で実際に効果があったものを挙げます。どれも派手さはありません。
- 「逃げ場所」を先に決める。つらくなってから探すのでは遅い。行っていい場所を平常時に決めて、実際に1回使わせておく
- 予告する。音・接触・予定変更。突然かどうかで反応が変わるのは、解説にも書かれているとおりです
- 記録を2週間つける。時間・場所・直前の出来事だけでいい。犯人が見つかります。思い込みで対策を打つより速い
- 本人に言葉を渡す。「うるさい」ではなく「音が大きくてつらい、少し外に出たい」。これが言えると世界が変わります
- 調子のいい日を基準にしない。疲れ・睡眠不足・気温で感覚の閾値は動きます。できた日を標準にすると、できない日が全部「サボり」になります
3つ目の記録は、本当に効きます。「教室がうるさいから」と思っていたら、実は給食前の空腹が引き金だった、という例がありました。記録がなければ、一生イヤーマフの話をしていたと思います。
よくある質問
Q. 感覚過敏は成長すると治りますか?
A. 「消える」というより「付き合い方がうまくなる」と考えたほうが現実的です。実際、学習指導要領解説が目標に置いているのも、感覚をなくすことではなく自分で対処できるようになることです。苦手な音を自分で知り、器具を使い、必要だと周りに伝えられる。そこがゴールとして設定されています。
Q. 診断がありません。学校に配慮をお願いしてもいいですか?
A. お願いできます。合理的配慮の対象は「障害者手帳の所持者に限られない」と内閣府の基本方針に明記されています。また、本人が言葉にできない場合は家族が補佐して意思を表明してよいことも書かれています。診断を待っている間、配慮を止める必要はありません。
Q. イヤーマフを使うと、慣れる力が育たなくなりませんか?
A. よく聞かれますが、国の解説は逆の立て方をしています。器具の使用は「自分で対処できる方法を身に付けるように指導する」ための手段として示されていて、さらに「必要に応じて使い分けられるようにすることが大切」とも書かれています。つけっぱなしを推奨しているわけではなく、使う・外すを自分で選べるようにするのがねらいです。刺激で頭が真っ白になっている状態のままでは、慣れる練習そのものができません。
Q. 家では平気なのに、学校でだけ崩れます。
A. 感覚の負荷は足し算です。学校は音・光・におい・人の密度・接触がすべて同時に来ます。家で出ないのは、刺激の総量が閾値を超えていないから。「家で平気だから大丈夫」という判断はしないでください。また、学校で我慢しきった反動が帰宅後に出ることもよくあります。家での崩れ方が激しいのは、外で持ちこたえている裏返しであることが多いです。
Q. 兄弟で対応を変えると不公平になりませんか?
A. これは4人育てた立場で言いますが、同じにするほうが不公平です。解説にも「ある子にとって不快な刺激が、別の子には快い刺激である場合もある」と書かれています。うちでは「人によって必要なものは違う」と早い段階で全員に説明しました。子どもは意外と納得します。もめるのは、理由を説明しないまま差だけつけたときです。
Q. どこに相談すればいいですか?
A. 就学前なら市区町村の子育て相談窓口・保健センター・児童発達支援センター、就学後なら学校の特別支援教育コーディネーターと教育委員会の教育相談が入口です。発達そのものが気になり始めた段階であれば、子供の発達障害を早期発見するには?年齢別チェックリストと相談先完全ガイドに窓口を整理しています。1歳半健診で「様子を見ましょう」と言われた段階の方は1歳半健診で「様子を見ましょう」と言われたら|次の3か月でやることのほうが近いはずです。
まとめ
- 順番は環境調整が先、慣れは後。刺激が強すぎる状態で我慢させても耐性はつきません
- 感覚は6つで見る。視覚・聴覚・触覚・嗅覚+固有覚・前庭覚。後ろ2つが「落ち着きがない」の正体のことがあります
- 鈍麻・感覚探しは「やめさせる」ではなく「置き換える」。国の解説が示している方針です
- 学校には数値を持っていく。照度の下限値300lx、黒板の外側15°以内に強い光源がないこと、騒音はLAeq50dB以下が望ましい
- イヤーマフは学習指導要領解説に明記。目的は「自分で対処できるようになること」
- 合理的配慮は2024年4月から義務。手帳も診断も必須ではなく、保護者が代わりに伝えてよい
- 第1希望と代替案をセットで出す。制度が想定しているのは「建設的対話」です
感覚過敏の相談を受けるとき、私がいちばん伝えたいのは「お願いしていいことなんです」ということです。多くの親御さんが、必要な配慮を「わがまま」だと思い込んで言い出せずにいます。でもここまで見てきたとおり、国の文書には対応すべきものとして書いてある。言い出すのが遅れるほど、子どもが我慢する期間が延びるだけです。
まずは、記録を2週間だけつけてみてください。「いつ・どこで・直前に何があったか」の3つだけで構いません。それが環境調整のスタート地点であり、そのまま学校に持っていく1枚の材料にもなります。
あわせて読みたい
- 子どもの偏食はいつ治る?3タイプの見分け方と、小さじ1杯から始める対応法
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- 育児のイライラ限界に悩む親へ。保育士が教える子どもを守る5つの行動
参考にした一次情報
- 文部科学省「特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部)」(平成30年3月告示)第6章「4 環境の把握」
- 文部科学省「学校環境衛生基準」(令和8年2月27日文部科学省告示第35号による改正を反映したもの)第1 教室等の環境に係る学校環境衛生基準
- 内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」
- 内閣府「障害者差別解消法 合理的配慮の提供等事例集」
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 第7条・第8条
- 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年12月)」
※この記事は一般的な情報提供であり、診断や治療を目的としたものではありません。日常生活に大きな支障が出ている場合は、かかりつけ医や地域の相談窓口にご相談ください。


