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障害福祉
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身体拘束適正化研修【障害福祉版】20分で終わる講師台本・事例30・確認テスト20問|放デイ・GH・生活介護

身体拘束適正化研修の障害福祉版ガイド。講師台本・事例30・確認テストを収録
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「身体拘束適正化の研修、今年もやらないと」と検索すると、出てくる資料のほとんどが高齢者介護向けです。特別養護老人ホーム、ベッド柵、徘徊、転倒予防。そのまま読み上げても、職員の顔には「うちの話じゃないな」と書いてあります。

障害福祉の現場で身体拘束が問題になるのは、転倒でも徘徊でもありません。自傷・他害・異食・飛び出し、そして「今その場で止めないと誰かが怪我をする」という、数秒の判断です。高齢者向けの資料には、その話は載っていません。

しかも制度そのものが違います。委員会の開催頻度も、減算の率も、介護保険と障害福祉では別物です。介護保険の資料を流用すると、正しいことを教えているつもりで間違いを教えることになります。

この記事は、障害福祉の事業所で身体拘束適正化研修を実際に1回やりきるための材料をそろえたものです。前提を1つだけ先に置きます。研修時間に法令上の定めはありません。20分で要件は満たします。だから主役は90分ではなく、そのまま読み上げて20分で終わる講師台本です。動画にして回す場合の設計も入れました。そのうえで、障害福祉に実際にある場面だけを集めた具体例30、演習ワーク、確認テスト20問、研修記録とアンケートの様式、研修日が確保できる年のためのフル版90分台本まで用意しています。根拠は省令・厚生労働省の資料・自治体の集団指導資料に限り、出典を明記しました。

この記事でわかること
  • 高齢者向け資料を流用するとどこがズレるのか(委員会の頻度・減算率・場面)
  • そのまま読み上げて20分で終わる講師台本(逐語スクリプト)
  • 15分×4回に分ける年間シリーズの組み立てと、分割したときの記録の残し方
  • 研修動画にして回す場合の設計(5分×4本の章立て・視聴管理表・記録の書き方)
  • 新規採用時15分/フル版90分のタイムテーブルと準備物リスト
  • 障害福祉の場面だけを集めた身体拘束の具体例30と判定
  • グレーゾーン判定ワーク12問・3要件あてはめ演習・確認テスト20問(解説つき)
  • 拘束の前に見るアセスメント5視点と、判断を誤らせる6つの罠
  • 通報義務と、同僚の支援に気づいたときの動き方
  • コピーして使える研修実施記録・受講者アンケートの様式
  • 運営指導で実際に見られる研修記録のNG5パターン
Contents
  1. この記事の使い方|まず20分の形を選ぶ
  2. 高齢者向けの研修資料を流用すると、障害福祉では3か所ずれる
  3. まず要件を確認する:この研修は何を満たせば「実施した」ことになるのか
  4. 研修時間に法令上の定めはない|90分をやらなくていい理由
  5. 【20分版・講師台本】そのまま読める逐語スクリプト
  6. 15分×4回の年間シリーズ|1回で終わらせない組み立て
  7. 研修を動画にして回す|シフトがそろわない事業所の現実解
  8. プログラムの組み立てと準備物|新規採用時15分とフル版90分
  9. 障害福祉の身体拘束 具体例30|場面別に「該当・グレー・非該当」で整理
  10. 【演習】研修で配る設問|グレーゾーン判定12問と3要件あてはめ
  11. 【確認テスト20問】そのまま配布できる形(解答・解説つき)
  12. 研修実施記録・アンケート様式(コピーして使える形)
  13. 運営指導で見られるポイントと、研修記録のNG5
  14. 【フル版・講師台本①】導入〜基礎講義(0〜25分)
  15. 【フル版・講師台本②】演習〜まとめ(25〜90分)
  16. ここからは「素材の引き出し」|研修を厚くしたいときに差し替える
  17. 拘束を検討する前に:アセスメント5つの視点と、判断を誤らせる罠
  18. 【事例研究】4年かけて居室の施錠を外した実践(厚生労働省 研修資料より)
  19. 児童(放デイ・児発)で必ず扱う5つの論点
  20. 見て見ぬふりをしないために|通報義務と、同僚の支援に気づいたとき
  21. よくある質問|身体拘束適正化研修(障害福祉)
  22. まとめ:研修は「拘束をやめるための会議の入り口」にする
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この記事の使い方|まず20分の形を選ぶ

先に地図を置きます。この記事は長いので、全部読む必要はありません。最初に決めるのは1つだけ、今年どの形でやるかです。

4つの形。迷ったら20分版
形 こういう事業所 読むところ
20分版
(おすすめ)
時間が取れない。ほとんどの事業所 【20分版・講師台本】をそのまま読み上げる。準備はレジュメ1枚と設問3問だけ
15分×4回 本気で拘束を減らしたい 「15分×4回の年間シリーズ」。委員会の直後に15分だけ残す形
動画 シフトがそろわない・多拠点 「研修を動画にして回す」。20分版台本がそのままナレーション原稿になります
フル版90分 法人合同研修・研修日が確保できる年 後半の【フル版・講師台本①②】。演習の回し方と想定問答つき
長い研修がよい研修ではありません。研修時間に法令上の定めはなく、20分でも要件は満たします。90分の計画を立てて実施できずに記録が飛ぶより、20分を確実に1回やって記録を残すほうが、実務としても指摘対策としても上です。

どの形でも、共通で使うもの

印刷するのはこの4つだけ
使うもの どこにあるか
設問(3〜12問) 「【演習】研修で配る設問」——自事業所に関係するものだけ抜いて使います
確認テスト 「【確認テスト20問】」——20分版なら10問に絞って構いません
研修実施記録・アンケート 「研修実施記録・アンケート様式」——そのままコピーして使えます
具体例30 「障害福祉の身体拘束 具体例30」——レジュメの材料。全部は配らず、近いものを数件選びます
後半の「アセスメント」「事例研究」「児童の5論点」「通報義務」は、初回は読まなくて構いません。2年目以降で内容を変えたいとき、対象が児童のときに差し替える素材の引き出しです。

高齢者向けの研修資料を流用すると、障害福祉では3か所ずれる

障害福祉と介護保険で身体拘束適正化の基準が異なる3点を比較した図。委員会は障害福祉が年1回以上、介護保険が3か月に1回以上。減算率は入所居住系10%、通所訪問系1%

最初にここを押さえてください。研修の中身をつくる前に、前提が違うことを知らないと、全部が少しずつずれます。

ずれ①:委員会の開催頻度が違う(障害は年1回以上、介護は3か月に1回以上)

これがいちばん多い誤解です。介護保険の施設サービスでは、身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3か月に1回以上開催することが要件になっています。一方、障害福祉サービスは「定期的に」=少なくとも年1回以上です。厚生労働省の資料が、この違いをはっきり並べて示しています。

②の開催頻度は障害分野は「少なくとも年1回は望ましいが、虐待防止委員会と関係する職種などが相互に関係が深いと認めることも可能であることから、虐待防止委員会と一体的に設置・運営することも差し支えない。
※④の定期的な研修は年一回以上で、新規採用時は必ず実施することが重要。

厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 地域生活・発達障害者支援室 虐待防止専門官/障害福祉専門官 松崎貴之「身体的拘束等の適正化の推進」

つまり障害福祉では、年4回も委員会を開く必要はありません。逆に言えば「介護の事業所は3か月に1回やっているから、うちも年4回やらないと怒られる」と思い込んで、無理な回数を計画に書き、達成できずに記録が飛ぶ——これがよくある失敗です。

介護保険サービスと障害福祉サービスを併設している法人では、同じ「身体拘束適正化委員会」という名前で1つの委員会を回しているケースがあります。この場合、頻度は厳しいほう(介護保険の3か月に1回以上)に合わせないと、介護保険側が減算になります。名前が同じでも根拠基準が別だ、という点に注意してください。

ずれ②:減算率が違う。しかも障害福祉は「10%」と「1%」の2段階

障害福祉の身体拘束廃止未実施減算は、サービスの類型によって減算率が2段階に分かれています。入所・居住系は所定単位数の10%、通所・訪問系は1%です。

身体拘束廃止未実施減算の減算率(令和6年度改定〜)
区分 減算率 主なサービス
入所・居住系 所定単位数の10% 障害者支援施設(施設入所支援)、療養介護、共同生活援助(グループホーム)、宿泊型自立訓練、福祉型障害児入所施設、医療型障害児入所施設
通所・訪問系 所定単位数の1% 生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援

相談支援事業と自立生活援助は対象外です。減算は要件①〜④のどれか1つでも欠けた時点で適用され、事業所全体・全利用者に及びます。区分の細部は指定権者によって示し方が異なるため、自事業所がどちらかは所管自治体の集団指導資料で確認してください。

間違えやすいのが生活介護です。日中の支援で入所施設に併設されていることが多いため「施設系だから10%」と思われがちですが、生活介護は通所系として1%に区分されています。愛媛県の説明資料も「療養介護・障害者支援施設など=10%」「居宅介護・生活介護など=1%」と並べています。

逆に、グループホーム(共同生活援助)は10%です。ここが障害福祉でいちばん影響が大きい。月間報酬500万円のグループホームなら、単月で50万円、年間600万円が消えます。しかも要件を満たしていなかった期間にさかのぼって返還を求められる可能性があります。

ずれ③:拘束が起きる場面が違う。「転倒・徘徊」ではなく「自傷・他害・異食・飛び出し」

高齢者介護で身体拘束が問題になる典型は、転倒予防のためのベッド柵、車いすからの立ち上がり防止、点滴の自己抜去防止、徘徊の防止です。「本人の身体が弱っていること」から始まる拘束と言い換えてもいい。

障害福祉はまったく別です。体は元気で、力も強い。そのうえで強い衝動や感覚の特性から、本人や周囲が傷つく行動が出る。だから拘束の場面はこうなります。

障害福祉で身体拘束が問題になる典型場面
  • 自傷:壁や床への頭突き、手を噛む、肛門や耳をいじって出血させる → ヘッドギア、アームカバー、抑制帯
  • 他害:叩く、噛みつく、髪をつかむ、物を投げる → 後ろから抱え込む、間に入って押さえる、居室に誘導して施錠
  • 異食:ティッシュ、洗剤、画びょう、土などを口に入れる → 手を押さえる、口に指を入れて取り出す、物を全部撤去する
  • 飛び出し・多動:玄関から道路へ走り出る、車道に向かう → 玄関施錠、チャイルドロック、手をつなぎ続ける
  • 不潔行為:便を触る、体や壁に塗る → つなぎ服、後ろ向きのベルト、ズボンの固定
  • パニック・興奮:大声、物の破壊 → クールダウン室へ入れて外から押さえる、薬で鎮静させる

このリストを見て「うちにもある」と思った項目こそ、研修で扱うべき場面です。高齢者向けの資料には1つも載っていません。研修資料を借りてくるのではなく、自分の事業所の場面で組み直す必要があるのは、この理由からです。

「身体拘束11項目」をそのまま配ってはいけない理由

研修資料でよく配られる「身体拘束の具体的な行為11項目」は、平成13年に厚生労働省がまとめた『身体拘束ゼロへの手引き』(高齢者介護の現場向け)に載っているものです。ひもで縛る、ミトン、つなぎ服、車いすベルト、ベッド柵、向精神薬の過剰投与、施錠——といった内容で、障害福祉にも当てはまる項目は多くあります。

問題は、この11項目に当てはまらなければセーフだ、と読まれてしまうことです。障害福祉で根拠になるのは11項目ではなく、障害者虐待防止法の身体的虐待の定義です。

①身体的虐待
(障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること)

障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)/厚生労働省「障害者虐待防止法の概要」より

「正当な理由なく身体を拘束すること」。行為の一覧ではなく、拘束かどうかで判断するという書き方です。11項目に載っていない行為でも、身体の自由を奪っていれば身体拘束であり、正当な理由がなければ虐待になります。

そして厚生労働省の手引きは、身体的虐待を3つに分けて例示しています。3つ目だけが「拘束」で、1つ目と2つ目は「拘束の顔をしていない虐待」です。研修ではこの3分類をセットで教えてください。

身体的虐待の3類型と例(障害者虐待の防止と対応の手引きより)
類型 具体例
①暴力的行為 平手打ちをする、つねる、殴る、蹴る/ぶつかって転ばせる/刃物や器物で外傷を与える/入浴時に熱い湯やシャワーをかけてやけどをさせる/本人に向けて物を投げつける
②本人の利益にならない
強制・乱暴な扱い
医学的診断や個別支援計画等に位置づけられておらず、身体的苦痛や病状悪化を招く行為を強要する/介助がしやすいように、職員の都合でベッド等へ抑えつける/車いすやベッドから移動させる際に必要以上に身体を高く持ち上げる/食事の際に、職員の都合で、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる
③正当な理由のない
身体拘束
車いすやベッドなどに縛り付ける/手指の機能を制限するためにミトン型の手袋を付ける/行動を制限するために介護衣(つなぎ服)を着せる/職員が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する/行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させる/自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する

②に「介助がしやすいように、職員の都合で抑えつける」「拒否しているのに口に入れて食べさせる」が明記されている点が重要です。忙しい日の、悪気のない一手がここに入っています。研修で扱うべきはこの行です。

まず要件を確認する:この研修は何を満たせば「実施した」ことになるのか

身体拘束廃止未実施減算を回避するための4要件(記録・委員会・指針・研修)の図。委員会・指針・研修は拘束0件でも必要

研修の設計に入る前に、制度上の要件を確認します。ここがあいまいなまま資料をつくると、「いい研修だったが要件は満たしていない」という結果になります。

満たすべきは4つ。研修はそのうちの1つでしかない

身体拘束廃止未実施減算を回避するために必要なのは、次の4つです。研修だけやっても要件は満たしません。

  1. 記録:身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録すること
  2. 委員会:身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果を従業者に周知徹底すること
  3. 指針:身体拘束等の適正化のための指針を整備すること
  4. 研修:従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること

この4つは令和3年4月から努力義務、令和4年4月から義務となり、減算は令和5年4月から適用されています(訪問系は①〜④のすべてが令和5年4月から)。令和6年度改定で減算率が単位数固定(5単位/日)から所定単位数の割合(10%/1%)に変わり、影響が一気に大きくなりました。

研修の頻度は「年1回以上+新規採用時に必ず」

研修の回数は年1回以上。加えて新規採用時には必ず実施することが求められています。ここで2つ、実務上の落とし穴があります。

頻度でつまずく2つのポイント
  • 「定期的に」は年度ではなく直近1年で見られる。令和7年5月に実施して次が令和8年7月だと、間が14か月空きます。年度内に1回ずつあっても、間隔が1年を超えていれば指摘されます。
  • 年度途中入職者の研修が抜ける。10月入職のパート職員に採用時研修をしないまま、翌年2月の年次研修まで放置——これが最も多い抜けです。採用時研修は入職後できるだけ早く、遅くとも1か月以内に実施してください。

「虐待防止研修で身体拘束を扱えばみなす」の正しい使い方

運営基準には、虐待防止の取組で身体拘束等の適正化について取り扱う場合には、身体拘束等の適正化に取り組んでいるものとみなすという規定があります。委員会についても、虐待防止委員会と一体的に設置・運営して差し支えないとされています。

これは事業所にとってありがたい規定ですが、使い方を間違えると一番損をします。「まとめてよい」のは実施であって、記録ではありません。

まとめてよいもの・分けるべきもの
項目 まとめる 実務上の扱い
研修の開催日 可 同じ日に虐待防止研修と続けて実施してよい。午前に虐待防止、午後に身体拘束でも、90分のうち前半後半に分けてもよい
研修の記録 不可 必ず2枚に分ける。テーマ・ねらい・時間・使用資料・受講者を別々に記載。1枚に「虐待防止・身体拘束研修」と書くと、どちらか一方しか実施していないと判断されうる
委員会の開催 可 虐待防止委員会と一体的に設置・運営できる。法人単位での設置も可能
委員会の議事録 要注意 1枚でもよいが、議題として身体拘束の項目が独立して立ち、審議内容が書かれていることが必要。「身体拘束についても確認した」の1行では足りない
研修と委員会 不可 別の要件。同じ日に続けて行うのは可だが、記録は完全に別。委員会の議事録に「研修も実施した」と書くだけでは研修記録にならない

研修記録のNGパターンは、令和6年度改定で義務化された研修の全体像でも詳しく整理しています。あわせて確認してください。

研修時間に法令上の定めはない|90分をやらなくていい理由

研修の記事を読むと、たいてい60分や90分のプログラムが載っています。ただ、現場で年に1回90分をそろって取れる事業所は多くありません。送迎があり、シフトがあり、夜勤明けがあり、週2日だけのパートがいます。全員がそろう90分は、そもそも存在しないことのほうが多い。

先に結論を言います。身体拘束適正化研修に、時間の下限を定めた規定はありません。基準省令が求めているのは「研修を定期的に行うこと」であって、何分やれという条文はありません。20分でも要件は満たします。

運営指導で見られているのは「時間」ではない
見られる 確認されること
実施日 前回の実施日から13か月以上空いていないか。「定期的に」は年度ではなく直近1年で見られます
受講者 分母(全従業者数)と受講者数。欠席者をいつフォローしたかの記載があるか
内容 何を扱ったか。レジュメ・使用資料が添付されているか
理解度の確認 確認テストやアンケートなど、受けた側の反応が残っているか
新規採用時 年次研修とは別に、採用のつど実施した記録があるか
この5つのどこにも「何分以上」は出てきません。逆に言えば、90分やっても、レジュメと受講者名簿と理解度の確認が残っていなければ指摘されます。時間を延ばすことは、指摘対策にはなりません。

長い研修より、短い研修を複数回のほうが効く

これは実務上の実感ですが、理屈もあります。

20分×4回が、90分×1回に勝つ3つの理由
  • 間隔があくと定着する。90分に詰め込んだ内容は、3日で消えます。3か月おきに20分ずつ触れると、忘れかけたところで戻ってくるので残ります
  • 回と回のあいだに、現場で試す時間がある。「玄関の立ち位置を変えてみる」を宿題にできる。90分1回だと、試した結果を持ち寄る場がありません
  • 全員がそろう。20分なら、シフトを2回に分けても回せます。90分を2回に分けるのは、講師のほうが持ちません
ただし、回数の要件は変わりません。短くしても、必要なのは「年1回以上+新規採用時に必ず」です。20分に短縮したから年4回やらなければいけない、という話ではありません。年1回20分でも、要件としては満たします。複数回にするのは、要件のためではなく実効性のためです。

短くするときに、削ってはいけない3つ

20分に圧縮すると、どこかを削ることになります。削る順番を間違えると、研修としての体を成さなくなります。次の3つだけは、何分になっても残してください。

最後まで残す3点
残すもの 理由
身体拘束の定義 「縛ること」だと思っている職員がいる限り、スピーチロックも立ちふさがりも報告されません。定義を狭く持っていることが、いちばん危ない
3要件と、1人で決めないこと 拘束をゼロにする話ではなく、手順を踏む話だと伝わっていないと、現場は「やってはいけないこと」として隠します
とっさに押さえたら報告する、その宛先 研修でいちばん行動が変わるのはここです。宛先(管理者かサビ管か)を具体的に言わないと、報告は上がってきません
逆に、時間がないときに削ってよいのは減算の説明と制度の沿革です。減算額は1分で足ります。沿革は研修では不要です。

「20分では短すぎると言われませんか」への答え

聞かれることの多い不安なので、先に書いておきます。指摘されるとしたら、時間そのものではなく記録の書き方です。研修実施記録の「時間」欄に「20分」とだけ書いてあり、内容欄が「身体拘束について」だけなら、中身を疑われます。

防ぎ方は単純です。内容欄に、扱った項目を箇条書きで3行以上書く。そして使用したレジュメと確認テストを添付する。この2つがあれば、20分でも説明が通ります。実際、記録が薄いことで指摘を受けるケースのほうが、時間が短いことで指摘を受けるケースよりはるかに多いです。

【20分版・講師台本】そのまま読める逐語スクリプト

ここが本命です。そのまま読み上げて20分になるように書いてあります。〔 〕は自分の事業所の数字や言葉に置き換える場所、太字は間を取る場所です。準備するのはレジュメ1枚(指針の冒頭+3要件)と、後述のグレーゾーン設問を3問だけ抜いた紙です。

20分の配分
時間 内容 ねらい
0〜2分 導入 自事業所の拘束記録の件数を出す。犯人探しではないと宣言する
2〜7分 定義と3要件 「縛ること」だけではないと伝える。3要件は全部そろって初めて入り口
7〜15分 その場で3問 グレーゾーン設問を3問だけ。挙手で判定し、割れたところだけ話す
15〜18分 1つ決める 「この1年で減らすもの」を1つだけ決めて紙に書く
18〜20分 報告ルートと減算 押さえたら誰に言うか。減算の話は最後に1分だけ

0〜2分:導入

[読み上げ]

今日は身体拘束の研修です。20分で終わります。

最初に数字を1つ。この1年で、うちで身体拘束の記録が残っているのは〔◯件〕です。〔※0件なら「0件です」と言う〕

この数字を見て、「そんなにあったのか」と思った人と、「いや、実際はもっとあるはずだ」と思った人がいると思います。後ろの人が正しいです。記録に残っていない小さな行動制限は、どこの現場にも毎日あります。とっさに手を押さえた。玄関の前に立った。「座ってて」と言った。

今日やりたいのは、そういう場面に名前をつけることだけです。誰が悪かったという話は一切しません。今日ここで出た話は、評価にも人事にも使いません。

2〜7分:定義と3要件

[読み上げ]

まず、身体拘束とは何かです。縛ることだけではありません。

体に触れていなくても、本人が自分の意思でその場を離れられない状態にしたら、拘束です。前に立ちふさがる。ドアを外から押さえる。椅子を動かせないようにする。これは全部入ります。

言葉も入ります。「ダメ」「座ってて」「動かないで」を繰り返して動けなくすることを、スピーチロックといいます。うちでいちばん起きているのは、たぶんこれです。

薬も入ります。落ち着かせることが目的で、必要以上に飲ませているなら、それも拘束として扱われます。

ここからが大事なところです。身体拘束は、絶対にやってはいけないものではありません。やむを得ない場合は認められています。ただし、3つが全部そろったときだけです。

ひとつめ、切迫性。いま命や体に危険が差し迫っていること。「危ないかもしれない」ではありません。

ふたつめ、非代替性。他に方法がないこと。これは他の方法を試していて、はじめて言えることです。試していなければ「他にない」とは言えません。

みっつめ、一時性。いつ終わるかが決まっていること。「落ち着くまで」は一時性ではありません。

3つのうち2つではダメです。全部そろって、やっと検討の入り口に立てる。そして入り口に立ったら、次は1人で決めないことです。組織で決めて、本人と家族に説明して、記録を残す。ここまでがワンセットです。

この5分がこの研修の心臓部です。ここを削ると、以降の20分が成立しません。逆にここさえ入っていれば、記録の「内容」欄は十分に書けます。

7〜15分:その場で3問

後述の【演習】から、自分の事業所に関係する3問だけを選んで印刷してください。放課後等デイサービスならQ1(玄関の立ちふさがり)・Q5(クールダウン室)・Q4(椅子)、グループホームならQ3(冷蔵庫の施錠)・Q2(手をつなぐ)を軸にすると、確実に議論になります。

[読み上げ]

ここから8分、3問だけやります。該当・非該当・グレーの3つで判定してください。

先に言っておきます。この3問に公式の正解はありません。今日のねらいは、正解を当てることではなくて、うちの中で判断が割れる場所を見つけることです。割れたら成功です。

やり方は簡単です。1問ずつ読みます。読んだら、挙手でお願いします。該当だと思う人。非該当だと思う人。グレーだと思う人。

〔※1問ごとに挙手を取る。全員同じ判定なら次へ。割れたら止まる〕

割れましたね。では、グレーにした方にうかがいます。何が決まれば、グレーじゃなくなりますか。

〔※ここで出てくる「本人が自分で外せるかどうか」「支援計画に書いてあるかどうか」といった言葉が、この研修の最大の成果。ホワイトボードか紙に必ず書き残す〕

20分版で講師がやりがちな失敗3つ
  • 3問とも解説してしまう。時間が足りなくなります。全員の判定がそろった問題は、解説せずに飛ばしてください。割れた問題だけに時間を使います
  • 「それは違います」と言ってしまう。言った瞬間に、以降だれも自分のやっていることを出さなくなります。「そう判断した理由を聞かせてください」に置き換えてください
  • その場で結論を出そうとする。20分では出ません。「今日は決めません。委員会に持っていきます」で正解です。これを言えることが、短い研修を成立させる条件です

15〜18分:1つだけ決める

[読み上げ]

残り5分です。ここで1つだけ決めます。

これから1年で、減らすものを1つ。紙に書いてください。「全部見直す」は禁止です。1つだけです。

いま割れた〔◯◯の場面〕でもいいですし、前から気になっていたことでも構いません。

〔※全員分でなくてよい。2〜3人に読み上げてもらう〕

ありがとうございます。この紙は回収して、研修記録に添付します。そして次の委員会の議題にします。1年後、この研修の最初に「去年これを決めました」と読み上げるところから始めます。

18〜20分:報告ルートと、減算を1分

[読み上げ]

最後に2つだけ。

ひとつ。とっさに身体を押さえてしまったら、その日のうちに〔管理者/サービス管理責任者〕に言ってください。怒られません。むしろ、言ってもらわないと困ります。記録に残っていない拘束がいちばん危ないからです。言いにくかったら、口頭でひとこと「今日こういうことがありました」で構いません。

ふたつ。1分だけ制度の話をします。この研修をやらないと減算がかかります。うち〔◯◯サービス〕は所定単位数の〔◯〕%です。年間でだいたい〔◯◯〕万円になります。

ただ、減算のために今日集まったわけではありません。さっき決めた1つを本当に減らせたら、減算の話は自動的に消えます。順番はそっちです。

20分、ありがとうございました。アンケートだけ、その場で書いて出してください。「今日いちばん意外だったこと」の1行だけで結構です。

アンケートは必ずその場で回収してください。「あとで出して」にすると半分しか集まらず、研修記録の分母が崩れます。20分の研修は、この最後の1分で記録の質が決まります。

15分×4回の年間シリーズ|1回で終わらせない組み立て

20分を年1回やれば要件は満たせます。そのうえで、本当に拘束が減るのは複数回に分けたときです。ここでは、15分を年4回に割り付ける形を置いておきます。委員会の直後に15分だけ職員を残す、という運び方がいちばん現実的です。

15分×4回の年間シリーズ(例:4月・7月・10月・1月)
回 テーマ 使う教材と、その回のゴール
第1回
4月
定義と3要件 【20分版台本】の2〜7分をそのまま読む。ゴールは「縛ること以外も拘束」と「押さえたら報告」の宛先が全員に入ること。年1回以上の要件はこの回で満たします
第2回
7月
うちのグレーゾーン 【演習】から自事業所に関係する5問。ゴールは判断が割れる場所を3つ書き出すこと。書き出したものはそのまま委員会の議題になります
第3回
10月
記録の書き方 第2回で出た場面を1つ選び、切迫性・非代替性・一時性を実際に文章にしてみる。書けないことを確認する回でよい。代替案を3つ書き出して終わる
第4回
1月
1年の振り返り 第1回で決めた「1年で減らすもの1つ」がどうなったかを確認する。減らせていなくてよい。なぜ減らなかったかを話す。来年度の1つを決めて終わる
第3回で扱う「代替案が出ない」問題には、後述のアセスメント5つの視点を使ってください。この順番で進むと、第3回がいちばん実務に効きます。

分割したときの記録の残し方

分割実施でもっとも多い失敗は、4回分を1枚の記録にまとめてしまうことです。これをやると、どの回に誰が出たのかが追えなくなり、欠席者フォローの記載も消えます。

分割実施の記録ルール
  • 1回につき1枚。4回なら研修実施記録は4枚です。時間は「15分」でかまいません
  • 各回に分母と受講者数を書く。第2回だけ受講率が低い、という状態が見えるようにしておきます
  • 第1回の記録に「年次研修として実施」と明記する。第2〜4回は「継続研修」と書き分けておくと、運営指導で要件の充足を説明しやすくなります
  • レジュメは毎回つける。15分でもA4の1枚は作ってください。これがないと内容を証明できません
回数を増やすこと自体が目的になると、続きません。4回が無理なら2回でも構いません。年1回20分でも要件は満たします。続く形を選ぶほうが、計画倒れで記録が飛ぶより、はるかに安全です。

研修を動画にして回す|シフトがそろわない事業所の現実解

全員がそろう時間がどうしても作れないなら、動画にするのがいちばん確実です。視聴でも要件は満たせます(詳しくは後述のFAQ)。ただし「動画を配って終わり」は実施の証明になりません。ここでは、動画で回すときの設計をまとめます。

この記事の【20分版・講師台本】は、そのまま動画のナレーション原稿として使えます。読み上げて20分なので、章ごとに切れば下表の①〜④になります。自作する場合は、台本の〔 〕を自分の事業所の数字に置き換えてから録ってください。

1本は5分以内。4本に割る

20分の動画を1本作ると、途中で止まったまま戻ってこない職員が必ず出ます。5分以内×4本に割ってください。理由は3つあります。休憩時間や送迎の待ち時間に1本ずつ消化できること。未視聴がどこで止まっているかが分かること。そしてあとで必要な章だけ見返せることです。3本目の「押さえたら報告」だけを新人に見せる、という使い方ができます。

動画の章立て(合計18〜20分)
本数 内容 入れるもの
①
5分
定義と3要件 縛ること以外も拘束(立ちふさがり・スピーチロック・薬)。3要件は全部そろって入り口。ここだけは絶対に削らない
②
5分
うちのグレーゾーン 自事業所に関係する場面を3つ。実際の玄関・送迎車・居室の写真を使う(利用者が写っていないもの)。一般的なイラストより圧倒的に効きます
③
3分
押さえたら報告 報告の宛先を実名で言う。「サービス管理責任者の〔◯◯〕さんに、その日のうちに」。ここが動画でいちばん行動を変える3分です
④
5分
記録の書き方 拘束を行った場合に書く5項目と、様式の実物を画面に出す。新人が最初につまずくのはここ
外部の研修動画を使う場合でも、③だけは自事業所で撮り足してください。報告の宛先は事業所ごとに違うので、外部動画では絶対に出てきません。1分の自撮りで構いません。

動画に必ず入れる「自事業所の1枚」

一般論だけの動画は、見ても何も変わりません。視聴後のアンケートが「勉強になりました」で埋まるのは、たいていこれが原因です。次の3つを1枚のスライドにして、冒頭に入れてください。

冒頭1枚に入れる3つ
  • この1年の拘束記録の件数。0件なら0件と出す。数字が出た瞬間に、視聴者の姿勢が変わります
  • 自事業所の指針の冒頭1文。「当事業所は身体拘束を行いません」という方針の宣言。自分の事業所の文書が出てくるだけで、他人事ではなくなります
  • 報告の宛先(役職と氏名)。これを出さない研修動画は、たとえ内容が正しくても行動を変えません

見せっぱなしにしない|視聴後5分の3つの問い

動画の弱点は、一方向で終わることです。判断が割れる場所を見つけるという、この研修の核心が起きません。視聴後に5分だけ、話す場を作ってください。申し送りの最後でも、2人ずつでも構いません。

視聴後に投げる3つの問い(これだけで5分)
  • 「動画に出てきた場面で、うちでも起きていると思ったものはどれですか」——一般論を自分の現場に引き戻す
  • 「グレーだと思ったのはどれですか。何が決まればグレーじゃなくなりますか」——ここで出た言葉が、そのまま委員会の議題になります
  • 「この1年で減らすとしたら、何を1つ選びますか」——1つだけ。紙に書いて出してもらい、研修記録に添付する
この5分が入るだけで、動画研修は集合研修とほぼ同じ実効性になります。逆にここがないと、視聴記録は残っても中身は残りません。

視聴管理表と、記録への書き方

動画研修でいちばん指摘を受けやすいのは「誰が視聴したか分からない」状態です。次の管理表を1枚作り、研修実施記録に添付してください。

様式:動画研修 視聴管理表
氏名 職種 ①②③④ 視聴完了日 確認テスト 話し合い実施日
〔氏名〕 〔職種〕 ☑☑☑☑ 〔 月 日〕 提出済 〔 月 日〕/〔相手〕
〔氏名〕 〔職種〕 ☑☑□□ 未了 — 〔フォロー予定日を必ず記入〕
未視聴者の行を空欄のままにせず、フォロー予定日を書いてください。運営指導で見られるのは「全員が受けたか」ではなく「受けていない人をどう追いかけたか」です。予定日が書いてあれば、未了でも説明が通ります。

研修実施記録の各欄には、次のように書きます。

動画研修の場合の記録の書き方
欄 書くこと
実施方法 「動画視聴(各自視聴)+視聴後の話し合い」と明記。集合研修と書かない
実施日 視聴期間(〔◯月◯日〜◯月◯日〕)と、話し合いの実施日を両方書く
使用資料 動画の名称・本数・合計の尺・配信元(自作なら「自事業所作成」)。レジュメを配ったならその名称も
内容 章立て①〜④をそのまま転記する。ここが1行だと、中身を疑われます
理解度の確認 確認テストの提出状況、または視聴後の話し合いで出た意見を3つほど書く
受講者 視聴管理表を添付し、分母(全従業者数)と視聴完了者数を書く

動画にするときにやりがちな失敗4つ

この4つを避けるだけで、視聴完了率が変わります
  • 1本が長い。15分を超えると完走されません。5分で切る
  • スライドの棒読み。画面の文字をそのまま読むと、見る意味がなくなります。スライドは短く、話すのは具体例。この記事の具体例30から自事業所に近いものを選んでください
  • 自事業所の数字が入っていない。件数も、指針も、報告の宛先も出てこない動画は、外部の研修と同じです。それなら外部のものを買ったほうが早い
  • 確認テストがない。視聴だけでは理解度の確認になりません。◯×10問でよいので、視聴後に提出してもらってください。後述の確認テスト20問から半分を選べば足ります

プログラムの組み立てと準備物|新規採用時15分とフル版90分

身体拘束適正化研修90分のタイムテーブル図。導入10分、基礎講義15分、演習45分、確認テスト10分、まとめ10分

要件を確認したら、次は組み立てです。時間をどう配分するかで、研修の質は9割決まります。講義だけで90分話しても、職員の頭には何も残りません。ここから先は、新規採用時の15分と、研修日が確保できる年のフル版90分、そして全パターン共通の準備物リストです。標準の20分版は前掲の台本をそのまま使ってください。

フル版:90分(法人合同研修・研修日が確保できる年)

身体拘束適正化研修 タイムテーブル(90分)
時間 内容 ねらいと進め方
0〜10分 導入 なぜこの研修をするのか。減算の話から始めない。去年1年間で自事業所に何件の拘束記録があったかを最初に出す
10〜25分 基礎講義 身体拘束の定義(虐待防止法の3類型)、弊害、3要件、手続き4段階、記録すべき5項目。講師台本をそのまま読んでよい
25〜50分 演習①
グレーゾーン判定
12ケースを「該当/非該当/グレー」で判定。3〜4人の小グループで話す。正解を当てることが目的ではなく、事業所内で判断が割れる場所を可視化するのが目的
50〜70分 演習②
3要件あてはめ
自事業所で実際にありそうな1場面を選び、切迫性・非代替性・一時性を文章にしてみる。代替案を3つ書き出す
70〜80分 確認テスト 20問。各自で解いて、その場で答え合わせ。点数は記録に残さない(残すと職員が萎縮して正直に答えなくなる)
80〜90分 まとめ
アンケート
次の1年で何を減らすかを1つだけ決める。アンケート記入。用紙は回収して研修記録に添付

配分の要は演習に45分を割いていることです。講義25分、演習45分、テスト10分、まとめ10分。運営指導で研修内容を問われたときも、演習の成果物(判定シート・代替案の書き出し)が残っていると説明が早くなります。

新規採用時版:15分(入職1か月以内に必ず)

新規採用時の研修は、時間の長さではなく「実施した記録があるか」で見られます。15分で構いません。ただし内容は絞り込んでください。

新規採用時に必ず伝える4点(15分)
  • この事業所は身体拘束をしない方針であること(指針の冒頭を一緒に読む。3分)
  • やむを得ない場合は必ず3要件と組織決定を経ること。1人で判断しないこと(5分)
  • とっさに身体を押さえたら、その日のうちに管理者かサビ管に報告すること(4分)
  • 言葉の拘束も拘束であること(3分)

新人にいちばん効くのは3つ目です。「押さえたら報告」がルールとして最初に入っていれば、隠す文化が育ちません。逆にここを教えずに「拘束はダメ」とだけ言うと、とっさの対応を報告しなくなります。

準備物リスト

当日までにそろえるもの
  • 自事業所の身体拘束等の適正化のための指針(人数分。研修で必ず一緒に読む)
  • 直近1年の身体拘束の記録(件数を数えておく。個人が特定されない形で提示)
  • グレーゾーン判定ワークシート(本記事の12ケース)
  • 確認テスト用紙(20問)
  • 受講者アンケート用紙
  • 研修実施記録の様式(当日その場で受講者欄を埋めるのがコツ。後日集めると必ず抜ける)
  • 欠席者用の資料一式と、伝達研修の受講確認欄

障害福祉の身体拘束 具体例30|場面別に「該当・グレー・非該当」で整理

身体拘束かどうかを判断するフローチャート。本人がやめられるかを確認し、次に目的が身体の保護か行動の制限か職員の都合かで判定する

研修でいちばん求められるのが、この一覧です。高齢者向けの例を1つも入れず、障害福祉の現場で実際に起きる場面だけを30個そろえました。研修では配布資料にして、判定を伏せた状態で先に考えてもらうと効果的です。

判定は目的・必要性・手続きの有無によって変わります。同じ行為でも、医師の意見書にもとづき本人の身体を守るために使っているのか、職員が見ていられないから使っているのかで結論が変わります。この表の「該当」は手続きを踏まずに行った場合の判定です。3要件と手続きを満たせば「緊急やむを得ない身体拘束」として実施は可能ですが、その場合も身体拘束であることに変わりはなく、記録と解除の取り組みが必要です。

居室・生活空間(1〜6)

No 場面 判定 考え方
1 興奮している利用者を居室に誘導し、外から施錠した 該当 「自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する」に当たる。手引きの例示そのもの
2 夜間、他利用者の居室に入ってしまうため、本人の居室を施錠している 該当 身体拘束。ただし国のQ&Aは、行動障害等による夜間の居室侵入防止のための施錠について「頻繁に状態、様態の確認を行われている点に留意」と述べており、3要件と手続きを満たせば実施しうる類型として想定されている
3 居室の前にパーテーションを立て、一時的に出てこられないようにした グレー 本人が乗り越えられる・自分でどけられるなら行動制限の程度は低い。乗り越えられない高さで、出られない状態なら該当。委員会で判断基準を決めておく
4 玄関を常時施錠し、利用者が自由に出入りできない グレー 防犯・安全管理としての施錠は一般的に行われる。ただし「本人が出たいと言っても出さない」運用になっていれば該当。判断の分かれ目は、出たいという意思表示があったときに対応しているかどうか
5 物を壊すため、居室から家具・私物をすべて撤去した グレー 身体の拘束ではないが、生活の質を著しく下げる行動制限。委員会で検討すべき事項。「壊れないものに替える」など代替を検討したかが問われる
6 自傷防止のため、壁や床に保護マットを敷いた 非該当 身体の自由を制限していない。環境調整であり、むしろ拘束を減らすための望ましい手段

自傷・他害への対応(7〜13)

No 場面 判定 考え方
7 他利用者に手が出たため、職員が後ろから両腕を抱えて止めた 該当 「職員が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する」に当たる。とっさの対応でも身体拘束は身体拘束。実施は避けられない場面があるが、その日のうちに記録し報告する
8 頭を壁に打ちつけるため、ヘッドギアを装着している グレー 本人が自分で外せるかが分岐点。外せない・外させないなら該当。厚労省の研修資料では、現場職員が「取り外しが可能という理由でヘッドギアの拘束の同意を取っていない」ことをグレーな支援として挙げている
9 手を噛むため、ミトン型の手袋をつけている 該当 「手指の機能を制限するためにミトン型の手袋を付ける」は手引きの例示そのもの
10 自傷が止まらないため、抑制帯・抑制ボードを使用した 該当 明確な身体拘束。組織決定・個別支援計画への記載・家族同意・記録のすべてが必要。使用基準を段階表(レベル表)にして、現場で判断がぶれないようにしている事業所の例がある
11 他害があるため、他の利用者と別室で食事をとってもらっている グレー 身体の拘束ではないが、社会生活の制限。厚労省の研修資料では、これを職員自身が「グレーな支援」として挙げている。本人にとっての利益か、職員の都合かを委員会で検討する
12 不穏な利用者を居室に誘導するだけで、ほかの対応をしない グレー 同上。「居室に戻す」が唯一の対応になっている状態は要注意。誘導そのものより、その後の支援がないことが問題
13 パニック時に、毛布で包んで後方から抱える対応を統一している 該当 身体拘束。ただし対応を統一し、行動観察シートに記録して評価しているのであれば、適正化のプロセスとしては正しい形。記録し、解除に向けて段階を踏む

食事・排泄・入浴・服薬(14〜20)

No 場面 判定 考え方
14 送迎の時間が迫っているため、拒否している利用者の口に食事を入れた 該当 身体的虐待②の例示「食事の際に、職員の都合で、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる」そのもの。拘束ではなく虐待の類型として整理されている
15 異食があるため、食事中に手を押さえている 該当 身体拘束。代替として、食器を分ける・提供量を調整する・視覚的に手順を示すなどを試したかが問われる
16 異食防止のため、手の届く範囲に物を置かないようにしている 非該当 環境調整。身体の自由は制限していない。ただし居室から生活に必要な物まで消えていないかは別途検討
17 便を触るため、後ろ向きにベルトを締めてズボンを脱げないようにしている 該当 身体拘束。厚労省の研修資料に実例として登場する(事例2)。「保護者も仕方ないとあきらめている」状態が長く続いた事例として紹介されている
18 つなぎ服(介護衣)を着てもらっている 該当 「行動を制限するために介護衣(つなぎ服)を着せる」は手引きの例示そのもの
19 浴槽から出ないため、栓を抜いて出てもらった グレー 身体を押さえてはいないが、本人の意思に反して行動を変えさせている。厚労省の研修資料で、現場職員自身が「グレーな支援」として挙げた実例
20 落ち着かないため、頓服の向精神薬を多めに使っている 該当 「行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる」=身体拘束の例示。いわゆるドラッグロック。医師の指示の範囲内かを必ず確認する

移動・送迎・車いす(21〜25)

No 場面 判定 考え方
21 座位保持装置に付属するベルト・テーブルを使用している 非該当 国のQ&Aは、脊椎の側わんや四肢・関節等の変形・拘縮の進行あるいは防止のため、医師の意見書または診断書により製作し使用していることに留意するとしている。目的が身体の保護であれば拘束とは扱わない
22 立ち上がって転ぶため、車いすにY字ベルトをしている 該当 21とは目的が違う。「立ち上がらせないため」なら行動の制限。装置の種類ではなく目的で判断する
23 送迎車のシートベルトを着用させている 非該当 道路交通法上の義務。安全確保のための通常の措置
24 走行中に外してしまうため、自分で外せない器具でシートベルトを固定している グレー 安全確保の目的があり、代替手段(座席位置の変更、職員の同乗、視覚的手がかり)を検討したうえでの措置なら許容されうる。委員会で検討し、保護者に説明して記録を残す
25 飛び出しがあるため、移動中ずっと手をつないでいる グレー 安全確保として一般的だが、本人が振りほどこうとしても離さない状態が続くなら行動の制限。手をつなぐ以外の方法(歩行ルートの変更、視覚支援、職員の立ち位置)を検討したか

言葉・金銭・その他(26〜30)

No 場面 判定 考え方
26 「座ってて」「ダメ」と繰り返し、動かないようにしている グレー いわゆるスピーチロック。身体には触れていないが、行動を制限している。心理的虐待に当たる場合もある。次の章で言い換えを扱う
27 本人の希望する外出を、人手が足りないという理由で断り続けている グレー 身体拘束ではないが、行動の制限。厚労省の研修資料で職員が挙げた悩み「もっと外へ出してあげたい」に直結する部分。委員会で体制の問題として扱う
28 お金を使いすぎるため、本人の希望があっても財布を渡していない グレー 金銭管理の必要性と自己決定のバランス。支援計画に位置づけ、本人と合意した方法かが分かれ目。無断で管理していれば経済的虐待の疑いも生じる
29 治療時に動いて危険なため、受診時に拘束帯を使用することがある 該当 身体拘束。厚労省の資料では、これを個別支援計画に「治療時に拘束帯を利用せずに受診できるようになる」という達成目標として書く例が示されている。計画に書くのは、やめるため
30 職員の休憩を回すため、利用者全員にソファで待っていてもらう時間が長い グレー 厚労省の研修資料で職員が挙げた「グレーな支援」の1位に近い内容。「現場を回していくために、職員にとって都合の良いようにしてしまっている」という自己申告が実際にある
この30例の使い方(研修での運用)
  • 判定列を空欄にした用紙を配り、3〜4人のグループで話し合ってから正解を開く
  • グレー判定のものは正解を言わない。「うちはどうするか」を委員会の議題に持ち上げる
  • 自事業所に関係のない項目(入所系なら送迎、通所系なら夜間施錠)は削ってよい
  • 逆に、自事業所で実際にあった場面を1〜2個追加すると研修の質が一段上がる。個人が特定されない形に加工すること

スピーチロックとドラッグロック|障害福祉ならではの落とし穴

スピーチロックは障害福祉のほうが起きやすい

言葉で行動を縛ることをスピーチロックと呼びます。もともと介護分野の言葉ですが、障害福祉のほうが起きやすい面があります。理由は2つ。

1つは、指示や制止が支援の一部として日常的に使われていること。「順番ですよ」「今は待つ時間です」という声かけ自体は支援です。しかし、同じ言葉が「動かないでほしい」という職員の都合で使われた瞬間に性質が変わります。言葉が同じなので、本人にも職員にも区別がつきにくい。

もう1つは、児童分野では「しつけ」と混ざること。放課後等デイサービスや児童発達支援では、「ダメ」「やめなさい」が教育的な指導の顔をして入り込みます。

スピーチロックの言い換え20(研修でそのまま配れる形)
つい言ってしまう言葉 言い換え
ちょっと待って あと3分で行きます。この砂時計が落ちたら行きましょう
座ってて この椅子で、この本を見ていてもらえますか
ダメ こっちなら大丈夫です(できることを先に示す)
危ないから触らないで これは熱いので、こちらを持ってください
今は行けません 15時になったら一緒に行きます。時計のここです
やめて 手はここに置きましょう(代わりの動作を示す)
立たないで あと1問で終わりです。終わったら立ちましょう
静かにして 声は、このくらいでお願いします(見本を出す)
勝手に行かないで 行くときは、この札を持っていってください
何回言えばわかるの もう一度、一緒にやってみましょう
あとでね おやつのあとにします。おやつは14時30分です
触らないでって言ったよね 触っていいものは、この箱の中にあります
走らないで ここは歩きます。線のところまで歩きましょう
そこにいて この机で待っていてください。呼びに来ます
うるさい 音が大きいと聞こえにくいので、少し小さくお願いします
まだ終わってないでしょ 残りはこの2つです。終わったら自由時間です
出ちゃダメ 外に行くときは、職員と一緒に行きます。今から準備します
今忙しいから ◯分後に必ず行きます。それまでこれをお願いできますか
いい加減にして いったん止めましょう。こちらの部屋で少し休みます
みんな待ってるよ 次はあなたの番です。準備できたら教えてください

言い換えの共通点は3つです。①時間を数字で示す ②代わりにできることを示す ③否定形を肯定形に変える。この3つだけ覚えれば、その場で自分で言い換えられるようになります。研修では、リストを暗記させるのではなく、この3原則を伝えてから実際に言い換えてもらうほうが定着します。

ドラッグロック:「落ち着かせるための薬」を疑う

厚生労働省の手引きは、身体拘束の例示として「行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる」を明記しています。障害福祉では、行動障害への対応として向精神薬が処方されていることが少なくないため、この線引きは日常業務の中にあります。

研修で確認する3つの問い
  • 頓服の使用基準が文章になっているか。「落ち着かないとき」ではなく「◯◯の状態が◯分続いたとき」まで具体化されているか
  • 使った記録と、使わなかった日の記録が両方あるか。使用回数の推移を委員会で見ているか
  • 「職員が少ない日に使用が増えていないか」。ここに相関があるなら、それは本人の状態ではなく体制の問題

3つ目は研修で必ず出してください。薬の判断は医師のものですが、「いつ使うか」を決めているのは現場です。使用記録を曜日別・職員体制別に並べるだけで、見えてくるものがあります。

【演習】研修で配る設問|グレーゾーン判定12問と3要件あてはめ

演習①:グレーゾーン判定ワーク12問(解答・解説つき)

ここからが研修の本体です。正解を当てるゲームではありません。ねらいは、事業所の中で判断が割れる場所を見つけることです。グループで話し、「うちはどうするか」まで決めてください。

Q1|放課後等デイサービスで、玄関を開けて外へ出ようとした子どもの前に職員が立ちふさがり、10秒ほど体で進路をふさいだ。
解説身体には触れていないが、行動を制限しているため身体拘束にあたりうる。ただし道路への飛び出しという切迫した危険があるなら、緊急やむを得ない場合として整理できる。研修で議論すべきは「その後どうしたか」。ふさいだだけで終わっているなら対応は不十分で、玄関の構造、見守りの立ち位置、出たい気持ちへの対応を検討する必要がある。
Q2|生活介護で、日中ずっと手をつないでいないと外に出てしまう利用者がいる。職員が交代で一日中手をつないでいる。
解説一時性を満たしていないため、緊急やむを得ない身体拘束としては整理できない。これは「支援方法」として常態化している状態。委員会で扱い、環境(出口の位置、目隠し、活動の魅力)を変える取り組みに切り替える必要がある。手をつなぐこと自体が悪いのではなく、それしか方法がない状態が問題。
Q3|グループホームで、深夜に冷蔵庫を開けて食べ尽くしてしまう利用者がいるため、冷蔵庫に鍵をかけている。
解説身体の拘束ではないが、生活の制限。健康上の必要性(糖尿病等)があるなら支援として説明できるが、本人と合意しているか、支援計画に位置づけられているかが分かれ目。無断であれば不適切な支援。代替として、個人用の食品ボックスを用意する、夜食を1つ用意しておくなどが検討できる。
Q4|就労継続支援B型で、作業中に離席が多い利用者の椅子を、机に近づけて動かしにくくした。
解説グレー。本人が自分で椅子を引いて立てるなら環境調整の範囲。立てないように固定しているなら身体拘束。判断の分かれ目は「本人が自分の意思で離れられるか」。この基準は他の多くの場面にも応用できるので、研修で強調するとよい。
Q5|児童発達支援で、パニックになった子どもをクールダウン用の個室に入れ、職員がドアの外に立って開かないよう押さえた。
解説身体拘束にあたる。「自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する」と実質的に同じ。クールダウン室そのものは有効な環境支援だが、外から出られなくした瞬間に隔離になる。研修では「本人が出たいときに出られるか」で線を引くことを共有する。職員は中で一緒に過ごすか、開放したまま見守る形に変えられないかを検討する。
Q6|入浴を強く拒否する利用者に対し、2人がかりで腕を持って浴室まで連れて行った。
解説身体拘束、かつ身体的虐待の②に近い。「本人の利益にならない強制による行為」。入浴は衛生上必要だが、その日でなければならない理由があるか。時間帯を変える、順番を変える、先に足浴から始めるなど、代替を試したかが問われる。清潔保持の必要性と強制は別の話。
Q7|送迎車の中で暴れる子どもがいるため、保護者の同意を得たうえで、自分では外せないベルトを使用している。
解説グレー。走行中の安全確保という切迫性は認められる。ただし保護者の同意だけでは足りない。組織決定、個別支援計画への記載、代替手段(座席位置、同乗職員、乗車時間の短縮、視覚支援)の検討、記録が必要。「保護者が同意しているから大丈夫」は最も危険な考え方で、厚労省の事例でも、保護者が「仕方ない」とあきらめていた状態が長年続いた例がある。
Q8|「トイレは終わってからね」と言って、作業が終わるまでトイレに行かせなかった。
解説スピーチロックであり、生理的欲求の制限。身体には触れていないが、行動を制限している。研修では「これは拘束か?」と問うと議論が深まる。触れていなくても制限は制限という理解を共有する場面。
Q9|自傷が激しい利用者に、本人が自分で外せるタイプのヘッドギアを着けてもらっている。同意書は取っていない。
解説グレー。自分で外せるなら拘束の程度は低いが、厚労省の研修資料では、現場職員自身がこれを「グレーな支援」として挙げている。「取り外しが可能という理由で同意を取っていない」という記述がそれ。実務的には、説明と同意を取っておくほうが安全で、かつ本人・家族との共通理解が進む。
Q10|身体拘束を1件も行っていない事業所で、記録も委員会も指針も何もない。
解説減算の対象になる。記録は「拘束を行った場合」に必要なので0件なら不要だが、委員会・指針・研修の3つは拘束の有無にかかわらず必要。この誤解は非常に多い。研修では最後にこれを必ず確認する。「うちは拘束がないから関係ない」は通用しない。
Q11|送迎の時間が迫っているため、まだ食べている利用者に「早く」と何度も声をかけ、食器を下げ始めた。
解説身体には触れていないが、本人の意思に反して食事を終わらせている。手引きの身体的虐待②「本人の利益にならない強制による行為」に近づく行為で、さらに強く出れば「拒否しているのに口に入れて食べさせる」と地続きになる。研修では「急かす場面」を1日の中から全員で洗い出すと、この問題が自分ごとになる。時間の詰まりは支援の問題ではなく、時間割の問題として扱う。
Q12|同僚が、興奮した利用者を居室に入れて外から扉を押さえているのを見た。声をかけづらく、その場では何も言わなかった。
解説その場で止められなくても、その日のうちに管理者か虐待防止責任者に伝えることが必要。障害者虐待防止法は、虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に市町村への通報を義務づけており、通報したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁じられている。虐待かどうかを判断するのは通報を受けた市町村であって、気づいた職員ではない。研修では「黙ってしまう理由」を先に全員で出してから、この話に入るとよい。

演習②:3要件あてはめワーク(3事例)

演習1で判定の感覚がつかめたら、次は文章にする練習です。実際の記録では、3要件が読み取れるように書かなければなりません。書けないということは、要件を満たしていない可能性があるということです。

ワークシートの使い方
  • 下の3事例から、自事業所に近いものを1つ選ぶ
  • グループで、切迫性・非代替性・一時性をそれぞれ1文で書く
  • そのうえで代替案を3つ書き出す(ここが本番)
  • 書けた代替案のうち「来週から試せるもの」に印をつける
事例A|生活介護。Bさん(30代・重度知的障害)が、隣に座った利用者の髪をつかむ行動が続いている。今日は職員が間に入る前に手が届き、相手が転倒しかけた。職員2名でBさんの両腕を抱えて分離し、約5分後に落ち着いた。
記入例切迫性:他利用者の髪をつかみ、相手が転倒しかけており、頭部打撲の危険が生じていた。
非代替性:声かけによる制止、間に入っての遮断を試みたが接触が続き、その場で分離する以外に接触を止める方法がなかった。
一時性:分離後、発声が止まった時点(約5分)で身体の支持を解除した。

代替案の例:①座席配置を変え、隣に人が来ない位置にする ②髪をつかむ前の前兆(視線・立ち上がり)を行動観察シートで記録し、前兆時点で活動を切り替える ③手を使う活動を先に用意し、手が空く時間を減らす

事例B|放課後等デイサービス。Cさん(小2・自閉スペクトラム症)が、活動の切り替え時に部屋を飛び出し、玄関から道路に向かって走った。職員が追いつき、後ろから抱きかかえて止めた。
記入例切迫性:片側1車線の道路に向かって走っており、車両との接触の危険が著しく高かった。
非代替性:呼びかけでは停止せず、前方に回り込む余裕がなく、身体で止める以外に道路への進入を防ぐ方法がなかった。
一時性:歩道内に戻り、手をつないで歩ける状態になった時点(約30秒)で抱きかかえを解除した。

代替案の例:①活動の切り替えを事前に視覚的に予告する(タイマー・絵カード) ②玄関に二重の扉または職員の立ち位置を固定する ③飛び出しが起きた曜日・時間・直前の活動を記録し、引き金を特定する

事例C|グループホーム。Dさん(40代)が夜間に他利用者の居室に入ってしまうため、22時から6時までDさんの居室を外から施錠している。3年続いている。
記入例切迫性:他利用者の居室に入り、就寝中の利用者に接触する事象が過去に複数回発生している。
非代替性:— ここが書けない
一時性:— 3年継続しており満たさない

この事例のねらい:あえて要件を満たさない例を入れています。3年続いている時点で一時性はありません。非代替性も、この3年で何を試したかが書けなければ主張できません。研修では「書けない欄がある=見直しのサイン」だと伝えてください。厚生労働省の研修資料には、居室施錠を約4年かけて段階的に解除した実例があります。次の章で扱います。

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【確認テスト20問】そのまま配布できる形(解答・解説つき)

研修の最後に10分で実施します。◯×20問。答え合わせはその場で行い、点数は記録に残さないでください。狙いは評価ではなく、誤解の修正です。

確認テスト(◯か×か)
  1. 身体拘束をやむを得ず行うには、切迫性・非代替性・一時性のうち2つを満たせばよい。
  2. 障害福祉サービスの身体拘束適正化委員会は、3か月に1回以上開催しなければならない。
  3. 身体拘束を1件も行っていない事業所は、指針の整備も研修も不要である。
  4. 「座ってて」と繰り返して動かないようにすることは、身体拘束にあたる場合がある。
  5. 職員が自分の身体で利用者を押さえて行動を制限することは、身体拘束にあたる。
  6. 行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させることは、身体拘束にあたる。
  7. 保護者が同意していれば、3要件や組織決定を経なくても身体拘束を行ってよい。
  8. 身体拘束を行った場合は、その態様・時間・本人の心身の状況・緊急やむを得ない理由を記録する。
  9. 虐待防止研修と身体拘束適正化研修は、同じ日にまとめて実施してもよい。
  10. 虐待防止研修と身体拘束適正化研修の記録は、1枚にまとめてよい。
  11. 身体拘束の要件に該当しなくなった場合でも、家族の同意があるうちは継続してよい。
  12. 座位保持装置に付属するベルトは、目的にかかわらずすべて身体拘束である。
  13. 身体拘束を行う場合は、個別支援計画に態様・時間・やむを得ない理由を記載する。
  14. 研修は年1回以上に加えて、新規採用時にも実施する必要がある。
  15. 身体拘束廃止未実施減算は、グループホームでは所定単位数の10%である。
  16. 身体拘束廃止未実施減算は、放課後等デイサービスでは所定単位数の10%である。
  17. 拘束中は常時、秒単位で記録を取らなければならない。
  18. 介助しやすいように職員の都合でベッドに抑えつけることは、身体的虐待にあたる。
  19. 本人が拒否しているのに、職員の都合で口に食事を入れることは、身体的虐待にあたる。
  20. 身体拘束の3要件を満たし手続きを踏めば、その後は解除を検討しなくてよい。
解答と解説
No 答 解説
1 × 3つすべてを満たす必要がある。1つでも欠ければ緊急やむを得ない場合にあたらない
2 × 3か月に1回以上は介護保険の要件。障害福祉は「定期的に」=年1回以上。虐待防止委員会と一体的に運営してもよい
3 × 記録は拘束を行った場合に必要だが、委員会・指針・研修は拘束の有無にかかわらず必要。最も多い誤解
4 ◯ いわゆるスピーチロック。身体に触れていなくても行動を制限している
5 ◯ 手引きの例示そのもの。とっさの対応であっても身体拘束であることに変わりはない
6 ◯ 手引きの例示。いわゆるドラッグロック
7 × 同意は手続きの1つにすぎない。3要件・組織決定・個別支援計画への記載・記録がそろって初めて成立する
8 ◯ 運営基準の求める記録事項。加えて「その他必要な事項」も含まれる
9 ◯ 実施はまとめてよい。虐待防止の取組で身体拘束を扱う場合はみなし規定もある
10 × 記録は必ず分ける。1枚にすると、どちらか一方しか実施していないと判断されうる
11 × 国は「要件に該当しなくなった場合は速やかに解除する」ことに留意するよう明示している
12 × 変形・拘縮の進行あるいは防止のため医師の意見書または診断書により製作し使用している場合は、目的に応じて判断する。装置の種類ではなく目的で決まる
13 ◯ 組織決定とセットで個別支援計画に記載する。解除の目標を立てるための記載でもある
14 ◯ 年1回以上+新規採用時。年度途中入職者の抜けが最も多い
15 ◯ 共同生活援助は居住系のため10%。影響が非常に大きい
16 × 放課後等デイサービスは通所系のため1%。生活介護も1%
17 × 国は「必ずしも常時の記録を求めているわけではない」としている。ただし計画に記載のない緊急の拘束は、状況と対応の記載が重要
18 ◯ 身体的虐待②の例示そのもの。「職員の都合で」が判断の要
19 ◯ 同じく身体的虐待②の例示
20 × 厚生労働省の資料は「要件と手続きを踏めば免罪符となる訳ではない」と明言している。手続きは解除に向けた取り組みの出発点

配点の目安は不要ですが、間違いが多かった問題を委員会の議題に上げると、研修と委員会が自然につながります。実務上、2番・3番・7番・10番・16番はよく間違えます。

研修実施記録・アンケート様式(コピーして使える形)

研修そのものより、記録で落とされる事業所のほうが圧倒的に多いのが実情です。ここでは、そのまま使える2つの様式を示します。どちらも当日その場で埋めることが最大のコツです。

様式1:身体拘束等の適正化のための研修 実施記録

身体拘束等の適正化のための研修 実施記録
事業所名 ◯◯◯◯(指定番号:◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯)
研修名 身体拘束等の適正化のための研修(年次) ※虐待防止研修とは別に記載する
実施日時 令和◯年◯月◯日(◯) 17時00分〜18時30分(90分)
実施場所 ◯◯事業所 活動室 / 一部オンライン併用(◯名)
講師 氏名(職名:管理者/サービス管理責任者/児童発達支援管理責任者 等)
研修のねらい ①障害福祉における身体拘束の定義と3要件を理解する ②自事業所のグレーゾーン場面を共有し、判断基準をそろえる ③緊急やむを得ない場合の手続きと記録の書き方を習得する
内容
(時間配分)
1. 導入・自事業所の拘束件数の共有(10分)
2. 講義:定義/弊害/3要件/手続き4段階/記録5項目(15分)
3. 演習①:グレーゾーン判定ワーク12ケース(25分)
4. 演習②:3要件あてはめと代替案の検討(20分)
5. 確認テスト20問と解説(10分)
6. まとめ・次年度の重点の確認(10分)
使用資料 ①当事業所「身体拘束等の適正化のための指針」
②グレーゾーン判定ワークシート(12ケース)
③確認テスト(20問)
④厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」抜粋
受講者
(氏名・職種)
◯◯◯◯(管理者)/◯◯◯◯(サビ管)/◯◯◯◯(生活支援員・常勤)/◯◯◯◯(同・非常勤)/◯◯◯◯(看護職員)/◯◯◯◯(送迎運転手)
受講 ◯名/全従業者 ◯名 ※「職員一同」は不可
欠席者と
フォロー
◯◯◯◯(非常勤・当日勤務外)
→ 令和◯年◯月◯日に伝達研修を実施(実施者:◯◯/所要30分/資料①〜③使用)。受講確認欄に本人署名あり
受講者の
主な意見
・クールダウン室の扉を押さえるのは拘束だと初めて知った
・送迎車のベルトについて、事業所としての判断を決めたい
・「座ってて」を毎日言っていた。言い換えを試したい
今後の課題
と対応
①送迎時のベルトの取扱いを令和◯年◯月の身体拘束等適正化委員会で協議し、事業所としての判断基準を文書化する
②スピーチロックの言い換えリストを休憩室に掲示し、3か月後に再確認する
記録者・
確認者
記録者:◯◯◯◯  確認者(管理者):◯◯◯◯  作成日:令和◯年◯月◯日

この様式の要点は「受講◯名/全従業者◯名」という分母と、欠席者フォローの欄です。運営指導ではここを見られます。全員受講が理想ですが、現実には無理なので、欠席者をどう拾ったかが書いてあれば通ります。

様式2:受講者アンケート

身体拘束適正化研修 受講者アンケート(無記名可)
  1. 今日の研修で、初めて知ったことを1つ書いてください。
  2. 自分の支援を振り返って、「これはグレーかもしれない」と思った場面があれば書いてください。(誰の話かは書かないでください)
  3. いま事業所で行っている身体拘束・行動制限のうち、解除できそうなものはありますか。あるとすれば、何から始められそうですか。
  4. 解除が難しいと感じるものについて、その理由を書いてください。
  5. 身体拘束や行動制限について、日々悩んでいることがあれば書いてください。
  6. 研修の時間・内容は適切でしたか。(長い/ちょうどよい/短い)
  7. 次回、扱ってほしいテーマがあれば書いてください。

2番と5番が本命です。厚生労働省の研修資料では、実際にこの形式のアンケートから「ソファで過ごす時間が長い」「不穏な利用者を居室に誘導するのみで別の対応を行わない」「取り外しが可能という理由でヘッドギアの同意を取っていない」「現場を回していくために職員にとって都合の良いようにしてしまっている」といった記述が集まっています。ここに出てくる言葉が、次の1年の課題そのものになります。

アンケート結果を話し合うときのグランドルール(そのまま読み上げる)
  • チーム全員を信頼し、オープンであることを心掛ける
  • 参加者全員、一回以上は発言をする
  • 一人ひとりの思いや考え、アイデアについて否定しない
  • アンケート結果について「誰の回答か?」と追及しない
  • 今後、どうすれば虐待や不適切な支援をなくせるのか、その具体的な手だてを考える
  • すぐに改善できる案件については、具体的に期日を決めて計画を立てる
  • 話合いの内容は記録に残す

厚生労働省の研修資料に掲載されているグランドルールです。4つ目を最初に宣言することが重要で、これがないと本音は出ません。

運営指導で見られるポイントと、研修記録のNG5

当日、机に並べる書類

身体拘束まわりで提示を求められる書類
  • 身体拘束等の適正化のための指針(7項目が入っているか)
  • 身体拘束等適正化委員会の議事録(直近1年以上。虐待防止委員会と一体なら、身体拘束の議題が独立していること)
  • 研修実施記録(年次+新規採用時。虐待防止研修とは別葉)
  • 身体拘束の記録(該当があれば。なければ「該当なし」を委員会議事録で確認)
  • 説明・同意書(継続的な拘束がある場合)
  • 個別支援計画(拘束の態様・時間・理由が記載されているか)
  • 運営規程・重要事項説明書(身体拘束に関する記載)

指針に必要な7項目(抜けていないか確認)

身体拘束等の適正化のための指針に盛り込む事項
  • ア 事業所における身体拘束等の適正化に関する基本的な考え方
  • イ 身体拘束適正化委員会その他事業所内の組織に関する事項
  • ウ 身体拘束等の適正化の研修に関する基本方針
  • エ 事業所内で発生した身体拘束等の報告方法等の方策に関する基本方針
  • オ 身体拘束等発生時の対応に関する基本方針
  • カ 利用者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
  • キ その他身体拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針

出典:令和3年度障害者総合推進事業「障害者虐待防止の効果的な体制整備及び精神科医療機関等における虐待防止のための啓発資料の作成と普及に関する研究」(PwCコンサルティング)のチェックリスト。ウの「研修に関する基本方針」が抜けている指針が非常に多いので、まずそこを確認してください。指針の全文サンプルは身体拘束廃止未実施減算を防ぐ対策テンプレートに掲載しています。

研修記録のNG5パターン

NG よくある書き方 どう直すか
①合体 「虐待防止・身体拘束適正化研修」と1枚にまとめている 2枚に分ける。同じ日でよいので、記録は別葉にしてテーマ・ねらい・時間を分けて書く
②職員一同 受講者欄が「職員一同」「出席者:全員」 氏名を全員書く。「受講◯名/全従業者◯名」の分母も書く。送迎運転手・調理員・事務員も従業者
③内容が1行 「身体拘束について研修を行った」 ねらい・内容・時間配分・使用資料を書く。使用資料名が書いてあるだけで説得力が変わる
④欠席者が消える 欠席者の欄がない/「欠席者なし」だが受講者が明らかに少ない 欠席者名とフォローの日付・方法・確認を書く。ここが書いてあると、むしろ管理できている証拠になる
⑤年度末に集中 研修も委員会も全部3月に実施している 月を分散する。3月に固まっていると「形だけ」と見られる。年度当初に月を固定した計画表を作る

この5つは、義務化された研修の全体像をまとめた記事でも詳しく扱っています。採用時研修の組み立て方は採用時研修の実務マニュアルが参考になります。

【フル版・講師台本①】導入〜基礎講義(0〜25分)

ここからは90分のフル版の台本です。研修日が確保できる年、法人合同で実施する年のためのものです。20分で回す場合は読む必要はありません。前掲の【20分版・講師台本】で完結します。

ここからはそのまま読み上げられる台本です。読点で区切ってあるので、ゆっくり読んで約25分になります。太字は間を取る場所です。事業所名や数字は自分の事業所のものに置き換えてください。

パート1:導入(10分)— 減算の話から始めない

[導入・読み上げ]

今日は身体拘束適正化の研修です。最初にお伝えしておきたいことがあります。この研修は、減算にならないためにやるのではありません。減算の話は最後に1分だけします。

まず、数字を1つ見てください。この1年間で、この事業所で身体拘束の記録が残っているのは◯件です。〔※記録がゼロの場合は「0件です」と言う〕

この数字を見て、みなさんはどう思いましたか。「そんなにあったのか」でしょうか。それとも「実際はもっとあるはずだ」でしょうか。

実は、後者だと感じた人がいる事業所のほうが健全です。なぜなら、記録に残っていない小さな行動制限は、どこの現場にも必ずあるからです。とっさに手を押さえた。玄関の前に立ちふさがった。「座ってて」と言って動かないようにした。こういうことは、毎日起きています。

今日の研修の目的は、そういう場面を思い出して、名前をつけることです。犯人探しではありません。誰が悪かったという話は一切しません。今日この場で話したことは、評価にも人事にも使いません。

なぜそこまで言うかというと、身体拘束の問題でいちばん怖いのは、拘束そのものよりも「言えなくなること」だからです。押さえてしまった職員が、責められるのが怖くて黙る。黙ると記録が残らない。記録が残らないと、次に同じ場面が来たときに、また同じ対応をするしかない。そうやって固定化していきます。

だから今日は、「やってしまったことを話しても大丈夫な場」にします。それが一番の目的です。

講師へのメモ:ここで実際に事業所の件数を出すことが重要です。一般論から入ると他人事になります。件数が0件の場合は「0件でした。本当に0件でしょうか、という問いから今日は始めます」と続けてください。むしろそのほうが議論が起きます。

パート2:定義(5分)— 障害福祉で根拠になるのは11項目ではない

[定義・読み上げ]

では基礎の確認です。身体拘束とは何か。

研修でよく配られる「身体拘束の11項目」という一覧があります。ひもで縛る、ミトンをつける、つなぎ服を着せる、車いすにベルトをする、ベッド柵で囲む、向精神薬を過剰に飲ませる、鍵をかけた部屋に入れる——といったものです。

ただし、この11項目はもともと高齢者介護の現場向けにつくられたものです。私たちが根拠にするのは、障害者虐待防止法です。法律にはこう書かれています。

身体的虐待とは、「障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」。

ここで大事なのは、行為の一覧ではなく「拘束かどうか」で書かれていることです。11項目に載っていなくても、身体の自由を奪っていれば身体拘束です。そして正当な理由がなければ、それは虐待です。

厚生労働省の手引きは、身体的虐待を3つに分けています。1つ目は暴力的行為。殴る、蹴る、つねる。これは誰が見ても虐待です。3つ目が身体拘束。縛る、ミトン、つなぎ服、押さえつける、施錠する、薬で鎮静させる。

問題は2つ目です。「本人の利益にならない強制による行為、代替方法を検討せずに乱暴に扱う行為」。例として書かれているのがこれです。

「介助がしやすいように、職員の都合でベッド等へ抑えつける」。「食事の際に、職員の都合で、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる」。

この2つ、悪意でやる人はいません。時間がない。次の送迎がある。食べないと栄養が足りない。全部、理由があってやっています。それでも、手引きは虐待の例として挙げています。

今日みなさんに持ち帰ってほしい問いは、これです。「誰のためにやっているか」。本人のためか、それとも業務を回すためか。この問いだけは、毎日自分に向けてください。

パート2.5:弊害(3分)— 誰が損をするのか

[弊害・読み上げ]

次に、身体拘束をすると何が起きるのかを確認します。厚生労働省の資料は、弊害を4つ挙げています。

1つ目。障害者の能力や権利を奪うことにつながる。動けない時間が続くと、動く力そのものが落ちます。自分で決める機会も失われます。

2つ目。本人の尊厳を侵害し、身体的・精神的な弊害を生む。体の機能の低下、意欲の低下、そして恐怖や不信。

3つ目。家族にも大きな精神的負担。拘束されている姿を見て、平気でいられる家族はいません。「仕方ない」と口にする家族ほど、あきらめているだけのことがあります。

4つ目。ここがみなさんの話です。職員のモチベーションと支援技術が低下する。

押さえることで場が収まると、その方法が定着します。定着すると、他の方法を考えなくなる。考えなくなると、技術が伸びません。そして、押さえている自分を好きになれない人が出てきます。それが続くと、人が辞めます。

つまり身体拘束は、利用者・家族・職員の全員が少しずつ損をする構造になっています。だから「やめましょう」ではなく、「やめたほうが、私たちも楽になる」という話なんです。

パート3:3要件(6分)— 全部そろって、はじめて検討の入り口

[3要件・読み上げ]

次に、やむを得ず身体拘束を行う場合の要件です。3つあります。3つすべてを満たす必要があります。どれか1つでも欠けたら、それは緊急やむを得ない場合ではありません。

1つ目、切迫性。利用者本人または他の利用者等の生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。「著しく高い」です。「危ないかもしれない」では足りません。

2つ目、非代替性。身体拘束その他の行動制限を行う以外に、代替する方法がないこと。ここがいちばん重い要件です。「他に方法がない」と言うためには、他の方法を試していなければなりません。試していないのに「他にない」とは言えません。

3つ目、一時性。身体拘束その他の行動制限が一時的であること。本人の状態に応じて、必要とされる最も短い時間を想定する必要があります。「落ち着くまで」は時間ではありません。「10分」「食事が終わるまで」のように、区切りが言えることが必要です。

ここで、厚生労働省の研修資料に書かれている一文を読みます。これが今日いちばん大事な一文です。

「要件と手続きを踏めば免罪符となる訳ではない」。

そして、こう続きます。「手続きは自問するための時間であり、自分たちの支援力を見直すための時間であり、過ちを犯さないための時間」。

3要件は、拘束を正当化するためのチェックリストではありません。「本当に他に方法はないのか」と自分に問い続けるための道具です。要件を満たしたから終わり、ではなく、そこから解除に向けた取り組みが始まります。

パート4:手続き4段階(5分)— 1人で決めない

[手続き・読み上げ]

3要件を満たしたとして、次は手続きです。4つあります。

1つ目、組織による決定と個別支援計画への記載。個別支援会議などで、組織として慎重に検討します。このとき、管理者、サービス管理責任者、虐待防止の責任者など、支援方針に権限を持つ職員が出席していることが大切だとされています。そして個別支援計画に、身体拘束の態様、時間、緊急やむを得ない理由を記載します。

なぜ計画に書くのか。解除の目標を立てるためです。厚生労働省の資料にはこう書かれています。「身体拘束の解消に向けて取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために行うもの」。つまり計画に書くのは、やめるためです。

2つ目、本人・家族への十分な説明。説明して、了解を得ます。書面を残してください。

3つ目、行政への相談・報告。

4つ目、必要な事項の記録。

この4つの中で、現場がいちばん飛ばしやすいのが1つ目です。忙しいと、その場にいた職員だけで決めてしまう。これは絶対に避けてください。とっさの対応そのものは仕方がない場面があります。しかし、「明日も同じ対応をする」と決めるのは、その場の職員ではなく組織です。

もう1つ。身体拘束の要件に該当しなくなった場合は、速やかに解除すること。これも国から明示されています。一度始めた拘束を惰性で続けない。ここが私たちに問われている部分です。

パート5:記録(4分)— 何を書けばよいのか

[記録・読み上げ]

最後に記録です。基準で求められているのは、「その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項」。

これを現場の言葉に直すと、書くのは5つです。

1、何をしたか。「後ろから両腕を抱えた」「居室の外から施錠した」。動作で書きます。「対応した」「落ち着かせた」では何をしたかわかりません。

2、いつからいつまでか。「14時20分から14時32分まで、12分間」。分単位で書きます。

3、そのときの本人の様子。始めたとき、途中、終わったとき。3点で書きます。「開始時は大声あり、5分後に発声が止まり、12分後に表情がゆるんだため解除」。

4、なぜやむを得なかったか。切迫性・非代替性・一時性が読み取れるように書きます。「他の利用者Aさんに向かって走り出し、Aさんとの距離が1メートル以内だったため」——これが切迫性です。「間に入る、声をかける、離れた場所へ誘導する、を試みたが接近が止まらなかったため」——これが非代替性です。

5、誰が行い、誰に報告したか。

1つだけ注意です。国は「必ずしも身体拘束を行う間の常時の記録を求めているわけではない」としています。ずっと張り付いて秒単位で書け、という意味ではありません。逆に、個別支援計画に記載のない緊急やむを得ない拘束をした場合は、その状況と対応の記載が重要だとされています。計画外の一回こそ、しっかり書く。ここを覚えてください。

なお、ケア記録等への記載については、必ずしも身体拘束を行う間の常時の記録を求めているわけではなく、個別支援計画には記載がない緊急やむを得ず身体拘束を行った場合には、その状況や対応に関する記載が重要である。
(中略)なお、身体拘束の要件に該当しなくなった場合においては、速やかに解除することについてもご留意願いたい。

厚生労働省 事務連絡「障害福祉サービス等報酬に関するQ&A」(平成31年3月29日)身体拘束廃止未実施減算の取扱い 問1

【フル版・講師台本②】演習〜まとめ(25〜90分)

台本①は講師が話すパートでした。ここからは逆です。講師の仕事は話すのをやめて、場を回すことに変わります。ここで話し続けてしまう研修が、いちばん記憶に残りません。以下は演習①・演習②・確認テスト・まとめの逐語台本です。設問そのものは後述の【演習】【確認テスト20問】から印刷して使ってください。

パート6:演習①の回し方(25〜50分/25分)

グレーゾーン判定12問を使います。3〜4人×複数グループに分けてください。分け方には1つだけルールがあります。

グループ分けの3つのコツ
  • 同じユニット・同じ曜日の固定メンバーを同じ卓にしない。同じ場面を同じ見方で見てきた人どうしだと、判断が割れません。割れないと演習になりません
  • 管理職を1つの卓に固めない。1卓に1人ずつ散らす。管理職だけの卓ができると、他の卓が「正解待ち」になります
  • 新人を必ず散らす。「前からそうだった」を知らない人が、いちばん良い質問をします
[演習①・開始の読み上げ]

今からお手元の12問をやります。該当・非該当・グレーの3つで判定してください。

最初にお断りしておきます。この12問に、公式の正解はありません。解説はついていますが、それは「こういう考え方をする」という例であって、みなさんの判断を採点するものではありません。

今日のねらいは、正解を当てることではなくて、この事業所の中で、どこで判断が割れるかを見つけることです。割れたら成功です。割れた問題は、あとで委員会に持っていきます。

進め方です。まず3分、一人で全部に印をつけてください。人の意見を聞く前に、自分がどう思ったかを残してほしいんです。そのあと15分、グループで話してください。最後に全体で共有します。

ひとつだけお願いがあります。「それは虐待ですよ」という言い方はしないでください。そう言われた瞬間に、人は自分のやってきたことを言えなくなります。今日は、言えたほうが得をする場にしたいです。

時間配分は個人3分 → グループ15分 → 全体共有5分 → 講師のまとめ2分です。グループ討議中、講師は座っていてはいけません。卓を回って、次のどちらかを聞いてください。

卓を回るときに使う2つの質問
  • 「それ、うちで実際にありますか」——教科書の話から、自分の事業所の話へ引き戻す質問です
  • 「グレーにした人は、何が決まればグレーじゃなくなりますか」——グレーは思考停止になりやすいので、条件を言語化させます。「本人が自分で外せるかどうか」「支援計画に書いてあるかどうか」といった判断の分かれ目が出てきたら、それがこの研修の最大の成果です

全体共有で、講師が言ってはいけない一言

講師の返し方(言い換え表)
場面 言ってはいけない 代わりにこう返す
解説と違う判定が出た 「それは違いますね。正解は◯です」 「なるほど。そう判断した理由を、もう少し聞かせてください」——理由を言語化させると、本人が自分で修正することが多いです
現にやっている拘束が出てきた 「それ、今すぐやめてください」 「よく出してくれました。今日は結論を出しません。これは委員会の議題にします」——その場で断罪すると、以後だれも出さなくなります
「じゃあどうすればいいんですか」と詰められた 「それは各自で考えてください」 「今この場で答えは出ません。ただ、次の演習②で代替案を3つ書きます。そこで一緒に考えましょう」
だれも発言しない 「どうですか? 誰か?」 「では3卓さん、Q4だけ。該当・非該当・グレー、多数決でどれでしたか」——意見ではなく数を聞くと口が開きます
ベテランが場を仕切ってしまう (黙って見ている) 「◯◯さん、ありがとうございます。この卓で、違う意見だった方いますか」——反対意見を名指しで招待する
全体共有は12問すべてを扱う必要はありません。卓ごとに判定が割れた問題を1つずつ出してもらうのがもっとも効率的で、時間も読めます。
[演習①・締めの読み上げ]

ありがとうございました。いま出てきた「割れた問題」を、ホワイトボードに残しておきます。これは今日の研修の成果物です。

割れたということは、この事業所にまだ決まっていないルールがあるということです。決まっていないから、人によって対応が変わる。対応が変わるから、利用者さんが混乱する。だから決めます。ただし、今日この場ではなく、委員会で決めます。

パート7:演習②の回し方(50〜70分/20分)

ここが90分研修でいちばん効くパートです。自分の事業所の実際の場面を、3要件の文章にしてみます。

[演習②・開始の読み上げ]

次は、うちの話をします。グループで1つだけ場面を選んでください。今この事業所で実際にやっている行動制限か、やりそうになっている場面です。

条件が2つあります。ひとつ、利用者さんの名前は出さない。「Aさん」「食事のときの方」で結構です。ふたつ、職員の名前も出さない。「誰がやったか」は今日の議題ではありません。

選んだら、この3つを文章で書いてみてください。頭の中で「満たしている」と思うのと、紙に書くのとでは、まるで違います。

切迫性——誰に、どんな危険が、どれくらい差し迫っているか。「危ないから」では書けたことになりません。何が、どうなるのかまで書いてください。

非代替性——すでに試した方法を、3つ以上書いてください。試していないなら「他に方法がない」とは言えません。ここが書けないときは、まだ拘束を検討する段階に来ていない、ということです。

一時性——いつ終わるか。何分か、どの場面までか。そしていつ見直すか。日付を入れてください。「落ち着くまで」は一時性ではありません。

書けなくて構いません。書けなかったこと自体が答えです。

15分書かせて、5分で共有します。講師が見て回るときのポイントは1つだけです。非代替性の欄が埋まっているか。ここが空欄のグループには、次の順番で声をかけます。

代替案が出ないグループへの2段階の問いかけ
  • 第1段階「人もお金も無制限にあるなら、どうしますか」——制約を外すと案が出ます。「マンツーマンをつける」「部屋を分ける」「送迎を2便にする」。まずここまで出させます
  • 第2段階「そのうち、来週からタダでできるものはどれですか」——現実に落とします。立ち位置を変える、活動の順番を入れ替える、声をかける人を変える、といった0円の案は必ず1つは出ます。これが委員会に持っていける具体案になります
演習②は、実在の場面を扱う以上、その場で「それは虐待だ」という結論を出さないと最初に宣言しておいてください。宣言しないまま実在の場面を出させると、心当たりのある職員が黙り、当たり障りのない架空の事例しか出てきません。そうなると演習②は成立しません。

パート8:確認テストの回し方(70〜80分/10分)

[テスト・配る前の読み上げ]

最後に◯×20問をやります。先に言っておきます。この点数は記録に残しません。誰が何点だったかも控えません。答案は答え合わせのあと、そのまま持ち帰ってください。

理由を言います。点数を取ると、みなさんは正解しそうな答えを書くからです。それでは誤解が見つかりません。今日見つけたいのは、正解ではなく勘違いしていた場所です。

5分で解いて、5分で答え合わせをします。

答え合わせは20問を順に読むのではなく、間違いが集中する設問だけに時間を使ってください。実際に割れやすいのは次の3つです。ここだけ丁寧に解説すれば、研修の目的の8割は達成されます。

間違いが集中する3問と、その場での解説の言い方
設問 誤答が出る理由 その場での一言
委員会は3か月に1回以上(×) 介護保険の研修資料や外部セミナーで刷り込まれている 「3か月に1回は介護保険の話です。障害福祉は年1回以上。ただし併設事業所は厳しいほうに合わせてください」
放デイの減算は10%(×) 「10%」という数字だけが記憶に残っている 「10%は入所・居住系です。通所・訪問系は1%。ただし1%でも、1年続けば決して小さくありません」
保護者が同意していれば拘束してよい(×) 現場感覚としてもっとも根強い誤解 「同意は手続きの一部であって、3要件の代わりにはなりません。順番は、3要件の検討が先、組織決定が次、説明と同意はそのあとです」

パート9:まとめ(80〜90分/10分)— ここで減算の話を1分だけする

[まとめ・読み上げ]

最後です。今日は、拘束にあたるかどうかを判定して、うちの場面を3要件にあてはめてみました。書けなかったところがあったと思います。それでいいんです。

ここでひとつだけ決めます。これから1年で、減らすものを1つ。グループで1つ、紙に書いてください。「全部見直す」は禁止です。1つだけにしてください。

〔※各グループから1つずつ読み上げてもらい、講師がホワイトボードに書く〕

ありがとうございます。この紙は回収して、研修記録に添付します。そして次の身体拘束適正化委員会の、最初の議題にします。今日決めたことが1年後どうなったかを、来年のこの研修で最初に確認します。

最後に、1分だけ制度の話をします。この研修をやらないと、身体拘束廃止未実施減算がかかります。うち〔◯◯サービス〕は所定単位数の◯%です。年間にすると、だいたい◯◯万円になります。

ただ、減算を避けるために今日集まったわけではありません。今日ホワイトボードに残った「割れた問題」を1つずつ減らしていくと、結果として減算の話は自動的に消えます。順番はそっちです。

アンケートを配ります。3分で結構です。「今日いちばん意外だったこと」だけでも書いてください。ここに書かれたことが、来年の研修の材料になります。

減算の話を最後に置く理由。冒頭で減算額を出すと、その後の90分が「お金のためにやらされている時間」になります。職員が正直な場面を出さなくなり、演習が形だけになります。同じ情報でも、置く位置で研修の質が変わります。

講師が必ず聞かれる3つの質問と、その場での返し方

想定問答(この3つはほぼ毎回出ます)
質問 返し方
「じゃあ本人がケガしたら、誰が責任を取るんですか」 いちばん切実な質問なので、ごまかさないでください。「拘束しないことが正解だとは言っていません。3要件を満たして、組織で決めて、記録を残したうえで行う拘束は、法令上認められています。やってはいけないのは、一人で判断して、記録も残さないことです。責任を個人で背負わないために、委員会と記録があります」
「人が足りないからやっているんです」 否定しないこと。「そのとおりだと思います。だから今日、代替案に0円でできることを入れてもらいました。人を増やす案は委員会から管理者に上げます。今日この場で解決できる話ではないので、解決できない部分は記録に残します。それが次の人員配置の根拠になります」
「昔からこうやってます。何が問題なんですか」 「問題だとは言っていません。ただ、いま同じことを新人に説明できますか。説明できるなら支援です。説明しにくいなら、そこが見直す場所です」——正誤ではなく説明可能性に論点を移すと、対立になりません

研修が終わった直後の10分でやること

ここまでやっても、翌日から何も変わらない研修があります。分かれ目は、終わった直後の10分です。職員が帰る前に、講師が次の3つを片づけてください。

  1. ホワイトボードを写真に撮る。「割れた問題」と「1年で減らすもの」が写っていれば、それが研修の成果物になります。運営指導で「研修の内容は」と聞かれたとき、この1枚がいちばん強い
  2. 演習②の用紙とアンケートをその場で回収する。「あとで出してください」にすると半分しか集まりません。研修記録に添付する分母が崩れます
  3. 次の委員会の日付を、その場で決めて、口頭で言い切る。。「今日出た割れた問題を、◯月◯日の委員会で扱います」と言い切ると、研修が会議につながります
欠席者への対応もこの日のうちに決めます。資料を配って読んでもらうだけでは、受講したことになりません。後日、前掲の【20分版・講師台本】を個別に実施して、日付と実施者を研修記録の欠席者欄に記入してください。欠席者フォローの記載漏れは、運営指導でもっとも指摘されやすい箇所です。

ここからは「素材の引き出し」|研修を厚くしたいときに差し替える

ここまでで、90分の研修は1回まるごと実施できます。初めての年は、ここで読むのをやめても構いません。

以下は、基本形に差し替えて使う素材です。2年目以降で同じ内容の繰り返しを避けたいとき、対象が児童のとき、あるいは演習でどうしても議論が浅くなるときに、ここから持ってきてください。全部を1回の研修に詰め込まないでください。90分に入るのは、多くても1つです。

どれを、いつ差し替えるか
素材 差し替える場所 こういうときに使う
アセスメント5つの視点 演習②の前に10分 演習②で代替案が出ない、「他に方法がない」で議論が止まる事業所。非代替性を説明できるようにする回
事例研究(厚労省) 基礎講義と入れ替え 2年目以降。定義の説明を短くして、実際に拘束が外れた経過を読む回にする
児童の5論点 演習①と入れ替え 放課後等デイサービス・児童発達支援。玄関の施錠とクールダウン室は、成人の例では扱えない
通報義務 まとめの前に10分 虐待防止研修と一体で実施する年。または職員間で言い出しにくい空気があると感じている事業所

拘束を検討する前に:アセスメント5つの視点と、判断を誤らせる罠

身体拘束を判断する前に見る5つのアセスメント視点の図。身体・環境・行動の前後・コミュニケーション・職員側

ここまでは「何が拘束か」の話でした。研修でもう一段深くしたいなら、次はアセスメントです。

現場で拘束の議論になるとき、話題はたいてい「その行動をどう止めるか」に集中します。頭を打つのをどう止めるか。飛び出しをどう止めるか。ところが、止め方の議論をいくらしても答えは出ません。なぜその行動が起きているのかを見ていないからです。

身体拘束の3要件のうち、現場がいちばん説明に困るのは非代替性でした。「他に方法がない」と言うには、他の方法を探していなければならない。その探し方がアセスメントです。

視点1:身体(からだの中で何か起きていないか)

最初に確認すべきは、行動ではなく体調です。言葉での訴えが難しい方ほど、不調が行動に出ます。ここを飛ばして「行動の問題」として扱うと、まったく見当違いの対応を続けることになります。

行動が急に変わったときに、まず疑う身体要因
要因 現れ方 確認すること
痛み 特定の動作・姿勢のときだけ荒れる/触られると手が出る 虫歯、中耳炎、月経痛、爪、褥瘡、打撲。受診歴と、痛みが出そうな部位を触ったときの反応
便秘・排泄 午後になると落ち着かない/周期がある 排便記録。3日以上出ていない日と不穏の日が重なっていないか
薬 処方変更の前後で変わった/日中の傾眠と夜間の覚醒 処方内容と変更日。行動記録に処方変更日を書き込んで並べる
てんかん 発作の前後に別人のようになる/短時間の意識の途切れ 発作記録。「暴れた」の前後30分の様子
睡眠 特定の曜日だけ荒れる/週明けに集中する 家庭での就寝時刻。連絡帳と行動の照合
感覚 特定の音・光・におい・肌ざわりの場面で起きる 場所と時間帯。換気扇、蛍光灯、給食のにおい、他児の声

この表を研修で配ると、それだけで議論が変わります。「押さえるか押さえないか」から「なぜ今日なのか」へ話題が移るからです。実際、不穏の原因が便秘だったというケースは珍しくありません。

視点2:環境(その場の何が引き金か)

同じ人でも、場所が変われば行動が変わります。厚生労働省の事例で居室の施錠が外れていった経過も、突き詰めれば環境を変え続けた記録でした。パーテーション、保護材、職員の動線、活動場所。行動そのものには手をつけていません。

環境で見るチェックポイント
  • 人の配置:誰が近くにいるときに起きるか。職員か、特定の利用者か
  • 動線:人が通るたびに起きていないか。出入口・トイレ・給湯室の前は要注意
  • 音と光:時間帯によって環境が変わる場所はないか(西日、掃除機、送迎車の出入り)
  • 空間の区切り:自分の場所がわかる状態か。境目がないと落ち着けない方は多い
  • 密度:同じ時間に同じ場所へ人が集中していないか。活動の開始時刻をずらすだけで消える行動がある

視点3:行動の前後(ABCで並べる)

行動の前に何があって(きっかけ)、どんな行動が起きて、その後どうなったか(結果)。この3つを並べて記録する方法をABC記録と呼びます。厚生労働省の資料に載っている「行動観察シート」も、時間/場所/何をしている時/周りにいた人/行動/どう対応したか/行動はどうなったかという欄構成で、同じ考え方です。

研修で必ず伝えたいのは「結果」の欄です。叩いたら職員がすぐ来た。大声を出したら苦手な活動が中止になった。この場合、その行動は「うまくいった」ことになります。行動を止めようとして拘束を強めると、本人にとっては要求を伝える唯一の手段を奪われることになる。代わりの伝え方を用意することが、本当の代替案です。

ABC記録の具体的な書き方は強度行動障害の支援計画シート・支援手順書の記入例で詳しく扱っています。

視点4:コミュニケーション(伝える手段があるか)

「嫌だ」「痛い」「やめて」「もう少し待って」を伝える手段が本人にあるか。なければ、行動で伝えるしかありません。

厚生労働省の事例で、逆さのベルトを外したTさんが最終的にたどりついたのも、カードを使った選択の場面を増やすことでした。アイスクリームか、ポテトチップスか、コーラか。どれにしますかと聞かれ、自分で選ぶ。選べる場面が増えると、行動で訴える必要が減るという筋道です。

視点5:私たち(職員側の状態)

最後は自分たちです。これを研修で扱えるかどうかが、その事業所の成熟度を分けます。

職員側のアセスメント
  • 人数:その行動が起きるのは、いつも人が少ない時間帯ではないか
  • 知識:その方の障害特性を、全員が同じように理解しているか。厚生労働省の調査で、虐待の発生要因の1位は教育・知識・技術の不足とされている
  • 対応の統一:職員によってやり方が違っていないか。Tさんのベルトも、締め方が職員によってまちまちだったことが見直しのきっかけになった
  • 疲労とストレス:他害を受け続けている職員がいないか。「つらさ」を見逃さないことが、厚生労働省の研修資料でも重要事項として挙げられている

4つ目は特に大切です。他害を受けている職員は、次第に身構えるようになります。身構えた対応がさらに行動を誘発する。職員のメンタルヘルスは、利用者の身体拘束と直結している——この視点を研修に入れてください。

判断を誤らせる6つの罠

アセスメントの視点を持っていても、思考のクセで判断を誤ることがあります。研修で名前をつけて共有しておくと、現場で「今それかも」と気づけるようになります。

罠 ありがちな言葉 どこが危ないか
①前例の罠 「前からこうしている」「前の施設でもそうだった」 誰も決めていないのに続いている状態。いつ・誰が・どんな検討をして始めたのかを誰も説明できないなら、それは組織決定を経ていない
②同意の罠 「ご家族が同意しているから」 同意は手続きの1つにすぎず、3要件の代わりにはならない。厚生労働省の事例でも、保護者が「仕方ない」とあきらめていた状態が長年続いた
③安全の罠 「安全のためだから」 安全は拘束の理由になりうるが、「安全」と言った瞬間に検討が止まるのが問題。安全を確保する方法は拘束だけではない
④一時性の罠 「落ち着くまでの間だけ」 「落ち着くまで」は時間ではない。期限のない一時性は一時性ではない。気づけば3年続いている
⑤ゼロの罠 「うちは身体拘束はありません」 スピーチロックや一時的な制止が記録されず埋もれている状態。件数ゼロは、ない証明ではなく見ていない証明のことがある
⑥手続きの罠 「同意書も記録もそろっている」 厚生労働省が名指しで否定している考え方。「要件と手続きを踏めば免罪符となる訳ではない」。そろえた先に解除の検討がなければ、書類は形だけになる

「一時性」を限定運用にする書き方

④の罠を防ぐ具体的な方法が限定運用です。始める前に、やめる条件を先に決めて文章にしておく。これだけで一時性は守られます。

拘束を始める前に、先に決めて書いておく4つ
  • 場面の限定:「清掃業者が入館している間のみ」「送迎車の走行中のみ」。いつでもは不可
  • 時間の上限:「1回あたり最長15分」。超えたら管理者に連絡、という線を引く
  • 解除の条件:「発声が止まり、自分で座位を保てた時点」。観察できる状態で書く
  • 見直しの期限:「3か月後の◯月◯日の委員会で再検討する」。日付を入れる

4つ目が効きます。期限が書いてあれば、忘れても議題に上がります。厚生労働省の事例で施錠が段階的に外れていったのも、1か月ごとに評価して委員会で共有していたからでした。

非代替性を満たすために:シーティング・福祉用具・ICTという代替手段

車いすのベルトにつながる悪循環とシーティングの確認6か所を示した図。足の裏の接地・骨盤の位置・座面の奥行と傾き・机の高さ・座る時間

代替案を考えるとき、現場はまず「人手を増やす」を思い浮かべます。しかし人は増えません。だから代替案が出ない、という行き詰まりが起きます。

ここで視点を変えます。拘束の一部は、道具で減らせます。とくに姿勢の問題は、人手ではなく設定の問題であることが多い。

シーティング:ベルトの前に、座り方を見る

車いすのベルトが必要になる場面を分解すると、多くはこういう流れです。

  1. 座面や背もたれが体に合っていない
  2. 座っているうちに骨盤が後ろに倒れ、体が前にずれてくる(ずり落ち)
  3. ずり落ちると危ないので、ベルトで止める
  4. ベルトで止めると、骨盤はさらに倒れる。姿勢はもっと崩れる

ベルトが姿勢の崩れを固定してしまうという悪循環です。ここを断つのがシーティング——椅子と体を合わせる調整です。

その日から確認できるシーティングの基本
見るところ 望ましい状態 崩れているときの対処
足の裏 床かフットレストにしっかり接地している 座面が高いと足が浮き、体が不安定になる。足台を入れる/座面を下げる
骨盤 お尻が背もたれのいちばん奥に入っている 浅く座ると必ずずり落ちる。座り直しの介助を活動の区切りごとに入れる
座面の奥行き ひざの裏に指2〜3本のすきま 深すぎると前にずれる。背中側にクッションを入れて奥行きを調整
座面の傾き お尻側がわずかに低い 水平・前下がりだと滑る。クッションや車いすの調整で角度をつける
テーブルの高さ ひじが自然に乗る高さ 高すぎると肩が上がり疲れて崩れる。低すぎると前かがみになる
座っている時間 同じ姿勢が長すぎない 2時間座りっぱなしなら誰でも崩れる。途中で立つ・姿勢を変える活動を挟む

この確認だけで「ずり落ちるからベルト」の何割かは消えます。研修では、実際に車いすを1台持ち込んで全員で見るのがいちばん効果的です。座ってみると、足が浮いていることの不安定さが体でわかります。

なお、座位保持装置に付属するベルトやテーブルは別の話です。脊椎の側わんや四肢・関節の変形・拘縮の進行あるいは防止のため、医師の意見書または診断書により製作して使用しているものは、身体拘束として一律に扱うべきものではないと国が示しています。拘束かどうかは装置の種類ではなく目的で決まる——この区別を研修で明確にしてください。判断に迷うときは、作成時の意見書・診断書を確認するのが最短です。

福祉用具とICT:見守りを道具に置き換える

「目が離せないから施錠する」「見ていられないから押さえる」。この「見ていられない」の部分は、道具で補える場合があります。

課題 拘束に向かう対応 置き換えの候補
夜間の居室からの
移動が心配
居室を施錠する ドアの開閉センサー、マットセンサーで動いたことがわかる仕組みにする。動いてから対応すれば施錠は要らなくなる場合がある
転落・転倒 ベッド柵で囲む 低床ベッドにして落差をなくす。床に衝撃吸収マットを敷く
自傷(頭部) ヘッドギア、抑制 壁・床の保護材。厚生労働省の事例でも、まず壁と床にクッションとジョイントマットを取り付けることから始めている
外出・飛び出し 玄関を施錠、手をつなぎ続ける 玄関のチャイム、出入口の構造の見直し、外出したい気持ちを満たす散歩の時間を先に組む
見通しが持てず
混乱する
制止する、居室に誘導する 視覚支援(絵カード、タイマー、写真スケジュール)。見通しがつくと、そもそも混乱が減る
記録が追いつかず
実態が見えない
— 掲示ボードに手書きの簡易記録用紙を置く。厚生労働省の事例でも、パソコン入力の不便さが記録漏れを生んでいたため、居室の扉に用紙を掲示して即時記入する方式に変えている
見守りカメラだけは慎重に扱ってください。安全確保に役立つ一方で、居室内の常時撮影はプライバシーの制限です。導入するなら、設置場所・録画の保存期間・閲覧できる人・本人と家族への説明を先に決め、委員会で議事録に残してください。拘束を減らすために別の権利を制限していないか、という点検が必要です。
研修での扱い方
  • この章は年次研修の後半か、2年目の研修に回してもかまいません。1回目は定義と3要件で手一杯になります
  • 短時間で扱うなら、シーティングの6項目だけに絞る。すぐ確認できて、すぐ変えられます
  • 置き換えの表は、自事業所で今やっている対応を左の列に書き足してもらう形にすると、その場で代替案の検討になります

【事例研究】4年かけて居室の施錠を外した実践(厚生労働省 研修資料より)

居室の施錠を4年かけて段階的に解除した経過の図。環境調整から始め、鍵からパーテーションへ、最終的に施錠なしに至る

研修で「拘束はやめましょう」と言うのは簡単です。難しいのは「どうやってやめるのか」。ここでは、厚生労働省の障害者虐待防止研修資料に収録されている実例を使います。作り話ではなく、実際の施設が約4年かけて居室施錠を解除した経過です。研修で読み上げるだけでも、講義30分ぶんの価値があります。

事例1:Yさんの居室施錠が外れるまで

発端(2019年度)

施設入所当初から、不意に他者に手が出ていたYさん。入所から5か月ほどで、誰かがそばに来るだけで手や頭が出てしまう状態になりました。壁への頭突きで怪我をすることも増えます。しかも職員がそばに付き添うことも苦手で、それがさらに行動を誘発する。

ある日、他利用者への他害を防げず、怪我をさせる事故が発生。勤務していた3人の職員はその場で話し合い、Yさんを居室に誘導して施錠しました。その後サービス管理責任者がケース会議を開き、身体拘束等適正化委員会でも議論されましたが、「簡単には解決できない雰囲気」の会議だったと記録されています。

ここまでは、どの事業所にもありうる話です。注目すべきはこの後です。

時期 やったこと 施錠の状況
2019年度 環境調整から始めた。①玄関前の居室へ引っ越し、本人用スペースと他利用者の居住空間を木製パーテーションで分離 ②壁と床にクッション・ジョイントマットを取り付け ③職員が入室する動線に段ボール箱を置いて緩衝材に ④外部の人(清掃業者・医師の回診・見学者)が入る際は居室へ誘導しパーテーション+施錠 1日約2時間
記録をこまめに取ることを統一
2020年度 クッション類を業者製の保護材に変更。職員から「段ボールを外してみたい」という声が出て実行。1週間の評価期間では他害が消失。ただし評価期間外では再び出たため、職員がユニットに入る動線をベランダ経由に変更(居室と支援員室の場所を他害行動と結びつけないため) 1日約2時間
(前年と変わらず)
2021年度 記録の蓄積から「施錠時間を短くできるのではないか」とケース会議。委員会にも報告して助言を得る。①モニターで確認しながら段階的に施錠を外す ②活動班で使うパーテーションは飛び越えないことに着目し、ユニットでも同様に ③居室誘導時は施錠せずパーテーションのみ ④段階的に汎化(ユニット職員が入るときは施錠しない→1か月/他の職員→1か月/外部の人→1か月)。1か月ごとに評価し委員会で共有 段階的に削減
2022年度 居室の中にパーテーションを立てるだけで対応可能に。日中活動の場所も居室から離れた場所で提供できるように 施錠なし
同意書はあるが実績ゼロ
この事例から研修で伝える3つのこと
  • いきなり鍵は外れない。「鍵→パーテーション→何もなし」と段階を踏んでいる。非代替性へのアプローチが、支援プロセスの中に見える形で残っている
  • きっかけは職員の一言だった。「段ボールを外してみたい」。制度でも会議でもなく、現場の違和感が起点になっている
  • 1か月ごとに評価し、委員会で共有している。解除は「やってみて、記録して、評価する」の繰り返し。4年という時間は長いが、その間ずっと記録が続いている

事例2:Tさんの「後ろ向きのベルト」

経過

入所前の施設を訪問してアセスメントを行った際、Tさんはズボンのベルトを後ろ向きにつけていて、自分でズボンの着脱ができませんでした。理由は、激しい自傷(肛門など)を防ぐため。便で体や壁を汚す行動もありました。

入所面談で、保護者も「仕方ないこと」とあきらめておられ、入所後も同様の対応を、という話でした。職員たちは変だと感じましたが、なんとなくその対応を継続して数か月が経過します。

変化のきっかけは、ベルトの締め方が職員によってまちまちで、ときどきズボンがずれていたこと。ある職員が言いました。「もうベルト普通でいいんじゃない?」

制限をやめてみると、激しい自傷はそれほど頻繁ではありませんでした。ただし排便後に体や周囲を便で汚してしまう。Tさんはトイレに座ることに強い拒否があり、便器に一度も座れませんでした。

そこで、20歳を超えてから「トイレで排泄する」という課題に挑戦が始まります。トイレへ行く→便座に座る→居室へ戻る→職員みんなで笑顔でたたえる→アイスクリームを食べる→日中活動へ。この定型的な流れを毎日続けました。「さすがに無理なんじゃないか」「ご褒美のアイスはどうなのか」という声もありました。1年後、うまくできることがほとんどになりました。

現在、Tさんはカードを使って選択の場面を広げています。そしてユニット職員の半数は、かつてベルトを逆さにつけていたTさんのことを知りません。

厚生労働省の資料はこの事例について、「三要件の事前検討については少し甘い事例である。しかし、支援開始後も疑問を持ち続け、一時性に対してアプローチした点は参考になるかもしれない」と率直に評価しています。完璧な事例ではないと国が言っている。ここも研修でそのまま伝えてください。最初から正しくできなくても、疑問を持ち続ければ変えられる、というメッセージになります。

2つの事例が示す、3要件の現場的な意味

切迫性… 現場は、常に安心や安全を保障して対応する。支援の基準。
非代替性… 切羽詰まった状況では代替案が見えない「わからない状態」が起こる。代替案=支援プラン。ここを実践し続けていくことが基本。
一時性… 最も短い拘束時間を想定する=「戒め」。無理だと想定しないことは、実践を継続させていく起点。

厚生労働省「虐待防止するための日常の取り組みについて②〜身体拘束・行動制限の廃止と支援の質の向上〜」

とくに非代替性の説明が秀逸です。「切羽詰まった状況では代替案が見えない『わからない状態』が起こる」。だからこそ、切羽詰まる前に代替案を用意しておく——それが支援計画だ、という論理になっています。研修では、この3行をスライド1枚にして読み上げるだけでも十分に伝わります。

児童(放デイ・児発)で必ず扱う5つの論点

障害児通所支援にも同じ基準が適用され、身体拘束廃止未実施減算(1%)の対象です。ただし、成人サービスの資料をそのまま使うと、児童特有の論点が抜け落ちます。研修では、この5つを必ず入れてください。

論点1:玄関の施錠は拘束か

結論から言うと、防犯・安全管理としての施錠は一般的に必要な措置です。保育所も学校も施錠します。問題は運用のほうにあります。

分かれ目になる3つの問い
  • 子どもが「帰りたい」「外に行きたい」と言ったとき、どう対応しているか。「開けられないから」で終わっているなら、施錠が行動制限として機能している
  • 職員が鍵を開ければ出られる状態か、それとも誰も開けない運用か。後者なら隔離に近づく
  • 施錠の理由を説明できるか。「外部の侵入防止と、道路への飛び出し防止のため」と言えるか。「うるさいから」「見ていられないから」なら不適切

論点2:クールダウン室は「入れる」のか「入る」のか

感覚過敏やパニックに対して、静かな空間を用意することは有効な環境支援です。問題は使い方です。

使い方 判定 理由
本人が自分で入り、自分で出てくる 非該当 本人の選択。むしろ望ましい環境支援
職員が誘導して入り、一緒に過ごす 非該当 支援。出たいときに出られる
職員が誘導して入れ、扉を外から押さえる 該当 実質的に隔離。「自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する」と同じ
鍵をかける/出ようとすると押し戻す 該当 明確な身体拘束
「落ち着くまで出ちゃダメ」と言って出さない グレー スピーチロック。触れていなくても制限

研修で伝える基準は1つで足ります。「本人が出たいときに出られるか」。この問いに「はい」と答えられるなら、クールダウン室は支援です。

論点3:抱え込み(ホールディング)をどう扱うか

他害や自傷のとっさの場面で、後ろから抱えて止める。これは身体拘束にあたります。「職員が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する」に該当するからです。

ただし、やってはいけないと教えるだけの研修は失敗します。目の前で子どもが他児を叩いているとき、職員は止めなければなりません。伝えるべきは次の3つです。

  1. 止めることは必要。ただし、それは身体拘束であると認識すること
  2. その日のうちに管理者・サビ管に報告し、記録を残すこと。隠さない
  3. 同じ場面が繰り返されるなら、それは「とっさ」ではない。予測できるなら予防策を立てる段階に来ている

3つ目が肝心です。月に5回同じ場面で抱え込んでいるなら、それは緊急事態ではなく支援計画の課題です。強度行動障害の支援手順書と記録の書き方で扱っているABC記録(きっかけ・行動・結果)を使うと、引き金が見えてきます。

論点4:送迎車の中

シートベルトの着用は道路交通法上の義務であり、拘束ではありません。問題は「自分で外してしまう子にどうするか」です。

検討の順番
  • まず座席の位置を変えられないか(職員の隣、窓側、最後列を避ける)
  • 乗車時間を短くできないか(送迎ルートの組み替え)
  • 見通しを与えられないか(「◯◯を通ったら次は家」の視覚支援、到着までのカード)
  • それでも外してしまう場合に、自分で外せない器具の使用を委員会で検討。組織決定・保護者への説明・記録をそろえる

順番が大事です。いきなり器具から入ると非代替性が説明できません。「①〜③を試したが走行中の解除が続いたため」と書けて、はじめて要件を満たします。

論点5:「しつけ」との線引き

児童分野に特有の、いちばん難しい論点です。教育的な指導の顔をした制限をどう扱うか。

研修で共有する3つの判断軸
  • 誰のためか。その指導は、子どもが次にうまくやるためのものか。それとも今この場を収めるためか
  • 本人に伝わる形か。「何回言えばわかるの」は、伝える意図がない言葉。伝わらない指導は指導ではない
  • ほかの子にも同じことをするか。特定の子にだけ厳しくなっているなら、それは指導ではなく感情

3つ目を研修で出すと、空気が変わります。責める場にしないために、「誰か個人の話ではなく、疲れているとき誰にでも起きる」という前置きを必ず入れてください。

見て見ぬふりをしないために|通報義務と、同僚の支援に気づいたとき

虐待に気づいたときの報告ルート図。違和感は虐待防止責任者へ、身体に被害があれば市町村へ通報、管理者が関わる場合は直接市町村へ

身体拘束の研修で、いちばん扱われないのにいちばん効くのがこの論点です。自分がやってしまうかどうかではなく、誰かがやっているのを見たときにどうするか。

現実には、多くの人が黙ります。悪い人だからではありません。関係を壊したくない。自分も似たことをしている。忙しくて余裕がない。前からそうだった。黙る理由のほうが、言う理由より圧倒的に多いからです。だからこそ、仕組みで支える必要があります。

通報は「義務」であり、判断ではない

障害者虐待防止法は、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに市町村に通報しなければならないと定めています(第16条第1項)。

研修で必ず伝える3つの事実
  • 「と思われる」で足りる。虐待だと確定させる必要はありません。確かめてから、証拠をそろえてから、ではなく、思われた時点で通報します。虐待かどうかを判断するのは市町村であって、気づいた職員ではありません
  • 通報したことを理由に不利益な取扱いを受けない。解雇その他の不利益な取扱いは法律で禁じられています(第16条第4項)。守秘義務違反にもなりません
  • 努力義務ではなく義務。「できれば報告を」ではありません。気づいた人全員にかかる義務です

ただし、虚偽の通報や、一般の人なら虐待とは考えないような場合は保護の対象から外れます。これは「嘘をつかなければ守られる」ということでもあります。

事業所の中では、どこへ言えばいいのか

法律上の通報先は市町村ですが、現場の実感としては、いきなり市町村に電話するのはかなり重い行為です。だから事業所の中に、先に受け止める窓口を用意しておきます。

場面 まずどうするか
迷う程度の違和感 その日のうちに虐待防止責任者かサビ管に口頭で伝える。「虐待かどうかわからないのですが」という前置きでよい。判断を求めるのではなく、事実を渡す
明らかに不適切だと
感じた
管理者・虐待防止責任者に報告し、記録に残す。報告を受けた側は、委員会に上げる
身体に被害が
出ている
速やかに市町村へ通報。事業所内の手続きを待つ必要はない
管理者本人が
関わっている
直接、市町村へ通報する。内部で止まる構造のときに備えて、この道筋を研修であらかじめ示しておく
最後の行を研修で言えるかどうかが分かれ目です。「管理者が絡んでいたら直接市町村へ」と、管理者自身が研修で口にする。それが、この事業所は本気だというメッセージになります。言いにくければ、指針にその一文を書いておくだけでも意味があります。

「急かしてしまう」を研修の入り口にする

同僚の支援を話題にするのは、どうしても気まずいものです。そこで、誰か個人の行為ではなく、全員に心当たりのある場面から入るのが実際的です。おすすめは「急かす」です。

「急かす」場面の棚おろし(グループワーク15分)
  • 1日のうち、急かしてしまう時間帯を全員で書き出す(送迎前、入浴の順番、給食、活動の切り替え、閉所前)
  • そのとき使っている言葉を思い出す(「早く」「まだ?」「みんな待ってるよ」)
  • 急かした結果、どんな行動が起きているかを並べる(拒否、座り込み、他害、パニック)
  • その行動を止めるために、手を出していないかを確認する
  • 最後に、急かさずに済む方法を1つだけ決める(開始時刻を5分早める、順番を変える、準備を前日にする)

この流れの意味は、「急かす → 行動が荒れる → 止める → 拘束」という連鎖を、全員の目の前でつなげてみせることにあります。拘束は突然起きるのではなく、その手前の時間の詰まりから始まっている。ここが腑に落ちると、代替案の議論が現実的になります。

言える職場にするために、講師がやること

研修の場のつくり方
  • 最初に宣言する:今日話したことは評価にも人事にも使わない。誰の話かは追及しない
  • 講師が自分の失敗から話す:管理者やサビ管が先に「私も急かしていた」と言うと、場が一気にひらけます
  • 「報告してくれてありがとう」を先に決めておく:報告を受けたときの第一声を決めておくと、現場は言いやすくなります
  • 無記名のアンケートを併用する:口では言えないことが書かれます。そこに出た言葉が、次の委員会の議題になります

よくある質問|身体拘束適正化研修(障害福祉)

Q. 講師は誰がやってもいいのですか。外部講師でないとダメですか。

内部の職員で問題ありません。管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、虐待防止責任者などが務めるのが一般的です。資格要件は定められていません。むしろ内部の人が自事業所の場面を使って話すほうが、研修としては効果があります。

Q. 動画視聴やeラーニングでも要件を満たしますか。

満たします。厚生労働省の資料でも、「研修に参加できなかった職員に対しては、研修を録画し、その視聴を促したり、研修の参加者が所内で研修に参加しない職員への伝達研修を実施したりする」という方法が、小規模事業所の効果的な取り組みとして挙げられています。ただし視聴記録を残すことが必要です。誰がいつ視聴したか、感想や確認テストの提出があるか。「動画を配布した」だけでは実施の証明になりません。

Q. 外部の研修サービスを契約しています。それだけで済ませていいですか。

障害福祉向けの研修動画を配信するサービスはいくつもあり、受講管理や受講証明書の発行までできるものもあります。要件を満たす手段としては有効です。ただし、それだけで完結させるのはおすすめしません。理由は2つあります。

外部サービスと自前の研修を組み合わせる
  • 自事業所の場面が出てこない。動画は一般論で作られています。うちの玄関、うちの送迎車、うちのあの場面、という話は出てきません。判断がそろうのは、自分たちの場面で話したときです
  • 受講記録が個人単位で分散する。誰がいつ視聴したかは残っても、「事業所として研修を実施した記録」とは別物です。運営指導では事業所の研修実施記録を求められます

現実的な組み方は、動画視聴を「基礎知識のインプット」に使い、事業所での集まりを「演習と話し合い」に使う形です。動画15分を各自で視聴してもらい、当日は演習だけ30分。これなら時間も取られず、記録も両方そろいます。研修実施記録の「使用資料」欄に動画の名称と配信元を書いておけば、内容の説明も一言で済みます。

Q. 法人単位でまとめて研修をしてもいいですか。

できます。厚生労働省の資料は、小規模事業所の工夫として「法人単位で委員会を設置し、法人が運営や取りまとめをサポートする」「域内で積極的に身体拘束に関する研修を行っている大規模な事業所や法人等があれば、当該事業所が開催する合同研修に参加する」ことを挙げています。ただし研修記録は事業所ごとに残してください。法人本部に1枚あるだけでは、各事業所の運営指導で困ります。

Q. うちは身体拘束をしていません。それでも研修は必要ですか。

必要です。記録の要件は「拘束を行った場合」ですが、委員会・指針・研修の3つは拘束の有無にかかわらず義務です。ここを勘違いして減算になる事業所が最も多いので、研修の確認テストにも入れています。

また実務的には、「拘束ゼロ」と思っている事業所ほど、スピーチロックや一時的な身体の制止が記録されずに埋もれています。研修で場面を洗い出すと、たいてい何件か出てきます。それは悪いことではなく、見えるようになったという前進です。

Q. 送迎の運転手やパートも受講対象ですか。

対象です。基準は「従業者に対し」と書かれており、雇用形態で区別していません。送迎運転手、調理員、事務員も含みます。とくに送迎中は職員の目が少なく、身体拘束が起きやすい場面でもあります。短時間版でよいので必ず実施してください。

Q. 研修の時間に決まりはありますか。

時間数の定めはありません。15分でも要件上は「実施した」ことになります。ただし内容が伴わなければ意味がないので、年次研修は60〜90分、新規採用時は15〜30分を目安にするとよいでしょう。

Q. 介護保険と障害福祉を併設しています。研修は1回でいいですか。

実施は1回でも構いませんが、要件の厳しいほうに合わせてください。とくに委員会の頻度が違います(介護保険=3か月に1回以上、障害福祉=年1回以上)。記録も、どちらの事業所の従業者が何名受講したかがわかる形にしておく必要があります。

Q. 減算になったら、いつから適用されますか。

運用は指定権者によりますが、一般に要件を満たしていない事実が生じた月から、改善が確認された月まで減算が続きます。さかのぼっての返還を求められる場合もあります。グループホームで10%となると影響が大きいため、「昨年度の研修記録が1枚もない」と気づいた時点で、まず所管自治体に相談するほうが結果的に傷が浅くなります。

Q. 開設したばかりで職員が3人です。委員会は成立しますか。

成立します。人数要件はありません。厚生労働省の資料は、法人単位での設置、虐待防止委員会との一体的な運営、既存の会議体(事業所会議やケースカンファレンス)に併せての実施、オンライン会議の活用を挙げています。また第三者や専門家(精神科専門医、看護職員など)の活用に努めることとされており、この第三者には自立支援協議会を構成する他事業所も当たると考えられる、とされています。

まとめ:研修は「拘束をやめるための会議の入り口」にする

最後に要点を置きます。

この記事の要点
  • 高齢者向け資料の流用は危険。委員会は障害福祉=年1回以上(介護保険は3か月に1回以上)、減算は入所・居住系10%/通所・訪問系1%
  • グループホームは10%、生活介護・放デイ・児発は1%。生活介護を10%側と誤解しやすい
  • 要件は記録・委員会・指針・研修の4つ。拘束が0件でも委員会・指針・研修は必要
  • 研修の実施はまとめてよいが、記録は虐待防止と必ず2枚に分ける
  • 障害福祉の場面は自傷・他害・異食・飛び出し・不潔行為。高齢者向けの転倒・徘徊ではない
  • 厚生労働省の資料が明言している一文は「要件と手続きを踏めば免罪符となる訳ではない」
  • 手続きは4段階。組織決定と個別支援計画への記載は「やめるため」に行う
  • 記録に書くのは何をしたか・いつからいつまで・そのときの様子・なぜやむを得なかったか・誰が行い誰に報告したかの5つ
  • 拘束の判断の前に身体・環境・行動の前後・コミュニケーション・職員側の5視点でアセスメントする。非代替性はここで作られる
  • 「ずり落ちるからベルト」の何割かはシーティングで消える。足の接地と骨盤の位置から見る
  • 虐待を受けたと思われる段階で通報義務が生じ、通報を理由とする不利益な取扱いは禁じられている。判断するのは市町村

研修をやっただけでは、現場は何も変わりません。変わるのは、研修で出た「グレーかもしれない」という声を、委員会が拾ったときです。厚生労働省の事例で居室の施錠が外れたきっかけは、制度でも通知でもなく、職員の「段ボールを外してみたい」という一言でした。

だから研修の最後に決めることは1つで十分です。「次の委員会で、何を議題にするか」。アンケートの2番と5番に書かれた言葉から1つ選んで、日付を入れる。それだけで、研修は書類から実務に変わります。

そして今日すぐできることを1つ挙げるなら、直近1年の研修記録を並べて、虐待防止と身体拘束が1枚になっていないかを確認することです。1枚になっていたら、今年から分けてください。それだけで、次の運営指導の指摘が1つ減ります。

出典・参考

・厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 地域生活・発達障害者支援室 虐待防止専門官/障害福祉専門官 松崎貴之「身体的拘束等の適正化の推進」
・厚生労働省「虐待防止するための日常の取り組みについて②〜身体拘束・行動制限の廃止と支援の質の向上〜」(障害者虐待防止研修 資料)
・厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月)
・厚生労働省 事務連絡「障害福祉サービス等報酬に関するQ&A」(平成31年3月29日)
・障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)
・児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成24年厚生労働省令第15号)
・令和3年度障害者総合推進事業「障害者虐待防止の効果的な体制整備及び精神科医療機関等における虐待防止のための啓発資料の作成と普及に関する研究」(PwCコンサルティング合同会社)
・愛媛県「身体拘束廃止未実施減算について」
・大阪市「身体拘束廃止未実施減算の取扱いについて」

本記事は2026年9月時点の制度にもとづいています。減算率の区分や記録様式の細部は指定権者(都道府県・政令市・中核市)により運用が異なる場合があるため、最終的な判断は所管自治体の集団指導資料をご確認ください。

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室長:ユイン
室長:ユイン
介護福祉士・保育士・サビ菅

福祉の専門知識 × 現場10年 × 4児パパ。
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グループホーム・放課後等デイサービスの施設長・管理者を20代から経験。現在も現場の最前線に立ちながら、4人の子どもを育てる6人家族の父として、福祉と子育ての両方をリアルな目線で書いています。

  • 支援歴10年以上、管理職は20代後半から GH施設長 / 放課後等デイ管理者
  • 実務者研修・強度行動障害研修の講師資格あり 研修講師として登壇経験多数
  • 4人の子どもを育てる現役の福祉職パパ 6人家族 / 子育て × 仕事の両立を実践中
資格
  • 介護福祉士
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  • サービス管理責任者
  • 3級ファイナンシャル・プランニング技能士
  • 実務者研修教員講習会修了
  • 強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践)
  • 防火管理者(甲種)
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