【介護福祉士が警鐘】2040年、57万人不足の衝撃!国の「本音」と介護の未来を徹底解説
「介護職って、これからも仕事はなくならないし安泰だよね?」 「ニュースで人手不足って聞くけど、自分には関係ないかな…」

その認識、今すぐ捨ててください。 現役の介護福祉士として断言します。今起きているのは「人手不足」ではなく、「人材消滅」です。
私は介護福祉士として、またサービス管理責任者として、日々現場で「人」の大切さを痛感しています。そして同時に、「人が足りない」という現実にも直面しています。
そんな中、厚生労働省が将来の介護人材確保について議論している「福祉人材確保専門委員会」の資料(議論の整理令和7年11月11日)を読み込みました。
そこには、私たちが直面している危機と、国が考え始めた対策、そして激しい内部対立が赤裸々に記されていました。
これは、介護職の仲間たち、そして将来の介護に不安を持つすべての人に知ってほしい「不都合な真実」です。
1. 2022年ショック:介護職員が初めて「減った」という事実

まず、私が厚生労働省の「福祉人材確保専門委員会」の資料を読み込み、最も衝撃を受け、そして「ついにこの日が来たか」と絶望にも似た感情を抱いた事実からお伝えします。
資料の1ページ目。そこには、あまりにも淡々と、しかし恐ろしい事実が記されていました。
(介護職員数は)2022年度(約215.4万人)から2023年度(約212.5万人)にかけて、約2.9万人減少(制度開始以来初)。
「2.9万人、減った」。
この一文が持つ「本当の恐ろしさ」に、どれだけの人が気づいているでしょうか。 「日本の人口全体が減っているんだから、当たり前じゃない?」 「たった2.9万人、誤差の範囲では?」
もし、あなたが少しでもそう思ったなら、その認識は「今日、この瞬間」に根本から改めていただく必要があります。
これは、「事件」です。
なぜ、私が介護福祉士として、これほどまでにこの数字に震え、危機感を覚えるのか。 その理由を、3つの側面から徹底的に解剖します。
1. 「2.9万人」は”たかが”ではない。最悪の「純減」である
まず、この「2.9万人」という数字の「質」がいかに恐ろしいか、という話です。
これは、定年退職などで「自然に減った」数ではありません。 毎年、介護福祉士の専門学校や、未経験からこの業界に飛び込んでくる「新規参入者」も大勢います。 この「2.9万人減少」というのは、その「新しく入ってきた人の数」よりも「辞めていった人の数」が2.9万人も上回った、という「純減」なのです。
ダムに例えましょう。 ダムには常に新しい水(新規参入者)が流れ込んでいます。 それなのに、ダムの水位(総職員数)が減った。 これは、流れ込む水量を遥かに上回る「穴(離職者)」が、ダムの底に開いていることを意味します。
しかも、考えてみてください。 介護を必要とする高齢者の数は、今この瞬間も増え続けています。
- 介護の「需要」:爆発的に増加
- 介護の「供給」:史上初の減少
需要と供給のバランスが、最も最悪な形で「逆転」した。 これが2022年ショックの本質です。
「たかが2.9万人」ではありません。 増え続けなければならないものが、減り始めた。 これがどれほど異常な事態か、お分かりいただけるでしょうか。
2. 「神話」の崩壊:2000年から続いた”当たり前”の終わり
この「減少」が、「制度開始以来初」であるという事実。 これこそが、私が「歴史的事件」と呼ぶ最大の理由です。
2000年(平成12年)、介護保険制度がスタートしました。 そこから約四半世紀。 日本の経済は、リーマンショックや長期デフレなど、幾度とない不況に見舞われました。製造業や小売りが「派遣切り」や「雇い止め」に喘ぐ中でも、介護業界だけは一貫して「求人があり続ける」場所でした。
皮肉な言い方になりますが、介護業界は、日本の高齢化を背景に、あらゆる不況期において雇用の「最後の受け皿」として機能してきたのです。
「食いっぱぐれることはない」 「資格さえ取れば、仕事はある」
それが、良くも悪も、この業界の「当たり前」であり「神話」でした。
その神話が、2022年、崩壊しました。
なぜか。 理由は、資料の最後のページ(p.20)に、専門委員会の「本音」として書かれています。
処遇改善なしに人材確保はなしえず、全産業で賃上げが進んでいる中で、福祉・介護分野の処遇改善が進まない限り、(中略)人材流出につながることに対する懸念が多くの委員から示された。
私の言葉で、もっと生々しく翻訳します。
「介護職は、他の産業との『賃金競争』に完敗した」
これに尽きます。 コロナ禍を経て、物流、飲食、小売り、配送…あらゆる産業が「人手不足」に陥り、人材を確保するために時給を上げ、賃金を上げました。
その中で、介護業界だけが、国の定める「介護報酬(公定価格)」という足枷によって、世の中の賃上げスピードに全くついていけなかった。
「雇用の受け皿」だった介護業界が、今や、他産業へ人材を奪われる「流出元」に転落した。 これが、「制度開始以来初」という言葉の、本当の意味なのです。
3. 現場の「肌感覚」が「統計」になった日
私のような現場の人間…介護福祉士やサービス管理責任者にとって、この「2.9万人減少」という数字は、もう一つの特別な意味を持ちます。
それは、「俺たちの“肌感覚”は、正しかった」という、絶望的な確信です。
この数年間、私の現場でも、信じられない光景が日常でした。
- ハローワークに求人を出しても、応募者が「ゼロ」の日が何か月も続く。
- ようやく面接に来てくれたと思ったら、「スーパーのレジ(時給1300円)と迷っています」と、国家資格の職場が比較対象にされる。
- 10年選手のベテラン介護福祉士が、「パパ、ごめん。子どもの学費のために、給料が良いから」と、夜勤のない物流倉庫の管理職に転職していく。
「人が来ない」「仲間が辞めていく」。 「もう限界だ」「このままでは施設が回らない」。
私たちは、ずっとそう叫び続けてきました。 しかし、それは「どこの業界も人手不足なんだから、甘えるな」「お前たちの職場の魅力がないだけだ」と、個別の問題として片付けられてきたように感じます。
しかし、この厚生労働省の統計は、違いました。
「私たちの肌感覚は、気のせいではなかった」 「これは、日本全国で起きている“危機”であり、構造的な『賃金敗北』が原因だ」
国の統計が、私たちの「肌感覚」に追いついた。 それは、ある種の「安堵」であると同時に、 「国レベルでこの事態なのに、今まで何をしていたんだ」 「これからどうするんだ」 という、深い絶望と、怒りの始まりでもありました。
2040年、「57万人不足」という絶望的な”計算書”
前回、私たちは「2022年ショック」として、介護職員数が制度開始以来初めて「マイナス2.9万人」に転じたという、歴史的な”事件”の深層を見ました。 それは、介護業界が他産業との「賃金競争」に敗北し、雇用の「受け皿」から「人材流出元」に転落した瞬間でした。
その「今、減り始めている」という冷厳な現実を踏まえた上で、次に私たちが直視しなければならないのが、厚生労働省が同じ資料の中で示す「未来予測」です。
資料(p.15)には、こう示されています。
2040年度には約272万人の介護職員が必要(2022年度(約215.4万人)に対し、約57万人の増加が必要)。
2040年。今から約15年後。 その時、私たちは今よりも57万人も多くの介護職員を確保しなければ、この国の介護インフラは維持できない、と国は言っているのです。
私は、サービス管理責任者として現場の採用の厳しさを知る人間として、この数字を見たとき、怒りを通り越して、乾いた笑いが出そうになりました。
冗談じゃありません。
頭をクリアにして、もう一度、現実と国の目標を並べてみましょう。
- 現実(今): 1年間で2.9万人「減って」いる。
- 国の目標(未来): 18年間(2022→2040年)で57万人「増やせ」。
計算してみましょう。 57万人 ÷ 18年 = 年間 約3.16万人。
今、まさに「マイナス2.9万人」という歴史的な敗北を喫したこの瞬間に、国は私たちに「明日から毎年3万人以上、純増させ続けろ」と要求しているのです。
これは「机上の空論」ですらありません。 もはや「ファンタジー」です。
「目前の危機」を直視せよ
「2040年なんて、まだ遠い未来だ」と思いますか? いいえ、違います。 資料(p.15)は、もっと手前の、”直近の絶望”も示しています。
- 2026年度(たった数年後)までに、16万人増やせ。
- 2030年度(6年後)までに、31万人増やせ。
毎年、何万人も「純増」させる。 介護福祉士の私から言わせれば、それは「奇跡」です。
なぜなら、「純増」させるためには、辞める人(離職者)の数を、新しく入る人(新規参入者)の数が「圧倒的に」上回り続けなければなりません。 しかし、現実(前回分析)は? 「賃金敗北」によって、新規参入者が減り、離職者が増え、「純減」が始まっているのです。
時給1,300円のスーパーのレジに、国家資格である介護職が給与で負けている。 この根本的な構造を変えない限り、「毎年3万人純増」など、どうやって実現するのでしょうか。
なぜ、これが「あなたの人生設計」を破壊するのか
「57万人不足」がファンタジーだと、なぜ私がこれほどまでに強く警告するのか。 それは、この数字が達成できなかった時、その「ツケ」を払うのが、今まさに現役で働く、私たち家族だからです。
2040年とは、どういう時代か。 団塊ジュニア世代、すなわち今まさに子育てや仕事で奔走している私たち(40代~50代)が、70代に差し掛かり、介護を必要とし始める時代です。
つまり、「57万人不足」とは、 「あなたが介護を必要とするとき、あなたを介護するプロはいませんよ」 という、国からの「計算書」なのです。
社会インフラとしての「介護」が崩壊する。 それは、具体的に、あなたの生活にこう影響します。
- 親が倒れても、施設に入れない。(人手不足で受け入れ停止)
- ヘルパーを頼みたくても、事業所が潰れている。(人手不足で倒産)
- デイサービスが使えず、親が自宅に閉じこもりになる。
その結果、どうなるか? 「介護離職」です。
家族を守るために働いているあなたが、仕事を辞めて、親の介護をするしかなくなる。 あなたの「人生設計」は、その瞬間、音を立てて崩れ落ちます。
「57万人不足」は、遠い未来の統計数字ではありません。 15年後に、あなたの家族に突き付けられる、破滅的な「請求書」なのです。
3. なぜ?地域で4倍違う「採用格差」の闇

私は「2040年に57万人不足」という、国が示す絶望的な未来予測を分析しました。 では、なぜ、今、この瞬間も「人」が来ないのか。
その答えの根幹に迫るのが、厚生労働省の資料が示す、3つ目の「不都合な真実」です。
全国の介護職の有効求人倍率は4.02倍(令和7年9月時点)。(※全職業の平均は1.10倍)
まず、この数字の異常性を認識してください。 全職業が「1人の求職者を1.1社が取り合っている」のに対し、介護業界は「1人の求職者を4社で奪い合っている」状態です。 これだけでも、すでに「普通の採用」ができないレッドオーシャンであることが分かります。
しかし、私が「闇が深い」と指摘したいのは、この「4.02倍」という”平均値”そのものです。
この数字は、現場の危機感を麻痺させる「罠」でしかありません。 なぜなら、資料(p.14)には、こう続きが書かれているからです。
都道府県別に見ると「2倍台から8倍台まで」
「有効求人倍率8倍」= 市場の”死”
私は、介護福祉士であり、サービス管理責任者(サビ管)として、事業所の採用面接も担当してきました。 その「現場感覚」から、この数字が何を意味するか、生々しく翻訳させてください。
- 有効求人倍率 2倍台(マシな地域): 「厳しいが、まだ”戦える”。ハローワークに求人を出し続ければ、数ヶ月に1人、応募の電話が鳴るかもしれない。面接に来てくれたら奇跡。給与以外の『働きやすさ』『理念』で必死に口説き落とすレベル」
- 有効求人倍率 4倍台(全国平均): 「ほぼ”戦えない”。応募の電話は鳴らない。人材紹介会社に高額な手数料(年収の30%など)を払って、ようやく1人採用できるかどうか。しかし、その採用コストは介護報酬で賄えず、経営を圧迫する」
- 有効求人倍率 8倍台(最悪の地域): 「“市場が死んでいる”。8つの事業所が、1人の求職者を奪い合う? 冗談ではありません。そもそも、その地域に『今の条件で介護職として働こう』という人材が、もはや存在していないのです。ハローワークの求人票は”壁紙”と化し、人材紹介会社からも『その地域には紹介できる人がいません』と断られる。もはや『人手不足』ではなく、『人材枯渇』です」
| 有効求人倍率 2倍台(まだマシ) | 有効求人倍率 8倍台(地獄) | |
| 採用状況 | 奇跡的に応募があるかも | 応募ゼロ・紹介会社もお手上げ |
| ライバル | 地域の零細企業 | 高時給の物流・大手工場 |
| 未来 | なんとか維持 | インフラ崩壊(介護難民発生) |
有効求人倍率8倍とは、もはや「どうやって採用するか」という戦略の問題ではないのです。 その地域で、介護という社会インフラが「機能不全」に陥っているという「死亡宣告」に等しいのです。
なぜ、こんな”地獄”のような格差が生まれるのか?
「2倍」の地域と「8倍」の地域。 なぜ、同じ日本で、これほどの格差が生まれるのでしょうか。
それは、第1章で分析した「賃金敗北」が、地域によって不均一に発生しているからです。
考えてみてください。 介護サービスの価格(介護報酬)は、物価や人件費が日本一高い東京でも、最低賃金が低い地方でも、「ほぼ同じ」です。 しかし、介護職が”奪い合われる”ライバルは、地域によって全く異なります。
- ライバルが弱い地域(2倍台): 他に目立った産業がなく、最低賃金も低い。相対的に「介護職でも、まだマシな給料だ」と見なされ、人が集まる(かもしれない)。
- ライバルが強い地域(8倍台): 物流センター、大規模工場、観光業など、介護以外の「人手を欲する産業」が元気。それらの産業は、需要があれば自由に時給を1,400円、1,500円と上げていきます。 一方、介護事業所は「介護報酬」という”国の固定給”で戦うしかない。
「公定価格」VS「市場価格」
この、絶対に勝てない「賃金競争」に、真正面から巻き込まれている。 それが、「8倍台」という地域の”地獄”の正体です。
全国一律の「処遇改善(月6,000円アップ)」といった”微修正”では、もはや焼け石に水。 時給1,500円の物流倉庫に勝てるはずがないのです。
あなたの「人生設計」と「介護格差」
この「採用格差」は、あなたの「人生設計」に、極めて具体的なリスクをもたらします。
それは、「あなたの実家は、どの都道府県にありますか?」という問いです。
もし、あなたの親が「8倍台」の都道府県に住んでいるなら。 それは、あなたの親が倒れた時、 「ベッドは空いているのに、人手不足で特養に入れない」 「ヘルパー事業所が、人手不足で閉鎖した」 という事態に直面する確率が、極めて高いことを意味します。
その結果、どうなるか? 「介護離職」です。
あなたが、6人の家族を守るあなたが、仕事を辞めて、親が住む「8倍台」の地域にUターンし、介護をするしかなくなる。 あなたの「人生設計」は、国の制度設計の「矛盾」によって、強制的に書き換えられてしまうのです。
これは、脅しではありません。 「8倍台」という数字が示す、冷厳な「未来のリスクマップ」なのです。
4. 国はどうする?現場目線で斬る「3つの対策」

これまで、介護業界がいかに「賃金敗北」し、絶望的な「人材不足」と「地域格差」に直面しているかを分析してきました。
「もう打つ手なしなのか…」
そんな絶望的な状況に対し、国(福祉人材確保専門委員会)も、ようやく重い腰を上げ、いくつかの「対策」を打ち出しています。 しかし、その中身は、私たちの現場感覚と合っているのでしょうか?
私、介護福祉士・サービス管理責任者として、特に注目した「3つの対策案」について、期待と不安を込めて、徹底的にメスを入れます。
① 介護助手(タスクシフト)は「専門性」の鍵
まず、最も具体的で、すぐにでも現場が変わる可能性を秘めているのが、これです。
介護助手(元気な高齢者や未経験者など)の活用(清掃、洗濯、配膳、ベッドのシーツ交換などの「周辺業務」を切り出す)
資料には、これを「介護の専門性の明確化に繋がる」と、はっきり書いています。 私は、この一点において、国と完全に「同意見」です。
「介護福祉士は、国家資格だぞ」 現場で働く仲間たちは、皆プライドを持っています。 しかし、現実はどうでしょう。
人手不足の現場では、介護福祉士が、掃除機をかけ、洗濯物をたたみ、配膳・下膳に追われ、シーツ交換に走り回る……。 もちろん、それらもケアの一環です。しかし、業務時間の半分以上が、資格がなくてもできる「周辺業務」に費やされているとしたら?
その間、本来やるべき「専門的なケア」が、おざなりになっている。
- 利用者Aさんの「最近、夜眠れていない」という小さなつぶやきを深掘りする「アセスメント(課題分析)」。
- Bさんの「最期は家で」という願いを叶えるための、ご家族や看護師との「カンファレンス(会議)」。
- 認知症のCさんが不安にならないための「ケアプランの個別見直し」。
これこそが、介護福祉士という「専門職」にしかできない、中核業務(コア業務)のはずです。 「介護助手」の導入は、単なる人手不足の穴埋めではありません。
私たち介護福祉士が「何でも屋」から脱却し、本来の「専門職」として利用者に深く向き合うための「時間」を生み出す、極めて重要な”戦略”なのです。
「介護福祉士は、シーツ交換をしなくていい」という意味ではありません。 「介護福祉士”しか”いないから、シーツ交換”も”やらざるを得ない」という絶望的な状況から、私たちを開放する「鍵」。 それが「介護助手(タスクシフト)」だと、私は確信しています。
② 「山脈型キャリアモデル」でキャリアの行き詰まりを防ぐ
次も、非常に重要な提言です。 「介護職って、どうやってキャリアアップするの?」 この問いに、私たちは長年苦しんできました。
これまでのキャリアパスは、あまりにも一本道でした。
「富士山型キャリアモデル」例: 現場職員 → チームリーダー → 主任 → 管理者(施設長)

この「一本道」は、2つの大きな問題を生みます。
- ポストの渋滞: 「管理者」という山頂は一つしかない。上の人が辞めない限り、自分は昇進できず、給料も頭打ちになる。
- 適性のミスマッチ: 現場で最高のケアをする職人が、管理職(マネジメント)も得意とは限らない。
現場は大好きだけど、管理職にはなりたくない。 でも、現場に留まれば、給料も地位も上がらない……。
この「行き詰まり感」こそが、多くの中堅介護福祉士のモチベーションを奪い、他産業への転職(賃金敗北)へとつながる大きな要因でした。
そこで国が新たに示したのが、「山脈型キャリアモデル」です。

これは、「山頂は一つじゃなくていい」という、コペルニクス的転回です。
- マネジメントの山(従来型): 管理者や施設長を目指すキャリア。
- 専門性の山(新設): 現場のスペシャリストとして、「認知症ケア」「看取りケア」「リハビリ連携」などを極めるキャリア。
- 教育の山(新設): 現場で後輩の指導や実習生の育成を担う、「教育担当」としてのキャリア。
これは、素晴らしい試みです。 なぜなら、介護報酬(公定価格)という縛りの中で、「給与」で報いることに限界があるならば、 「社会的地位(尊厳)」と「専門職としての役割」で報いる という、新しい”報酬”の形を示すものだからです。
サービス管理責任者(サビ管)として障害福祉の現場に立つ私も、これは強く共感します。 「管理職には向いてないけど、Aさんの指導は神がかってる」 「Bさんは、どんな重度の認知症の方とも心を通わせられる」 そんな現場の「匠(たくみ)」たちが、給与とは別の形で「あの人は、〇〇の山の頂だ」と尊敬され、評価される。
この「山脈型モデル」が、給与体系(例えば「スペシャリスト手当」など)と連動して現場に浸透すれば、介護職の「キャリアの行き詰まり」を防ぐ、大きな希望になると期待しています。
③ 「プラットフォーム」構想は機能するのか?
最後に、第3章で分析した「地域格差」への対策として国が打ち出した「切り札」です。
都道府県が中心となり、市町村、ハローワーク、事業者団体、福祉人材センターなどを集めた「プラットフォーム」を構築・強化す
理想は、痛いほど分かります。 「8倍台」という地獄のような採用格差が生まれる中、バラバラに動いていた行政や団体が「ワンチーム」となって、地域ぐるみで人材確保にあたろう、という宣言です。
しかし、私は、この言葉を聞いて真っ先に不安がよぎりました。
「それは、また”会議”が一つ増えるだけではないのか?」
これが、現場の率直な感覚です。 「いつものメンバー」が会議室に集まり、 「ハローワークです。求人は4倍です」「事業者団体です。現場は疲弊しています」 「市町村です。うちの地域もヤバいです」 と、お互いの”危機”を報告し合い、「引き続き連携を密に」と言って解散する……。
そんな「報告会」のためのプラットフォームなら、1円の価値もありません。
この「プラットフォーム」構想が、本当に「絵に描いた餅」で終わらないために、最低限必要な条件が3つあります。
- 専属の「プロ・コーディネーター」の配置: 既存の「福祉人材センター」の職員が片手間でやるのではなく、地域の採用市場と介護現場の「両方」を熟知した、専属のプロ(例えば、元・人材紹介会社のトップ営業マンなど)を、高給で雇い入れる覚悟。
- 「実弾」(予算)の確保: 会議のコーヒー代ではなく、例えば「プラットフォーム経由で採用が決まれば、事業所に紹介手数料分を助成する」「地域合同の超・大規模な就職説明会を、電通や博報堂レベルで企画・実行する」といった、具体的な「カネ」の裏付け。
- 都道府県の「覚悟」: 「プラットフォームは作りました。あとは皆さんで頑張って」という”丸投げ”を絶対にしないこと。知事がトップセールスマンになるくらいの「本気度」を見せること。
この3つが揃わない限り、「プラットフォーム」は、危機的状況の横で開かれる、ただの「井戸端会議」に成り下がります。
国が打ち出す対策は、方向性としては間違っていません。 しかし、それを「現場で機能するレベル」にまで落とし込めるかどうか。 私たちの未来は、その「実行力」にかかっているのです。
5. 委員会最大の対立:「質」か「量」か

これまで、介護現場の「今」と「未来」がいかに危機的かを分析してきました。 しかし、今回の「福祉人材確保専門委員会」の資料で、最も議論が紛糾し、今なお結論が出ていない「最大の時限爆弾」があります。
それが、「介護福祉士養成施設の卒業生に、国家試験を義務付けるか」という問題です。
「え? 専門学校を出たら、試験なしで資格が取れるの?」 と思うかもしれませんが、まさにその通りでした。 しかし、その「甘さ」が、介護福祉士の社会的地位を貶めている一因だとして、平成29年度(2017年度)から、養成施設(専門学校など)の卒業生も、国家試験に合格しなければ「介護福祉士」になれない、とルールが変わりました。
「専門職」として、当たり前のルール変更です。 医師も、看護師も、保育士(私の持つもう一つの資格)も、養成校を出た上で、国家試験(あるいは資格試験)に合格して初めて、その資格を名乗れるのです。 「質の向上」のため、当然の措置でした。
しかし、国はここで「例外」を作ってしまいました。
それが、令和8年度(2026年度)までの「経過措置」です。 これは、 「養成施設を卒業して、国家試験に”不合格”になっても、卒業後5年間、介護現場で働けば、自動的に介護福祉士の資格を”あげる”」 という、信じがたい「裏口」です。
そして今、委員会が真っ二つに割れているのは、 「この”裏口”を、2026年度で予定通り閉じるべきか? それとも、延長すべきか?」 という、究極の二択です。
なぜ、委員会は「真っ二つ」に割れるのか?
なぜ、こんな「裏口」の是非ごときで、国の偉い先生たちが揉めのでしょうか。 それは、資料(p.23)に示された、絶望的な「数字」があるからです。
- 養成施設の定員充足率:58.5% (全国の専門学校は、定員の半分以上が”空席”)
- 入学者のうち、外国人留学生の割合:57.0% (その数少ない学生の、さらに”半分以上”が外国人)
- 国家試験合格率(R7):
- 日本人の学生:90.4%
- 外国人留学生:30.1%
もう、お分かりですね。 この「数字」が、対立の構図を明確にしています。
【「終了」派(質を重視)】
「国家試験に合格できないレベルの人材に、国家資格を乱発するな! 専門職としての信頼性が地に落ちる!」
介護福祉士である私は、こちら側にあります。 私たちは、第1章で分析した「賃金敗北」という屈辱の中で、それでも「自分たちは専門職だ」というプライド一つで現場に立っているのです。 その「国家資格」が、「試験に落ちても5年働けば取れる」ような”運転免許未満”のものであってたまるか。 そんな資格に、誰が「社会的地位」と「高い給与」を払ってくれるというのでしょうか。 「質」を担保できない資格は、”無”に等しい。 これが、「終了」派の正論です。
【「延長」派(量を重視)】
「今、経過措置(裏口)をなくしたら、日本に来る留学生が激減する! ただでさえ定員割れの養成施設が、片っ端から潰れてしまう! そうなったら、日本人の学生が学びたくても、学ぶ場すら失われるんだぞ!」
しかし、管理者兼サービス管理責任者として「採用」の地獄を知る、もう一人の私も、この「叫び」を無視できません。 データは残酷です。 もはや、日本の介護福祉士養成施設は、「外国人留学生」に依存しなければ、経営が成り立たないのです。 そして、その留学生の多く(約7割)は、国家試験に合格できていない(合格率30.1%)。
もし、2026年度で「裏口」が閉じられたら? 「試験に落ちたら、もう資格が取れない」となれば、合格率30%台のリスクを背負って日本に来る留学生は激減するでしょう。 留学生がいなくなれば、定員充足率58.5%の養成施設は、経営破綻します。 養成施設が潰れれば、貴重な「日本人のなり手」(合格率90%超)すら、学ぶ場を失う。
「量」を確保するために、養成施設という「供給インフラ」そのものを守らなければならない。 これが、「延長」派の悲痛な現実論です。
あなたの「人生設計」に突き付けられる”二択”
これは、 「資格の信頼性を自爆させてでも『量』を取るか」 「『質』を守るために、貴重な人材供給源(養成施設)の崩壊リスクを取るか」 という、最悪のジレンマです。
この対立は、遠い霞が関の会議室の話ではありません。 あなたの「人生設計」に、こう問いかけています。
「あなたは、将来、自分の親に、どちらの介護を受けさせたいですか?」
- A: 国家試験に合格した「質の高い」介護福祉士。 (ただし、数が絶対的に足りず、そもそも介護サービスが受けられないかもしれない)
- B: 国家試験には合格できなかった「質は不明」な介護福祉士(仮)。 (ただし、「数」は確保されるため、介護サービスは受けられるかもしれない)
「質」を取れば「量(サービス)」を失う。「量」を取れば「質」を失う。 こんな「地獄の二択」を、国は私たちに突き付けているのです。
私は、介護福祉士として、断固として「質」を求めます。 しかし、家族を守る親として、「サービスが受けられない(介護離職)」という未来も、等しく恐怖です。
この問題の根は、「留学生」でも「養成施設」でもありません。 国家資格である「介護福祉士」の給与を、他産業より低く(賃金敗北)抑えつけ、日本人(合格率90%)が集まる魅力的な職業にしなかった、この国の「制度設計」そのものにあるのです。)」を確保できなかった、という政策の失敗に他なりません。
6. 結論:委員会の「本音」と私たちの未来

これまで5章にわたり、私たちは「福祉人材確保専門委員会」が示した、日本の介護の「危機的状況」を分析してきました。 人手不足、絶望的な未来予測、地域格差、そして「質」と「量」の板挟み……。
では、これら全てを議論した専門家たちは、最終的に「何が」一番の問題だと結論づけたのか。 その答えは、20ページにわたるレポート本文ではなく、資料の”一番最後”に「付言」として、まるで「異議申し立て」のように記されていました。
私は、介護福祉士として、この「付言」を読んだ時、全身に鳥肌が立ちました。 これこそが、全ての議論をひっくり返す「不都合な真実」であり、委員会の「本音」だからです。
「処遇改善なしに人材確保はなしえず、全産業で賃上げが進んでいる中で、福祉・介護分野の処遇改善が進まない限り、また、専門性が適切に評価されない限り、福祉・介護業界からの人材流出につながることに対する懸念が多くの委員から示された。」 (資料p.20より引用)
⬇ つまりこういうこと 「給料を上げなきゃ人は来ない!このままじゃ業界が崩壊するぞ!いい加減にカネを出せ!」という、国に対する最後通牒です。
これが、専門家たちが出した「結論」だ
この短い一文に、どれほどの「怒り」と「危機感」が込められているか。 私、介護福祉士・サービス管理責任者として、この「本音」を翻訳させてください。
- 「処遇改善なしに人材確保はなしえず」【翻訳】「色々と小手先の対策(介護助手だのプラットフォームだの)を議論してきたが、はっきり言おう。結局は『カネ(処遇改善)』がなければ、この危機は絶対に解決できない」 これは、委員会が政府、特に「カネ」を握る財務省に対して突き付けた「最後通牒」です。
- 「全産業で賃上げが進んでいる中で」 【翻訳】「世間はベースアップだ、賃上げだと景気が良い。しかし、介護業界だけが、公定価格(介護報酬)に縛られて、その賃上げ競争から脱落している。これが、第1章で分析した『賃金敗北』の正体だ」 委員会が、この「相対的な貧困化」を公式に認めた瞬間です。
- 「処遇改善が進まない限り…人材流出につながる懸念」【翻訳】「『懸念』だと? もう現実に2.9万人も『流出(減少)』しているだろう! このままでは『懸念』どころか、業界が崩壊する。それでもまだ『カネ』を出さない気か?」 これは「懸念」という言葉を使った、最大限の「警告」です。
- 「また、専門性が適切に評価されない限り」 【翻訳】「そして、ただカネを配れば良いという話でもない。第4・5章で議論した『専門職』としての地位だ。国家資格(介護福祉士)に見合った『専門性の評価(社会的地位と役割)』がなければ、いくら給料を上げても、誇りを持って働けず、人は辞めていく」 「カネ」と「誇り」、この両輪が揃わなければならないという、極めて重要な指摘です。
あなたの「人生設計」は、この「付言」にかかっている
「6人家族パパの人生設計室」の読者の皆さん。 この「付言」は、遠い介護業界の話ではありません。 あなたの「人生設計」そのものが、この「付言」を政府が受け入れるかどうかに、かかっているのです。
- もし、この「付言」が無視され、処遇改善(賃上げ)が行われなかったら? → 【第1章】【第2章】で分析した「人材流出」と「57万人不足」が現実になります。 → あなたの親が倒れても、介護サービスは受けられません。 → あなたは「介護離職」を迫られ、あなたの「人生設計」は破綻します。
- もし、この「付言」が無視され、「専門性の評価」が行われなかったら? → 【第5章】で分析した「質か量か」の問題で、「質」が完全に捨てられます。 → あなたが将来受ける介護は、「国家試験不合格」の”なんちゃって介護福祉士”による、「専門性」の低いケアになるかもしれません。
このレポートが突き付けたのは、 「この国は、未来の介護という社会インフラに、本気で『カネ』と『地位』を投資する覚悟があるのか?」 という、たった一つの、しかし、最も重い「問い」です。
6人の家族を守る父親として、そして介護の「専門職」として、私はこの「付言」を、この国の”最後の良心”だと信じたい。 そして、この「問い」の答えを、政治家や役人に丸投げするのではなく、私たち国民一人ひとりが「自分事」として考え、声を上げていくしかない。
あなたの「人生設計」を守る戦いは、もう始まっているのです。
まとめ:私たちは「専門職」として声を上げ続ける
長くなりましたが、これが国の議論の「最前線」です。
57万人不足という未来、介護助手の導入、山脈型キャリア、そして「処遇改善なしに未来はない」という委員会の本音。
介護福祉士として、一人のパパとして、この国の未来を真剣に考えさせられる内容でした。
私たち介護職は、ただの「優しい人」ではありません。アセスメントに基づき、多職種と連携し、人の尊厳ある生活を支える「専門職」です。
その専門性に見合った処遇が実現されなければ、介護インフラは崩壊します。 私たちは、自分たちの仕事の価値を信じ、専門職として、そして社会の一員として、声を上げ続ける必要があると、改めて強く感じました。
あなたはこの現実をどう受け止めますか? ぜひ、ご意見や感想を聞かせてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【出典・参考】社会保障審議会福祉部会 福祉人材確保専門委員会(令和7年11月11日)「福祉人材確保専門委員会における議論の整理」


