障害福祉でリーダーを目指す人へ。燃え尽きずにチームを勝たせる「科学的」仕事術
🙍♂️ 読者の心の声
「リーダーなんて責任が重いだけ。給料だって少ししか上がらないし、正直、割に合わない…」
現場で汗を流しているあなたなら、一度はそう感じたことがあるのではないでしょうか。
正直に言えば、私も4人の子供を育てる一人の父親として、そして元現場職員として、その気持ちは痛いほど分かります。
しかし、現在サービス管理責任者として組織を見る中で、確信した残酷な真実があります。
⚠️ 現場で優秀で優しい人ほど、
リーダーになると潰れやすい
なぜなら、現場が求める「スーパーマン像」と、組織が求める「リーダー像」は全くの別物だからです。
この記事では、精神論や根性論は一切抜きにして、以下のポイントを解説します。
- ✅ 燃え尽きずにチームを勝たせる「科学的マネジメント」
- ✅ なぜ「ケアが下手なあの人」が出世するのか?
- ✅ 「サボり」と思われずに仕事を任せる技術
【結論】
リーダー経験は、これからの時代を生き抜く
「最強のプラチナチケット」になる。
食わず嫌いをする前に、自分と家族を守り抜くための「大人の戦い方」を一緒に見ていきましょう。
なぜ「心優しい介護士」ほどリーダーになると潰れるのか?
現場では「あの人は優しいから、きっと良いリーダーになる」と期待されて昇進した人が、半年も経たずに休職してしまう…そんな悲しい現実を何度も見てきました。
なぜ、利用者に一番寄り添っていた素晴らしい職員が、リーダーになった途端に輝きを失ってしまうのでしょうか。
それは個人の資質の問題ではありません。「プレイヤーとしての優しさ」と「リーダーとしての役割」の間に、決定的な構造的欠陥があるからです。
現場が求める「スーパーマン像」の正体
障害福祉の現場において、一般職員(プレイヤー)が抱く「理想のリーダー像」を言語化すると、多くの場合、次のような「スーパーマン」に行き着きます。
【現場が期待する(危険な)理想のリーダー像】
- ✅ 誰よりもケア技術が高い(困難事例も魔法のように解決する)
- ✅ 聖人のように優しい(愚痴や不満を24時間いつでも笑顔で聞く)
- ✅ 即応性が異常に高い(トラブルがあれば、休日でも夜中でも駆けつける)
これらを真に受けて「理想のリーダー」になろうと努力する真面目な人ほど、確実にバーンアウト(燃え尽き症候群)への道を歩むことになります。
心理学者のハーバート・フロイデンバーガーが提唱したバーンアウトの概念においても、対人援助職は特にリスクが高いとされています。他者のニーズを優先しすぎ、自分のエネルギーを枯渇させてしまうからです。
優しさが仇になる「共感疲労」のメカニズム
ここで知っておくべきは、「共感疲労(Compassion Fatigue)」という言葉です。
心優しい職員は、利用者様の痛みや苦しみを「自分のこと」のように感じ取る能力(共感性)に長けています。これはケアの現場では最強の武器ですが、リーダーという立場で「利用者様全員」+「職員全員」の感情を同じ深度で受け止めようとすると、脳の処理能力を超えてしまいます。
社会学者のアーリー・ホックシールドは、感情をコントロールして相手に合わせる労働を「感情労働(Emotional Labor)」と定義しました。リーダー業務は、まさにこの感情労働の負荷が倍増するポジションなのです。
ここがポイント
「優しさ」だけで乗り切ろうとするのは、防弾チョッキを着ずに戦場に出るようなもの。リーダーには「共感」とは別の、自分を守るための「鎧」が必要です。
リーダーを取り巻く3つの「現実的限界」
精神論ではなく、物理的な限界についても直視しましょう。私がサビ管として、そして6人の子供を育てる親として痛感しているのは、以下の3つの「欠乏」です。
1. 時間欠乏(Time Poverty)
リーダーになれば、会議、書類作成、関係機関との調整など、現場以外の業務が激増します。しかし、現場からは「今まで通り現場に入ってほしい」と求められます。物理的に時間が足りない中で、全てを完璧にこなそうとすれば、削れるのは「自分の睡眠時間」か「家族との時間」しかありません。
2. 認知限界(Cognitive Limit)
人間が一度に把握できる情報の数は限られています(マジカルナンバー7±2などと言われます)。
現場のリーダーは、利用者様の体調変化、職員のシフト希望、ヒヤリハット、ご家族からの要望など、膨大な変数を同時に処理しなければなりません。すべてを「把握」しようとすることは、脳科学的に不可能です。
3. 構造的な板挟み(Role Conflict)
これが最も精神を削ります。
- 経営層:「稼働率を上げろ」「残業を減らせ」「コストを抑えろ」
- 現場職員:「人が足りない」「もっと手厚いケアをしたい」「給料を上げてほしい」
この相反する要求のサンドバッグになるのがリーダーです。ここで「全員にいい顔」をしようとする優しいリーダーは、両方からの信頼を失い、孤立していきます。
結論:リーダーの役割は「ケアすること」ではない
これからリーダーを目指すあなたが最初に捨てるべきは、「私が一番良いケアができる」というプライドと、「全員を満足させたい」という優しさです。
あなたが目指すべきは、スーパーマン(名選手)ではなく、チームが機能する環境を整えるアーキテクト(名監督)への転身なのです。
なぜ「ケアが下手なあの人」がリーダーに抜擢されるのか?
現場で一生懸命働いていると、こんな不満を抱くことはありませんか?
「利用者さんの気持ちを一番わかっているのは私なのに」
「あの人は移乗介助も雑だし、声かけもマニュアル通り。それなのに、なぜあの人がリーダーなの?」
正直に言います。かつての私もそう思っていました。しかし、サービス管理責任者として「評価する側」や「全体を見る側」に立ったとき、その理由が痛いほど分かりました。
それは、「組織がリーダーに求めている能力」と「現場が思う優秀さ」が、180度違うからです。
「名選手、名監督にあらず」の科学:ピーターの法則
経営学には「ピーターの法則」という有名な説があります。
簡単に言うと、「人は有能であるうちは出世し続けるが、無能になる地位まで出世したところで止まる」というものです。
これを福祉現場に当てはめると、こういう現象が起きます。
- 🔴 ケアのスペシャリスト
→ 現場で優秀だからリーダーに昇格させる
→ しかし、リーダーに必要なのは「調整力」や「管理能力」
→ ケア技術は高いが管理ができないため、チームを混乱させる「無能なリーダー」になってしまう
逆に、「ケアはそこそこ」の人がリーダーとして成功するのは、最初から「個人の成果(ケアの深さ)」ではなく「組織の成果(業務の円滑さ)」にフォーカスしているからなのです。
評価されるのは「奇跡のケア」より「安定した報告」
経営層や管理者(サビ管含む)が、リーダー候補を見るときに重視しているポイントは、実は「ケアの技術」そのものではありません。
最も重視しているのは「予測可能性(Predictability)」です。
6人の子供を育てる父親としても言えますが、家庭でも職場でも一番困るのは「その人がいないと何も分からない状況」です。
ケアが多少不器用でも、「報・連・相」が確実で、トラブルをボヤのうちに報告してくれる人は、管理者にとって圧倒的に信頼できるパートナーなのです。
感情の「可動域」が狭い人が強い
もう一つ、リーダーに求められる重要な資質があります。それは「感情の安定性」です。
利用者さんに深く共感しすぎて、一緒に泣いたり怒ったりしてくれる職員は、利用者さんからは好かれます。しかし、リーダーとしてはどうでしょうか。
部下がミスをした時、利用者家族からクレームが来た時、いちいち感情を揺さぶられていては、チーム全体が不安に包まれます。
ここで求められるのは、冷たさではなく「冷静さ」です。
💡 リーダーに必要な「鈍感力」
いい意味で「スルーする力」や、事実と感情を切り離すドライさを持っている人の方が、結果的に自分自身もチームも守り抜くことができます。
「あの人は心が無い」と陰口を叩かれるその人こそ、実はチームを崩壊から守る防波堤になっていることが多いのです。
もしあなたが「自分はケアが上手いのに評価されない」と悔しい思いをしているなら、一度立ち止まって考えてみてください。
あなたは、「今の自分のやり方のまま」で、自分がいなくても回るチームを作ることができますか?
次章では、その「自分がいなくても回るチーム」を作るために、明日から具体的に何を変えればいいのか。精神論ではない、具体的なアクションプランをお伝えします。
明日から変わる!リーダーになるための具体的なアクション
ここまで「自分を守るために仕事を任せよう」「仕組みを作ろう」とお伝えしてきましたが、これを実践する前に、絶対にクリアしていなければならない「前提条件」があります。
ここを飛ばしてテクニックだけ真似をすると、あなたは間違いなく「面倒な仕事を押し付けてくる、口だけ達者な嫌な奴」として現場から孤立します。
その絶対条件とは何か。それは、「プレイヤーとして、誰よりも現場の仕事ができること」です。
【絶対前提】なぜ「誰よりも仕事ができる」必要があるのか?
「リーダーになるなら、現場仕事はほどほどでいいのでは?」
そう思うかもしれません。しかし、障害福祉の現場は非常にウェットで、職人気質な世界です。
パソコンの前で綺麗な計画書を作る能力よりも、「暴れる利用者様を一人で落ち着かせることができる」「誰よりも排泄介助が早くて丁寧」といった、泥臭い実力こそがカーストを決める決定打になります。
『7つの習慣』でスティーブン・R・コヴィー博士はこれを「信頼残高」と呼びました。
日々の業務で「この人は凄い」「頼りになる」という信頼を貯金していない人が、他人に仕事を振る(=口座から引き出す)ことはできません。残高不足のまま引き出そうとすれば、人間関係は破綻します。
👑 「任せる権利」を得るための3ステップ
- 圧倒的プレイヤー期:
「あの人に任せれば安心」「あの人の介助は魔法みたいだ」と言われるレベルまで、現場スキルを磨き抜く。 - 背中で語る期:
嫌な仕事(汚物処理やクレーム対応)こそ、誰よりも先に、笑顔で拾いに行く。「口だけじゃない」ことを証明する。 - 委譲期(リーダーへの入り口):
十分な信頼残高が貯まって初めて、「次はあなたがやってみて」とバトンを渡す権利が生まれる。
つまり、「いつでも代われる実力があるけれど、あえてあなたに任せる」というスタンスだけが、相手を動かすのです。
実力がない人が振るのは「逃げ」ですが、実力がある人が振るのは「育成」になります。この違いは決定的です。
【科学的マネジメント】人によって態度を変えろ!「SL理論」
では、信頼残高を貯めた上で、具体的にどう任せればいいのでしょうか。
ここで役立つのが、行動科学者のポール・ハーシーらが提唱した「SL理論(Situational Leadership Theory)」です。
多くの失敗するリーダー候補は、相手構わず「丸投げ」するか、逆に「過干渉」になります。
SL理論の教えはシンプルです。「相手の熟練度に合わせて、関わり方を使い分けろ」ということです。
失敗するリーダー候補は、S1の新人に対して「自分で考えて動いて(放置)」と言ったり、S4のベテランに対して「箸の上げ下ろしまで指示(マイクロマネジメント)」したりします。
相手の状態を見極め、カードを切り替える。これこそが、感情論ではない科学的なマネジメントです。
【警告】これをやったら即アウト!リーダー候補失格の3つの行動
最後に、サビ管の視点から「これをやったら評価シートに×をつける」という致命的なNG行動を挙げておきます。
❌ 1. 「嫌な仕事」だけを選んで人に振る
事務作業や会議など「リーダーっぽい仕事」は自分でやり、排泄介助や入浴などの「きつい身体介護」ばかりを部下に振る。
これは委譲ではなく「搾取」です。リーダーこそ、人が嫌がる仕事を率先してやる姿勢を見せないと、一瞬で求心力を失います。
❌ 2. 失敗した時の「梯子外し」
「〇〇さんに任せたので、私は知りません」
これが最悪の言葉です。仕事を振るということは、成果を相手に譲り、責任を自分が引き受けること(Give and Takeではなく、Give responsibility, Take blame)。
保身に走る人間を、組織は決してリーダーにはしません。
❌ 3. 情報を独占してマウントを取る
「この件、知ってるの私だけだから」
自分しか知らない情報を武器にして、周囲をコントロールしようとする行為です。これは「属人化」の極みであり、組織にとってリスク要因でしかありません。
真のリーダーは、情報をオープンにし、誰でも判断できる環境を作ります。
いかがでしたか。
リーダーになるということは、決して楽になることではありません。むしろ、プレイヤーとしての実力を維持しながら、人を育てるという新たな負荷を背負うことです。
しかし、だからこそ得られるものがあります。自分一人では決して達成できない大きな成果(利用者の笑顔の総量)を、チームで生み出す喜びです。
次章では、そんな「茨の道」を歩むと決めたあなたが手にする、キャリアとしての果実についてお話しします。

リーダー経験は市場価値を最大化する「切符」
ここまで、リーダーになるための厳しい条件や、やってはいけないNG行動について、かなり耳の痛い話をしてきました。
正直、「そこまでしてリーダーになりたくない」「割に合わない」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、6人の家族を支える大黒柱として、そしてサビ管としてあえて断言します。
もしあなたが、これからも福祉業界で生きていくつもりなら、絶対にリーダー職を経験しておくべきです。
なぜなら、リーダー経験という実績は、あなたとあなたの大切な家族を守るための「最強のプラチナチケット」になるからです。
「良い人」で終わるか、「選べる人」になるか
現場一筋のスペシャリストとして生きる道も、もちろん尊いものです。しかし、40代、50代になった時の自分をリアルに想像してみてください。
- 📉 体力の限界:腰痛や夜勤の負担は、年齢と共に確実に重くなります。
- 🛑 給与の天井:一般職の処遇改善手当には上限があり、どれだけスキルを磨いても年収の大幅アップは望めません。
- 🚪 転職の壁:年齢を重ねてからの転職活動で、「現場経験のみ」の人材は、どうしても選択肢が狭まります。
一方で、一度でも「リーダー」「主任」「フロア長」といったマネジメント経験を積んでおくと、世界は一変します。
転職サイトの求人票を見てみてください。「管理者候補」「サビ管候補」の募集要項には、必ずと言っていいほど『マネジメント経験者優遇』と書かれています。
このチェックボックスにチェックを入れられるかどうか。たったそれだけの違いで、提示される年収が50万〜100万円変わることも珍しくありません。
サビ管・管理者への「王道ルート」を開通させる
私は現在、サービス管理責任者(サビ管)として働いていますが、この資格を取るだけでは「名ばかりサビ管」になりがちです。
サビ管の本当の仕事は、計画書を作ることではなく、「チームを動かして、計画を実行させること」だからです。
リーダー時代に経験する以下の「泥臭い業務」こそが、将来のキャリアの血肉となります。
🎓 リーダー時代に得られる「ポータブルスキル」
- 生意気な後輩をなだめて動かす「対人折衝力」
- 急な欠勤欠員をパズルのように埋める「リソース管理力」
- 理不尽なクレームに頭を下げる「危機管理能力」
これらは、どの事業所に行っても、あるいは福祉以外の業界に行っても通用する普遍的なスキルです。
「いつでも辞められる」という究極の心理的安全性
私が仕事をする上で最も重視しているのは「選択肢を持つこと」です。
「この会社にしがみつくしかない」という状態は、精神を蝕みます。嫌なことがあっても我慢し、理不尽な命令にも従わなければなりません。
しかし、リーダー経験を積み、市場価値を高めておけば、心の中に余裕が生まれます。
「いざとなれば、自分を高く買ってくれる場所は他にある」
この自信こそが、結果として今の職場での発言力を高め、より良い仕事ができるようになる好循環を生むのです。
あなたのキャリアを加速させる「次の一手」
「リーダーになる」という選択は、あなたの福祉人生を大きく変えるターニングポイントになるはずです。
最後に、これからリーダーを目指すあなたが「無駄な回り道をしないための地図」となる3つの記事を紹介します。
今のうちに目を通しておくと、将来の不安がぐっと減りますよ。
🔰 「リーダーになった後」の世界を予習する
「いざリーダーになったら、どんな壁にぶつかるんだろう?」
そんな不安があるなら、こちらの記事を「転ばぬ先の杖」として読んでみてください。
現役リーダー向けに書いたものですが、これからなる人が読めば「あらかじめ落とし穴を知った状態でスタートできる」という最強の攻略本になります。
💰 「リーダー経験」を年収アップに繋げる全手順
「リーダーになれば市場価値が上がる」とお伝えしましたが、具体的にどうすれば給料が増えるのか、未経験からの全体像を知りたい方はこちら。
福祉業界で確実に年収を上げていくためのルートを、全て公開しています。
🎓 将来のゴール「サビ管」の要件を今すぐ確認
リーダー経験を積んだ先に待っている「サービス管理責任者」。
しかし、実は実務経験の計算が非常に複雑で、「あと1年足りなくて資格が取れない!」と泣く人が後を絶ちません。
将来サビ管を目指すなら、今のうちに自分の実務経験年数と要件を照らし合わせておいてください。
今の苦労は、必ず未来の自分への投資になります。
現場からは以上です!





