【介護福祉士・保育士が解説】謝れない子どもたち 〜障害特性を理解し、適切な対応を考える〜

「なんで謝らないの!」「悪いことしたら『ごめんなさい』でしょ!」
トラブルを起こした我が子や支援する子が、頑として謝らない…。 子育てや支援の現場で、そう頭を抱えた経験はありませんか?
こんにちは。4児のパパであり、保育士、サービス管理責任者(サビ管)、そして強度行動障害支援者として、日々多くのお子さんたちと向き合っているユインです。

結論から言います。 その子は「謝りたくない(反抗している)」のではなく、障害特性によって「謝るという、恐ろしく高度なスキルが使えない」だけかもしれません。
発達障害(ASD・ADHD)や知的障害のあるお子さんにとって、「謝罪」は私たちが思う以上に複雑なプロセスを必要とします。
この記事では、
- なぜ障害特性があると「謝る」のが難しいのか(公的根拠)
- 「謝りなさい!」と強要するのが逆効果な理由
- 私の支援現場で実践する、具体的なケース別対応
を、私の専門的知見と実体験に基づき、徹底的に解説します。 「叱る」前に、まずは「理解する」ことから始めましょう。
1. 「謝れない子」とは?
「謝れない」と言っても、子どもたちは悪気があって謝らないわけではありません。障害特性によって、状況を適切に理解できなかったり、謝罪の意味が分からなかったりする場合があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。
- 発達障害(ASD・ADHDなど)
- 状況を適切に理解できず、なぜ謝らなければならないのか分からない
- 自分の行動が悪いことだと認識していない
- こだわりが強く、自分の正当性を主張してしまう
- 知的障害の影響
- 言葉の意味や社会的ルールの理解が難しい
- 「謝る」という行為が具体的にどういうことか分からない
- 感情のコントロールが苦手
- 強いプライドや恥ずかしさから、謝ることに強い抵抗を感じる
- パニックになってしまい、謝るどころではなくなる
2. なぜ謝れないのか?
謝罪は、私たちが思う以上に「高度な社会的スキル」を必要とします。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、発達障害(特にASD)の特性として「相手の気持ちや状況を具体的に想像することの難しさ」「場の空気を読むことの難しさ」が指摘されています。
(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「発達障害」「ASD(自閉スペクトラム症)」)
つまり、謝罪に必要な「①相手の気持ちを想像し」「②自分の行動を客観視する」という最初のステップで、すでにつまずいている可能性が高いのです。
謝るために必要な4つのステップ
謝罪をするためには、以下のようなプロセスを理解し、実行する必要があります。
謝ることは、自分の非を認めることにもつながります。これが苦手な子どもは、「謝る=自分が悪い人間になってしまう」と考え、自己防衛のために謝罪を拒むことがあります。特に、日常的に叱られる経験が多い子どもは、「また怒られるのでは?」という不安が強くなり、謝ることを避けてしまうこともあります。高くなります。

私が現場で感じる実感として、特にASD(自閉スペクトラム症)の特性があるお子さんは「2. 相手がどう感じるかを想像する」と「4. 責められることに耐える」が、ADHD(注意欠陥・多動症)の特性があるお子さんは「1. 自分の行動を客観視する(衝動的に動くため悪気がない)」が苦手な傾向にあります。
自分の行動が相手に悪影響を与えたことを理解する
小さな子どもや発達に課題のある子どもは、自分の行動が他者にどのような影響を与えたのかを客観的に捉えるのが難しいことがあります。例えば、おもちゃを取ったことで相手が悲しんでいることに気づかず、自分がただ遊びたかっただけだと考えてしまうことがあります。
相手がどのように感じているかを想像する
「もし自分が同じことをされたらどう思うか?」という視点を持つことは、共感力が必要なスキルです。特に、自閉スペクトラム症(ASD)などの特性がある場合、他者の気持ちを想像することが難しいこともあります。そのため、「相手が悲しんでいる」「怒っている」などの感情を具体的に言葉で説明し、状況を整理してあげることが大切です。
適切な言葉で謝罪を伝える
「ごめんなさい」と言うこと自体は短い言葉ですが、その意味を理解し、自発的に伝えることは簡単ではありません。特に、子どもが「謝ると悪者になる」と感じている場合、謝罪の言葉を口に出すことを避けることがあります。
謝ることによって自分が責められたり、恥ずかしい思いをすることに耐える
謝ることは、自分の非を認めることにもつながります。これが苦手な子どもは、「謝る=自分が悪い人間になってしまう」と考え、自己防衛のために謝罪を拒むことがあります。特に、日常的に叱られる経験が多い子どもは、「また怒られるのでは?」という不安が強くなり、謝ることを避けてしまうこともあります。
3. 無理に謝らせるのは逆効果?
「とにかく謝りなさい!」と強要すると、子どもにとっては次のようなデメリットが生じる可能性があります。
- 謝ることが「強制されるもの」となり、心からの謝罪ではなくなる
- 謝罪を恐れるようになり、今後さらに謝ることが苦手になる
- 「謝れば許される」と学習し、行動を改めなくなる
大切なのは、謝罪の形を無理に求めるのではなく、子どもが「自分の行動がどう影響したか」を理解できるように導くことです。

まさにその通りです。 私の現場でも、「ごめんなさい」という「音」だけを言わせる指導は絶対に行いません。
納得していない「ごめんなさい」は、子どもにとって「その場を逃れるための魔法の呪文」でしかありません。 それを学習すると、行動を振り返る(=反省する)機会を永久に失ってしまいます。
4. 適切な関わり方
① 状況を説明し、気持ちを整理する
「〇〇くんが悲しそうな顔をしているね。さっきのこと、どう思った?」と、子どもが自分の行動を振り返れるようにサポートします。
② 代替の謝罪方法を提案する
言葉での謝罪が難しい場合、「手を振ってみよう」「一緒におもちゃを貸してあげよう」など、行動で示す謝罪の方法を提案してみるのも有効です。
③ 「謝る=自分を否定する」ではないことを伝える
「謝ることは悪いことじゃないよ」「『ごめんね』って言うと、お互い気持ちがよくなるんだよ」と、謝罪の意味をポジティブに伝えていくことが大切です。
5. 実際の支援現場での対応例
私の支援現場(放課後等デイサービスなど)では、子どもが謝れない状況に応じて適切な対応をとることが重要です。
謝罪を強要するのではなく、子どもの気持ちや発達段階を考慮しながら、無理なく謝ることを「スキル」として学べる環境を整えることが求められます。
支援現場では、子どもが謝れない状況に応じて適切な対応をとることが重要です。謝罪を強要するのではなく、子どもの気持ちや発達段階を考慮しながら、無理なく謝ることを学べる環境を整えることが求められます。

ケース1:ASD(自閉スペクトラム症)の子どもが謝れない場合
ASDの子どもは、相手の気持ちを読み取ることが難しいことがあり、自分の行動が相手にどのような影響を与えたのかを理解しにくい場合があります。そのため、以下のような方法が有効です。
- すぐに謝罪を求めず、まず状況を整理する
- 例えば、簡単な絵や写真を使って、「Aくんがボールを投げたら、Bくんがびっくりして泣いちゃったね」と視覚的に伝える。
- 言葉だけで説明するよりも、目で見て理解しやすい形にする。
- 「〇〇くんはこう感じているよ」と具体的に伝える
- 「Bくんはびっくりして悲しい気持ちになったみたいだね」と、相手の感情を説明する。
- 自分の行動が他者に与える影響を理解しやすくする。
- 謝罪の代替手段を用意する
- 直接「ごめんね」と言えなくても、ジェスチャーや絵カードを使うなど、子どもができる範囲で気持ちを表現できる方法を考える。
ケース2:感情が高ぶって謝れない場合
子どもは、自分の感情が高ぶっているときには冷静に謝ることが難しいものです。そのため、まずは気持ちを落ち着けることが大切です。
- クールダウンの時間を設ける
- すぐに「謝りなさい」と言わずに、「ちょっとお水を飲もうか」「深呼吸してみよう」など、子どもが落ち着ける環境を作る。
- その場から少し離れたり、リラックスできるスペースに移動するのも効果的。
- 落ち着いた後に、一緒に振り返る
- 「さっきのこと、一緒に考えてみようか」と、子どもが冷静になったタイミングで話をする。
- 「どうすればよかったと思う?」と問いかけ、自分で考える機会を与える。
- 「次からは、こうしようね」と建設的な解決策を示す。
- 謝罪の選択肢を増やす
- 口頭で「ごめんね」と言うのが難しければ、「お手紙を書く」「握手をする」「絵を描いて気持ちを伝える」など、子どもが無理なくできる方法を提案する。
ケース3:謝ることに強い抵抗を感じる場合
中には、「謝る=負ける」と感じてしまい、どうしても謝れない子どももいます。この場合は、謝ることがプラスの行為であると理解できるように工夫します。
- 謝罪のメリットを伝える
- 「謝ると、また仲良く遊べるよ」「『ごめんね』って言うと、お友達も嬉しい気持ちになるよ」など、謝罪の前向きな側面を強調する。
- 謝ることができたらポジティブなフィードバックをする
- 「今、ちゃんと『ごめんね』って言えたね!偉かったね」と褒めることで、謝罪のハードルを下げる。
- 「悪いことをしたから謝る」ではなく、「相手の気持ちを考える」ことを優先する
- 「Bくんが悲しそうだから、何かしてあげられることあるかな?」と問いかけ、自然な形で謝罪につながる行動を促す。
まとめ:特性を「理解」し、謝罪を「スキル」として教える
「謝れない子」は、決して悪いわけでも、反抗しているのでもありません。 多くの場合、障害特性によって「謝る」という社会的なスキルを使うのが難しいだけなのです。

私が保育士・サビ管・支援者として、現場で最も大切にしている視点です。
私たち大人の役割は、その場ですぐに「謝らせる」ことではありません。 「謝れない」という一つの行動を叱るのではなく、その背景にある「特性」をまず理解すること。 そして、その子に合った「ソーシャルスキル(=謝る以外の解決策や、気持ちの伝え方)」を、根気よく一緒に探してあげること。
「ごめんね」という言葉より、「(相手が)悲しそうだから、一緒に片付けよう」という「行動」で示す方が、その子にとっては立派な「謝罪」の第一歩になるのです。

「謝る」ことの前に、まずは「自分の気持ちを言葉にする」「相手の気持ちに気づく」練習が大切です。 子どもの「できた!」を増やす関わり方や、具体的な褒め方・伝え方については、こちらの記事もぜひ参考にしてください。とき、大人がどのように対応するかで、子どもの未来が大きく変わるかもしれません。



