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障害福祉
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虐待防止研修【障害福祉版】20分で終わる講師台本・具体例40・確認テスト20問|放デイ・GH・生活介護

虐待防止研修のすべてがここに 障害福祉版 20分台本・グレーゾーン12問・確認テスト20問
ユイン
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虐待防止研修を任されて、いちばん困るのは「うちでは虐待なんて起きていない」という空気の中で30分話さなければいけないことだと思います。5類型を読み上げて、「気をつけましょう」で終わる。職員は神妙にうなずく。でも次の日、現場は何も変わっていない。

この記事は、その研修を20分で、しかも現場が動く形にするために書きました。

研修時間に法令上の定めはありません。運営基準が求めているのは「虐待の防止のための研修を定期的に実施すること」であって、何分やれという条文はない。だから主役は90分の講義ではなく、そのまま読み上げて20分で終わる講師台本です。動画にして回す場合の設計も入れました。

この記事でわかること
  • そのまま読み上げるだけの【20分版・講師台本】(逐語)
  • 15分×4回に分ける年間シリーズの組み立て方
  • 動画研修の章立てと視聴管理表。厚労省の手引きが録画視聴を認めている根拠つき
  • 障害福祉の現場で実際に起きる具体例40と、判断が割れるグレーゾーン12問
  • 確認テスト20問と、研修実施記録・アンケートの様式
  • 通報義務の手順と、「不適切な支援」と言い換えた瞬間に事故になる理由
  • 虐待防止委員会を法人単位・オンライン・既存会議と同時開催で回す方法
身体拘束の研修については、姉妹記事の身体拘束適正化研修【障害福祉版】にまとめています。虐待と身体拘束は減算も要件も別建てなので、研修も記録も分けてください。
Contents
  1. この記事の使い方|まず20分の形を選ぶ
  2. 虐待防止研修が形だけになる、3つの原因
  3. まず要件を確認する|3つの措置と、減算1%
  4. 研修時間に法令上の定めはない|20分でいい理由
  5. 【20分版・講師台本】そのまま読める逐語スクリプト
  6. 15分×4回の年間シリーズ|1回で終わらせない組み立て
  7. 研修を動画にして回す|手引きが録画視聴を認めています
  8. 虐待の5類型と、現場で実際に起きる具体例40
  9. 【演習】研修で配る設問|グレーゾーン判定12問
  10. 【確認テスト20問】研修の最後に配る理解度チェック
  11. 通報義務|「不適切な支援」と言い換えた瞬間に、事故になる
  12. 虐待は個人の資質では起きない|職場環境チェックリスト
  13. 虐待防止委員会を、現実的に回す
  14. 研修実施記録・アンケート様式
  15. 運営指導で見られるポイントと、記録のNG5
  16. よくある質問
  17. まとめ
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この記事の使い方|まず20分の形を選ぶ

虐待防止研修の4つの形(20分版・15分×4回・動画・外部研修と伝達)の図。迷ったら20分版

先に地図を置きます。この記事は長いので、全部読む必要はありません。最初に決めるのは1つだけ、今年どの形でやるかです。

4つの形。迷ったら20分版
形 こういう事業所 読むところ
20分版
(おすすめ)
時間が取れない。ほとんどの事業所 【20分版・講師台本】をそのまま読み上げる。準備はレジュメ1枚と設問3問だけ
15分×4回 本気で支援の質を上げたい 「15分×4回の年間シリーズ」。委員会の直後に15分だけ残す形
動画 シフトがそろわない・多拠点 「研修を動画にして回す」。20分版台本がそのままナレーション原稿になります
外部研修+伝達 自分で話す自信がない 後述のFAQ。協議会や基幹相談支援センターの研修に参加しても要件は満たせます
長い研修がよい研修ではありません。研修時間に法令上の定めはなく、20分でも要件は満たします。90分の計画を立てて実施できずに記録が飛ぶより、20分を確実に1回やって記録を残すほうが、実務としても指摘対策としても上です。

どの形でも、共通で使うもの

印刷するのはこの4つだけ
使うもの どこにあるか
グレーゾーン設問 「【演習】グレーゾーン判定12問」——自事業所に関係するものだけ抜いて使います
確認テスト 「【確認テスト20問】」——20分版なら10問に絞って構いません
研修実施記録・アンケート 「研修実施記録・アンケート様式」——そのままコピーして使えます
具体例40 「虐待の5類型と、現場で実際に起きる具体例40」——レジュメの材料。全部は配らず、近いものを数件選びます
後半の「通報義務」「職場環境チェックリスト」「虐待防止委員会」は、初回は読まなくて構いません。2年目以降で内容を変えたいとき、委員会を作り直すときに使う引き出しです。

虐待防止研修が形だけになる、3つの原因

虐待防止研修が形だけになる3つの原因(うちでは起きていない・5類型の読み上げ・通報を仲間を売ることのまま終える)の図

身体拘束の研修とちがって、虐待防止研修には固有の難しさがあります。それは参加者全員が「自分の話ではない」と思って座っていることです。ここを外したまま進めると、どれだけ丁寧に話しても現場は変わりません。原因は3つに整理できます。

原因1:「うちでは起きていない」から始めてしまう

虐待防止研修の冒頭でよくあるのが、ニュースになった施設の事例を紹介することです。馬乗りになって押さえつけた、けがを負わせた——たしかに事実ですが、これを聞いた職員の反応は「うちはあそこまでひどくない」です。安心して終わります。

厚生労働省の手引きが挙げている具体例を読むと、印象がまったく変わります。たとえばこういうものが、心理的虐待や放棄・放置として並んでいます。

これも虐待として例示されています
  • 自分で食事ができるのに、職員の都合を優先して全介助にする。提供しやすいように食事を混ぜる
  • トイレを使用できるのに、職員の都合を優先しておむつを使う
  • 「これができたら外出させてあげる」などの交換条件を提示する
  • 子ども扱いするような呼称で呼ぶ。本人の意思に反してあだ名や呼び捨てで呼ぶ
  • 話しかけに「ちょっと待って」と言ったまま対応しない
  • 他の利用者に暴力を振るう利用者に対して、何ら予防的手立てをしていない
「殴る・蹴る」から入ると他人事で終わり、ここから入ると全員が自分の話だと気づきます。研修の入口をどちらにするかで、残り18分の密度が変わります。

心理的虐待の例として「トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う」「自分で食事ができるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視して食事の全介助をする、職員が提供しやすいように食事を混ぜる」「『これができたら外出させてあげる』『買いたいならこれをしてからにしなさい』などの交換条件を提示する」が挙げられています。

厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月)

原因2:5類型を読み上げて終わってしまう

身体的・性的・心理的・放棄放置・経済的。この5つを説明して、それぞれの例を挙げて、20分が終わる。よくある形ですが、これでは職員が明日から何をすればいいのかが1つも決まりません。

5類型は覚えてもらう知識ではなく、自分の現場を照合するためのものさしです。だからこの記事の20分版台本では、類型の説明に使う時間を5分に抑え、残りを「うちの場面で判定する」に使います。研修の成果物は知識ではなく、判断が割れた場面のリストです。

原因3:通報を「仲間を売ること」のまま終わらせてしまう

これがいちばん大きい。通報義務の説明を「法律で決まっています」で終えると、職員の中には「同僚を密告しろということか」という感覚だけが残ります。その感覚が残っている限り、現場で気づいた人は黙ります。

手引きは、この点についてはっきりした言い方をしています。通報は、利用者・職員・施設・法人のすべてを救うという整理です。

「虐待行為が軽微な段階で適切に通報することができれば、利用者の被害は最小限で留めることができます。さらに、虐待行為を行った職員もやり直しの道が残され、施設や法人の行政処分や損害賠償責任も大きなものにならないで済む可能性があります。」

厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月)

研修でここを伝えるときは、法律の条文よりも「通報が遅れた結果どうなったか」を話すほうが効きます。実際に、虐待を把握していながら通報しなかった法人が、特別監査を経て複数の施設で3か月から1年の新規受け入れ停止という行政処分を受けた例が手引きに載っています。隠したことで被害が拡大し、処分も重くなった。通報しなかったことが、いちばん高くついたという事実です。

この3つの原因は、そのまま20分版台本の設計に反映してあります。「グレーな場面から入る」「判定に時間を使う」「通報は全員を守る手続きだと伝える」の3点です。台本だけ読む方は、このあとの「研修時間に法令上の定めはない」を飛ばして構いません。

まず要件を確認する|3つの措置と、減算1%

障害福祉の虐待防止措置3つ(委員会年1回以上・研修年1回以上と新規採用時・責任者)と虐待防止措置未実施減算1%、身体拘束廃止未実施減算との違いの図

研修の中身に入る前に、何をやれば要件を満たすのかを確定させます。ここが曖昧なまま研修だけやっている事業所が、いちばん指摘を受けます。

令和4年4月から義務化された3つの措置

運営基準で義務づけられているのは、次の3つです。研修は3つのうちの1つでしかありません。研修だけやっていても、委員会と責任者が欠けていれば減算の対象になります。

虐待防止措置(運営基準・令和4年4月から)
措置 頻度 中身
虐待防止委員会 年1回以上 定期的に開催し、その結果を従業者に周知徹底する。周知まで含めて1セット。議事録を残す
虐待防止研修 年1回以上
+新規採用時
従業者に対し定期的に実施。新規採用のつど実施した記録も必要
虐待防止責任者 常時 上記を適切に実施するための担当者を置く。現場のリーダー(サビ管等)を虐待防止マネジャーとして配置する形が想定されています
「従業者」には、支援員だけでなく送迎の運転手・調理・事務・宿直も含めて考えてください。手引きは「福祉職に限らず、給食調理、事務、運転、宿直管理等の業務を担う職員も広い意味での支援者」としています。分母を支援員だけで数えていると、受講率の計算がずれます。

虐待防止措置未実施減算は、所定単位数の1%

令和6年度報酬改定で新設されました。上の3つのどれか1つでも欠けていると、所定単位数の1%が減算されます。令和6年4月1日から施行されています。

「施設・事業所における障害者虐待防止の取組を徹底するため、障害者虐待防止措置を未実施の障害福祉サービス事業所等について、虐待防止措置未実施減算(所定単位数の1%を減算)を創設。」

厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」

身体拘束の減算と混同しない|2つは別建て

現場でいちばん多い誤解がこれです。虐待防止と身体拘束適正化は、要件も減算も別です。「虐待防止研修をやったから身体拘束もカバーできている」は通りません。逆も同じです。

虐待防止と身体拘束|2つの減算の違い
  虐待防止措置未実施減算 身体拘束廃止未実施減算
減算率 所定単位数の1%
(全サービス共通)
施設・居住系は10%/訪問・通所系は1%
必要な措置 ①委員会 ②研修 ③責任者 ①記録 ②委員会 ③指針の整備 ④研修
指針 減算要件には入っていない 必須
責任者 必須 減算要件には入っていない
施設入所支援・グループホーム・障害児入所施設などの居住系は、身体拘束のほうが10%です。桁が違います。虐待防止だけ整えて安心しないでください。身体拘束側は姉妹記事で扱っています。

ただし、正当な理由のない身体拘束は「身体的虐待」です

制度は別建てですが、中身は地続きです。障害者虐待防止法は、身体的虐待の定義に「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」を含めています。手引きも、車いすやベッドへの縛り付け、ミトン型手袋、つなぎ服、職員が自分の身体で押さえつけること、向精神薬の過剰服用、自分で開けられない居室への隔離を、身体的虐待の具体例として挙げています。

研修でこの接続は必ず触れてください。「3要件を満たさない身体拘束は、手続きの不備ではなく虐待として扱われる」——これが伝わっているかどうかで、現場の緊張感がまったく変わります。

研修時間に法令上の定めはない|20分でいい理由

虐待防止研修を20分にしても最後まで残す3点(殴るだけではない・疑いの段階で通報・言い先を実名で)の図

先に結論を言います。虐待防止研修に、時間の下限を定めた規定はありません。運営基準が求めているのは「従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること」であって、何分やれという条文はありません。20分でも要件は満たします。

運営指導で見られているのは「時間」ではない
見られる 確認されること
実施日 前回の実施日から13か月以上空いていないか。「定期的に」は年度ではなく直近1年で見られます
受講者 分母(全従業者数)と受講者数。欠席者をいつフォローしたかの記載があるか
内容 何を扱ったか。レジュメ・使用資料が添付されているか
理解度の確認 確認テストやアンケートなど、受けた側の反応が残っているか
新規採用時 年次研修とは別に、採用のつど実施した記録があるか
委員会との接続 委員会の結果が従業者に周知されたか。研修がその周知の場になっているか
この6つのどこにも「何分以上」は出てきません。逆に言えば、90分やっても、レジュメと受講者名簿と理解度の確認が残っていなければ指摘されます。時間を延ばすことは、指摘対策にはなりません。

虐待防止研修こそ、短く何度もやるべき理由

身体拘束の研修以上に、虐待防止研修は長さが効きません。理由は単純で、90分の講義を聞いても「自分はやっていない」という結論は変わらないからです。変わるのは、自分の現場の具体的な場面について判断を迫られたときだけです。

20分×複数回が、90分×1回に勝つ3つの理由
  • グレーゾーンは1回では潰れない。「食事を混ぜる」「ちょっと待ってと言ったまま」のような場面は、1回話しても3週間で戻ります。3か月おきに20分ずつ触れるほうが残ります
  • 回と回のあいだに、現場で試す時間がある。「呼称を見直してみる」を宿題にできる。90分1回だと、試した結果を持ち寄る場がありません
  • 全員がそろう。20分なら、シフトを2回に分けても回せます。しかも虐待防止研修は送迎・調理・事務まで含めて受講対象なので、長い研修ほど全員招集が絶望的になります
ただし、回数の要件は変わりません。短くしても、必要なのは「年1回以上+新規採用時に必ず」です。20分に短縮したから年4回やらなければいけない、という話ではありません。年1回20分でも、要件としては満たします。複数回にするのは、要件のためではなく実効性のためです。

短くするときに、削ってはいけない3つ

20分に圧縮すると、どこかを削ることになります。削る順番を間違えると、研修としての体を成さなくなります。次の3つだけは、何分になっても残してください。

最後まで残す3点
残すもの 理由
虐待は「殴る」だけではないこと 定義を狭く持っている職員がいる限り、心理的虐待も放棄・放置も報告されません。職員の都合を優先した支援が虐待になりうるという一点だけでも伝われば、研修の価値はあります
疑いの段階で通報する義務があること 「事実が確認できてから」と考えている職員が圧倒的に多い。確認できなくても通報する義務があることは、毎回言い直す必要があります
気づいたときの言い先(実名) 研修でいちばん行動が変わるのはここです。虐待防止責任者が誰なのかを役職と氏名で言わないと、報告は上がってきません
逆に、時間がないときに削ってよいのは法律の成立経緯と刑事罰の条文一覧と減算額の詳細です。刑法の条文番号を読み上げても、明日の支援は1ミリも変わりません。

「20分では短すぎると言われませんか」への答え

聞かれることの多い不安なので、先に書いておきます。指摘されるとしたら、時間そのものではなく記録の書き方です。研修実施記録の「時間」欄に「20分」とだけ書いてあり、内容欄が「虐待防止について」だけなら、中身を疑われます。

防ぎ方は単純です。内容欄に、扱った項目を箇条書きで3行以上書く。そして使用したレジュメと確認テストを添付する。この2つがあれば、20分でも説明が通ります。実際、記録が薄いことで指摘を受けるケースのほうが、時間が短いことで指摘を受けるケースよりはるかに多いです。

【20分版・講師台本】そのまま読める逐語スクリプト

虐待防止研修20分版の時間配分(導入・虐待とは何か・3問・気づいたら・1つ決める)の図

ここが本命です。そのまま読み上げて20分になるように書いてあります。〔 〕は自分の事業所の言葉に置き換える場所、太字は間を取る場所です。準備するのはレジュメ1枚(5類型と通報の宛先)と、後述のグレーゾーン設問を3問だけ抜いた紙です。

20分の配分
時間 内容 ねらい
0〜2分 導入 犯人探しではないと宣言する。「殴る」の話ではないと最初に言う
2〜6分 虐待とは何か 5類型を「職員の都合が優先された瞬間」という1本の軸で説明する
6〜13分 その場で3問 グレーゾーン設問を3問だけ。挙手で判定し、割れたところだけ話す
13〜17分 気づいたらどうするか 通報の手順と宛先。ここが研修の心臓部
17〜20分 1つ決める 「この1年で変えるもの」を1つだけ決めて紙に書く

0〜2分:導入

[読み上げ]

今日は虐待防止の研修です。20分で終わります。

最初に1つ、はっきり言っておきます。今日は「誰かが虐待をしているんじゃないか」という話は一切しません。犯人探しではありません。今日ここで出た話は、評価にも人事にも使いません。

それから、もう1つ。今日は「殴る・蹴る」の話もしません。

たぶん皆さん、虐待と聞いて思い浮かべるのは、ニュースになるような場面だと思います。でも、厚生労働省が虐待の例として挙げているものの中には、こういうものが入っています。

〔※ここでレジュメを見てもらう〕

「自分で食べられるのに、職員の都合で全部介助してしまう」。「食べやすいように、食事を混ぜてしまう」。「これができたら外に行こうね、と交換条件を出す」。「話しかけられたのに、ちょっと待ってね、と言ったまま戻らない」。

——今日の20分は、この話です。

この導入で会場の空気が変わります。「うちの話ではない」から「うちの話かもしれない」へ移すのが、最初の2分の唯一の仕事です。ニュース事例は使わないでください。

2〜6分:虐待とは何か

[読み上げ]

法律では、障害者虐待は5つに分けられています。身体的、性的、心理的、放棄・放置、経済的。レジュメにあるとおりです。

5つを全部覚える必要はありません。覚えてほしいのは、5つに共通している1本の線です。

それは、「本人の意思や状態よりも、職員の都合が優先された瞬間に、虐待の側に入る」ということです。

さっきの例で言うと、食事を混ぜるのは職員が提供しやすいからです。おむつを使うのは職員の都合です。交換条件を出すのはそのほうが動いてもらえるからです。全部、悪意はありません。悪意がなくても虐待になる。ここが、いちばん大事なところです。

身体的虐待についても、1つだけ言っておきます。正当な理由のない身体拘束は、身体的虐待です。とっさに押さえる、前に立ちふさがる、自分では開けられない部屋に入ってもらう。手続きを踏んでいなければ、これは拘束の話ではなく虐待の話になります。

そして、放置も虐待です。他の利用者に手が出てしまう方がいて、そこに何も手を打っていない。これは「大変ですね」ではなく、放棄・放置として例示されています。

まとめます。虐待は、特別に悪い人がやることではありません。忙しさと善意の延長線上で起きます。だから研修が必要なんです。

ここを4分で切ってください。5類型それぞれに例を挙げ始めると、確実に10分かかります。類型の網羅ではなく、「職員の都合」という1本の軸だけを渡すのがこの台本の設計です。網羅は後述の具体例40をレジュメに添付して代替します。

6〜13分:その場で3問

後述の【演習】から、自分の事業所に関係する3問だけを選んで印刷してください。放課後等デイサービスならQ2(呼称)・Q4(おやつを取り上げる)・Q9(他害の放置)、グループホームならQ1(金銭管理)・Q5(居室への立ち入り)・Q7(「出ていってもらう」発言)を軸にすると、確実に議論になります。

[読み上げ]

ここから7分、3問だけやります。虐待にあたる・あたらない・グレーの3つで判定してください。

先に言っておきます。この3問に公式の正解はありません。今日のねらいは、正解を当てることではなくて、うちの中で判断が割れる場所を見つけることです。割れたら成功です。

やり方は簡単です。1問ずつ読みます。読んだら、挙手でお願いします。虐待にあたると思う人。あたらないと思う人。グレーだと思う人。

〔※1問ごとに挙手を取る。全員同じ判定なら解説せず次へ。割れたら止まる〕

割れましたね。では、グレーにした方にうかがいます。何が違っていたら、はっきり「あたらない」と言えますか。

〔※ここで出てくる「本人に聞いていたかどうか」「支援計画に書いてあるかどうか」「他の職員も同じようにやっているか」といった言葉が、この研修の最大の成果。ホワイトボードか紙に必ず書き残す〕

20分版で講師がやりがちな失敗3つ
  • 3問とも解説してしまう。時間が足りなくなります。全員の判定がそろった問題は、解説せずに飛ばしてください。割れた問題だけに時間を使います
  • 「それは虐待です」と断じてしまう。言った瞬間に、以降だれも自分のやっていることを出さなくなります。虐待防止研修では、これが致命傷になります。「そう判断した理由を聞かせてください」に置き換えてください
  • 特定の職員のやり方が話題になったときに流してしまう。逆に、名指しで詰めるのも失敗です。「それは今日は個人の話にしません。場面として委員会に持っていきます」と、その場で線を引いてください

13〜17分:気づいたらどうするか

[読み上げ]

ここからが、今日いちばん大事な4分です。

虐待かもしれない場面を見たとき、どうするか。法律では、通報が義務になっています。これは施設の外の人だけの話ではなくて、中で働いている私たちにも同じようにかかっています。

よく聞かれるのが、「確信がないのに言っていいんですか」です。いいです。というより、確信がなくても言う義務があります。法律の言葉は「虐待を受けたと思われる障害者を発見した者」です。事実が確認できていなくても通報するように、最初からそう書かれています。虐待かどうかを判断するのは私たちではなく、市町村です。

もう1つ、よく聞かれること。「言ったら自分が不利になりませんか」。なりません。通報したことを理由に解雇したり不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています。市町村も、誰が言ったかが分からないように配慮して聞き取りをします。匿名でも通報できます。

ここで、1つだけ誤解を解かせてください。

通報は、誰かを罰するための手続きではありません。早い段階で表に出せば、利用者の被害は小さくて済みます。そしてやってしまった職員にも、やり直す道が残ります。逆に、隠して大きくなってから発覚した事業所は、行政処分を受けて、新規の受け入れが止まって、職員の仕事もなくなります。いちばん高くつくのは、黙っていることです。

では、実際に気づいたとき、どうするか。まず〔管理者/サービス管理責任者の◯◯〕に言ってください。うちの虐待防止責任者は〔◯◯〕です。

〔※ここは必ず役職と氏名で言い切る。「上司に」では伝わらない〕

そして、これも言っておきます。言ったのに動かなかったときは、自分で市町村に通報してください。それは裏切りではありません。手順として、そうしていいことになっています。窓口は〔◯◯市 障害福祉課/虐待防止センター 電話◯◯〕です。レジュメに書いてあります。

最後の「言ったのに動かなかったときは自分で通報していい」は、管理者にとって言いにくい一文です。ですが、これを管理者自身の口から言うことに意味があります。手引きにも、上司に報告したにもかかわらず通報されなかったときは「うやむやにせず自ら通報すべき」と明記されています。ここを飛ばすと、研修全体が建前になります。

17〜20分:1つだけ決める

[読み上げ]

残り3分です。ここで1つだけ決めます。

これから1年で、変えるものを1つ。紙に書いてください。「全部見直す」は禁止です。1つだけです。

さっき割れた〔◯◯の場面〕でもいいですし、呼び方を変える、声かけを1つやめる、そういう小さいことで構いません。小さいほうがいいです。

〔※全員分でなくてよい。2〜3人に読み上げてもらう〕

ありがとうございます。この紙は回収して、研修記録に添付します。そして次の虐待防止委員会の議題にします。1年後、この研修の最初に「去年これを決めました」と読み上げるところから始めます。

最後に1分だけ制度の話をします。この研修と委員会と責任者、この3つがそろっていないと減算がかかります。所定単位数の1%です。ただ、減算のために今日集まったわけではありません。さっき決めた1つが実際に変われば、この話は自動的に消えます。順番はそっちです。

20分、ありがとうございました。アンケートだけ、その場で書いて出してください。「今日いちばん意外だったこと」の1行だけで結構です。

アンケートは必ずその場で回収してください。「あとで出して」にすると半分しか集まらず、研修記録の分母が崩れます。20分の研修は、この最後の1分で記録の質が決まります。

15分×4回の年間シリーズ|1回で終わらせない組み立て

虐待防止研修15分×4回の年間シリーズ例(4月・7月・10月・1月)の図

20分を年1回やれば要件は満たせます。そのうえで、実際にグレーゾーンが減るのは複数回に分けたときです。ここでは、15分を年4回に割り付ける形を置いておきます。虐待防止委員会の直後に15分だけ職員を残すという運び方がいちばん現実的で、しかも「委員会の結果を従業者に周知徹底する」という要件を同時に片づけられます。

15分×4回の年間シリーズ(例:4月・7月・10月・1月)
回 テーマ 使う教材と、その回のゴール
第1回
4月
虐待とは何か/通報 【20分版台本】の2〜6分と13〜17分をつなげて読む。ゴールは「職員の都合が優先された瞬間」という軸と通報の宛先が全員に入ること。年1回以上の要件はこの回で満たします
第2回
7月
うちのグレーゾーン 【演習】から自事業所に関係する5問。ゴールは判断が割れる場面を3つ書き出すこと。書き出したものはそのまま委員会の議題になります
第3回
10月
職場環境の点検 後述の労働環境チェックリストを各自で記入する回。支援の話を一度離れて、休憩・インターバル・相談先を点検します。虐待防止研修でいちばん飛ばされがちで、いちばん効く回
第4回
1月
1年の振り返り 第1回で決めた「1年で変えるもの1つ」がどうなったかを確認する。変えられていなくてよい。なぜ変わらなかったかを話す。来年度の1つを決めて終わる
第2回で出た「判断が割れる場面」は、必ず議事録に残して第4回で開き直してください。この往復があるかどうかが、形だけの研修との分かれ目です。

分割したときの記録の残し方

分割実施でもっとも多い失敗は、4回分を1枚の記録にまとめてしまうことです。これをやると、どの回に誰が出たのかが追えなくなり、欠席者フォローの記載も消えます。

分割実施の記録ルール
  • 1回につき1枚。4回なら研修実施記録は4枚です。時間は「15分」でかまいません
  • 各回に分母と受講者数を書く。分母は支援員だけでなく送迎・調理・事務・宿直を含めた全従業者です
  • 第1回の記録に「年次研修として実施」と明記する。第2〜4回は「継続研修」と書き分けておくと、運営指導で要件の充足を説明しやすくなります
  • 委員会と同日にやった回は、両方の記録を作る。委員会の議事録と研修実施記録は別物です。1枚で兼ねると、どちらの証明にもなりません
  • レジュメは毎回つける。15分でもA4の1枚は作ってください。これがないと内容を証明できません
回数を増やすこと自体が目的になると、続きません。4回が無理なら2回でも構いません。年1回20分でも要件は満たします。続く形を選ぶほうが、計画倒れで記録が飛ぶより、はるかに安全です。

研修を動画にして回す|手引きが録画視聴を認めています

全員がそろう時間がどうしても作れないなら、動画にするのがいちばん確実です。そして虐待防止研修については、厚生労働省の手引き自体が録画の活用を挙げています。ここは遠慮しなくて大丈夫な部分です。

「研修に参加できなかった職員に対しては、研修を録画し、その視聴を促したり、研修の参加者が所内で研修に参加できなかった職員への伝達研修を実施したりする。あるいは外部研修をもとに事業所所内で研修を実施する。」

厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月)/効果的と考えられる取組ポイント

ただし「動画を配って終わり」は実施の証明になりません。ここでは、動画で回すときの設計をまとめます。

この記事の【20分版・講師台本】は、そのまま動画のナレーション原稿として使えます。読み上げて20分なので、章ごとに切れば下表の①〜④になります。自作する場合は、台本の〔 〕を自分の事業所の言葉に置き換えてから録ってください。

1本は5分以内。4本に割る

20分の動画を1本作ると、途中で止まったまま戻ってこない職員が必ず出ます。5分以内×4本に割ってください。休憩時間や送迎の待ち時間に1本ずつ消化できること、未視聴がどこで止まっているかが分かること、そしてあとで必要な章だけ見返せることが理由です。3本目の「気づいたらどうするか」だけを新人に見せる、という使い方ができます。

動画の章立て(合計17〜19分)
本数 内容 入れるもの
①
4分
虐待は「殴る」だけではない 職員の都合が優先された瞬間、という軸。食事を混ぜる・全介助・交換条件・呼称。ここを一般論のイラストで済ませない
②
5分
うちのグレーゾーン 自事業所に関係する場面を3つ。実際の食堂・居室・送迎車の写真を使う(利用者が写っていないもの)。一般的なイラストより圧倒的に効きます
③
4分
気づいたらどうするか 疑いでも通報義務があること、不利益取扱いが禁止されていること、そして自事業所の言い先を実名で。「虐待防止責任者の〔◯◯〕さんに、その日のうちに」
④
5分
通報の窓口と手順 市町村の窓口名と電話番号を画面に出す。上司に言って動かなかったときに自分で通報してよいことまで含める
外部の研修動画を使う場合でも、③と④だけは自事業所で撮り足してください。虐待防止責任者の名前も市町村の窓口も、事業所ごとに違うので外部動画には絶対に出てきません。2分の自撮りで構いません。

動画に必ず入れる「自事業所の1枚」

一般論だけの動画は、見ても何も変わりません。視聴後のアンケートが「勉強になりました」で埋まるのは、たいていこれが原因です。次の3つを1枚のスライドにして、冒頭に入れてください。

冒頭1枚に入れる3つ
  • 虐待防止責任者の役職と氏名。これを出さない研修動画は、たとえ内容が正しくても行動を変えません
  • 市町村の通報窓口(名称と電話番号)。「市町村に通報します」ではなく、番号まで出す。メモを取らせるつもりで3秒静止させてください
  • 去年の研修で決めた「1つ」。前年の研修で全員が紙に書いたものを1つ読み上げる。去年の続きだと分かった瞬間に、視聴者の姿勢が変わります

見せっぱなしにしない|視聴後5分の3つの問い

動画の弱点は、一方向で終わることです。判断が割れる場所を見つけるという、この研修の核心が起きません。視聴後に5分だけ、話す場を作ってください。申し送りの最後でも、2人ずつでも構いません。

視聴後に投げる3つの問い(これだけで5分)
  • 「動画に出てきた場面で、うちでも起きていると思ったものはどれですか」——一般論を自分の現場に引き戻す
  • 「グレーだと思ったのはどれですか。何が違っていれば、はっきり『あたらない』と言えますか」——ここで出た言葉が、そのまま委員会の議題になります
  • 「この1年で変えるとしたら、何を1つ選びますか」——1つだけ。紙に書いて出してもらい、研修記録に添付する
この5分が入るだけで、動画研修は集合研修とほぼ同じ実効性になります。逆にここがないと、視聴記録は残っても中身は残りません。

視聴管理表と、記録への書き方

動画研修でいちばん指摘を受けやすいのは「誰が視聴したか分からない」状態です。次の管理表を1枚作り、研修実施記録に添付してください。

様式:動画研修 視聴管理表
氏名 職種 ①②③④ 視聴完了日 確認テスト 話し合い実施日
〔氏名〕 支援員 ☑☑☑☑ 〔 月 日〕 提出済 〔 月 日〕/〔相手〕
〔氏名〕 送迎 ☑☑□□ 未了 — 〔フォロー予定日を必ず記入〕
未視聴者の行を空欄のままにせず、フォロー予定日を書いてください。運営指導で見られるのは「全員が受けたか」ではなく「受けていない人をどう追いかけたか」です。予定日が書いてあれば、未了でも説明が通ります。送迎・調理・事務の行が最初から存在しない管理表は、それ自体が指摘材料になります。

研修実施記録の各欄には、次のように書きます。

動画研修の場合の記録の書き方
欄 書くこと
実施方法 「動画視聴(各自視聴)+視聴後の話し合い」と明記。集合研修と書かない
実施日 視聴期間(〔◯月◯日〜◯月◯日〕)と、話し合いの実施日を両方書く
使用資料 動画の名称・本数・合計の尺・配信元(自作なら「自事業所作成」)。レジュメを配ったならその名称も
内容 章立て①〜④をそのまま転記する。ここが1行だと、中身を疑われます
理解度の確認 確認テストの提出状況、または視聴後の話し合いで出た意見を3つほど書く
受講者 視聴管理表を添付し、分母(全従業者数)と視聴完了者数を書く

厚生労働省が公開している研修動画も使えます

自作が難しい場合、厚生労働省が「障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修」の資料と動画をウェブサイトで公開しています。共通講義として「障害者虐待防止総論」「障害者虐待防止法の概要」「当事者の声」「性的虐待の防止と対応」「身体的拘束等の適正化の推進」「通報の意義と通報後の対応」などが並んでいます。管理者・虐待防止責任者向けの講義もあります。

このページには「本ページで提供する資料及び動画は、関係者間で研修内容を学習・共有する際にご活用ください」と書かれており、その他の目的での無断使用やSNSへの投稿は控えるよう記載があります。使う前に必ず現在の掲載ページで注意書きを確認してください。また、これらは一般論の講義なので、使う場合も③と④(自事業所の言い先と窓口)は必ず自分で足してください。

動画にするときにやりがちな失敗4つ

この4つを避けるだけで、視聴完了率が変わります
  • 1本が長い。15分を超えると完走されません。5分で切る
  • 重い事例から入る。虐待防止動画でいちばん多い失敗です。ニュース映像や重篤な事例で始めると、そこで「自分の話ではない」が確定します。グレーな場面から入ってください
  • 自事業所の情報が入っていない。責任者の名前も窓口も出てこない動画は、外部の研修と同じです。それなら外部のものを使ったほうが早い
  • 確認テストがない。視聴だけでは理解度の確認になりません。◯×10問でよいので、視聴後に提出してもらってください。後述の確認テスト20問から半分を選べば足ります

虐待の5類型と、現場で実際に起きる具体例40

レジュメの材料です。全部を配らないでください。自事業所に関係するものを5〜8件だけ抜いて1枚にすると、研修の密度が上がります。ニュースになるような重い事例はあえて入れていません。日常業務の中で実際に起きる形だけを並べています。

① 身体的虐待|8例

定義は「身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」です。暴行だけではなく、拘束と、乱暴な扱いが入るのがポイントです。

身体的虐待の具体例
No 場面 どこが問題か
1 とっさに腕をつかんで止める 反射的な行為でも、繰り返していれば正当な理由のない身体拘束。記録も報告もされていないことが問題の本体です
2 興奮した利用者に馬乗りになって押さえる 職員が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する行為として、手引きが例に挙げています
3 クールダウン室から出られないようにする 自分の意思で開けられない部屋に入ってもらうのは隔離。支援計画への位置づけと3要件がなければ虐待です
4 立ち上がらないよう車いすにベルトを付ける 本人が自分で外せるかどうかが分かれ目。外せなければ拘束です
5 手を出すのでミトン型の手袋を付ける 手引きが明示的に挙げている例。医学的診断と支援計画への位置づけがなければ虐待
6 落ち着かないので頓服を多めに使う 行動を落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させることは、身体的虐待として例示されています
7 介助しやすいようにベッドに押しつける 職員の都合で抑えつける行為。「早くしないと次が回らない」が理由になっていないか
8 拒否しているのに口に食べ物を入れる 本人が拒否しているのに職員の都合で食べさせる・飲ませる行為として例示されています

② 性的虐待|6例

この類型は、研修で扱いにくいことを理由に飛ばされがちです。飛ばさないでください。手引きは、性的虐待が他の類型より一層人目につきにくい場所で行われ、被害が潜在化しやすいことを指摘しています。そして介助の場面そのものが例示されている点が重要です。

性的虐待の具体例
No 場面 どこが問題か
9 介助しやすいので下半身を出したまま待たせる 「介助がしやすいという目的」で下半身を裸にしたり下着のままで放置することが、そのまま例示されています
10 おむつ交換を仕切りなしで行う 人前で排泄させたり、その場面を見せないための配慮をしないことが例に入っています
11 異性介助が固定化している 本人の意思に反した異性介助を繰り返すことは心理的虐待の例にもあります。令和6年度改定でも同性介助への配慮が求められました
12 更衣や入浴の場面を撮影する 記録目的でも不可。勤務中の私物スマートフォンの携行を禁止することが防止策として挙げられています
13 冗談として性的な話題を向ける 本人の前でわいせつな言葉を発する、性的な話を強要することが例示されています
14 職員と利用者が2人きりになる時間が固定化している 行為そのものではなく体制の問題。勤務シフトや業務分担の工夫で死角を作らないことが防止策とされています
研修で扱うときは、個人の倫理ではなく体制の話として切り出してください。「そんなことをする職員はいない」で終わらせず、「2人きりになる時間が構造的に発生していないか」を点検する形にすると、参加者が身構えずに議論できます。

③ 心理的虐待|12例

ここがいちばん多く、いちばん自覚されません。研修で時間を割くならこの類型です。手引きは威嚇・侮辱だけでなく、意欲や自立心を低下させる行為と交換条件の提示まで心理的虐待に含めています。

心理的虐待の具体例
No 場面 どこが問題か
15 「もう来なくていい」「出ていってもらうよ」 「ここにいられなくなるよ」「追い出す」などと言い脅す行為として例示。冗談のつもりでも成立します
16 「これができたらおやつね」 交換条件の提示。支援技法のつもりで日常的にやっている事業所が多い類型です
17 成人の利用者を子ども扱いの呼称で呼ぶ 子ども扱いするような呼称。本人の意思に反した呼び捨て・あだ名も含みます
18 失敗を笑いのネタにする 排泄の失敗や食べこぼしを嘲笑することが例示されています。場が和んだからよい、にはなりません
19 排泄介助中に「臭い」と言う 本人に聞こえていないつもりでも、侮辱的な発言として例示されています
20 話しかけられても無視する 忙しさが理由でも、無視は心理的虐待の例に明示されています
21 自分でできるのに全介助してしまう 意欲や自立心を低下させる行為。「そのほうが早いから」は職員の都合です
22 食べやすいように食事を混ぜて出す 手引きが「職員が提供しやすいように食事を混ぜる」と明記している例。悪意ゼロで起きます
23 トイレでできるのにおむつを使う 本人の意思や状態を無視して職員の都合を優先するケース
24 家族に伝えてほしいという訴えを流す 心理的に不当に孤立させる行為として例示。「言っても仕方ない内容だから」は理由になりません
25 その利用者以外だけで行事を決める ひとりだけ外して物事を決める・行事を行うことが例示されています
26 車いすを速く押して驚かせる 遊びのつもりでも、速いスピードで走らせ恐怖感を与える行為として例示されています
この12件は、そのまま演習の材料になります。研修で1つずつ挙手を取ると、必ず判断が割れます。割れた時点で、その場面は自事業所の課題として確定です。

④ 放棄・放置(ネグレクト)|9例

見落とされやすい類型です。とくに重要なのが、他の利用者による行為を放置することが、職員による放棄・放置にあたるという点です。法律の定義に明記されています。

放棄・放置の具体例
No 場面 どこが問題か
27 利用者間の他害に手を打っていない 他の利用者に暴力を振るう障害者に対して何ら予防的手立てをしていないことが明示の例。「本人同士のことだから」は通りません
28 「ちょっと待って」と言ったまま戻らない そのまま例示されています。忙しい事業所ほど日常的に起きます
29 おむつが汚れた状態を日常的に放置する 日常的な放置が要件。1回の遅れではなく常態化しているかを見ます
30 受診が必要なのに様子を見続ける 医療が必要な状況にもかかわらず受診させない、救急対応を行わないことが例示されています
31 処方どおりに服薬させていない 副作用が生じているのに放置することも含みます
32 嚥下できない形態の食事を出し続ける 本人が嚥下できない食事の提供が例に入っています
33 必要な眼鏡・補聴器を使わせない 必要な用具の使用を限定し、要望や行動を制限させる行為
34 移動に必要な車いすを使わせない 「歩く練習だから」も、支援計画に位置づけがなければ説明がつきません
35 「自己決定」と言って放置する 手引きが「自己決定といって、放置する」と明記している例。支援の言葉で正当化された放置がいちばん見つかりにくい
No.27とNo.35は、研修で必ず扱ってください。どちらも「支援の判断」として現場で正当化されており、その正当化ごと例示されています。とくに利用者間の他害は、記録に残っていても対応策が書かれていないケースが多く、運営指導でも見られます。

⑤ 経済的虐待|5例

グループホームと日中活動で起きます。「本人の同意があった」が通用しにくい類型であることに注意してください。手引きは、表面上は同意しているように見えても本心からの同意かどうかを見極める必要がある、としています。

経済的虐待の具体例
No 場面 どこが問題か
36 小遣いの上限を事業所の判断で決めている 日常的に使用するお金を不当に制限する行為。本人と話して決めた記録があるかどうかが分かれ目
37 おつりを渡さず事業所でまとめている 金額の大小ではなく手続きの問題。出納簿とレシートが本人単位で残っているか
38 職員が「少し貸して」と頼む 立場を利用して借りる行為として明示。金額にかかわらず即アウトです
39 本人に確認せず家族にお金を渡す 家族であっても、本人に無断で渡す・貸すことは例示されています
40 行事費を本人の口座からまとめて引く 本人が知らない、あるいは支払うべきではない支払に充てることにあたらないか
経済的虐待の防止は、研修より仕組みで止めるほうが確実です。金銭管理を1人に任せない、出納は複数名で確認する、総務部門がある法人は定期的に巡回する。手引きも、利害関係を持ち合わせない第三者的視点を自法人内に増やすことを勧めています。
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【演習】研修で配る設問|グレーゾーン判定12問

そのまま印刷して配れる設問です。20分版なら3問だけ抜いて使ってください。放課後等デイサービスならQ2・Q4・Q9、グループホームならQ1・Q5・Q7、生活介護ならQ6・Q8・Q10を軸にすると議論になります。

公式の正解はありません。以下の「判定の目安」は手引きの例示に沿った整理であって、個別の事案の結論ではありません。研修のねらいは正解当てではなく、自事業所の中で判断が割れる場所を見つけることです。割れたら成功と伝えてから始めてください。
Q1|グループホームで、利用者が一度に使いすぎてしまうため、1日の小遣いを職員の判断で1,000円までと決めている。本人には伝えていない。
判定の目安虐待にあたる 「日常的に使用するお金を不当に制限する」に該当します。
何が違えばグレーでなくなるか:本人と話して決めたこと、その内容が支援計画または個別の記録に残っていること、金額の見直しの機会があること。「本人のため」だけでは説明になりません。
Q2|放課後等デイサービスで、高校生の利用者を全職員が「◯◯ちゃん」と呼んでいる。本人も嫌がっていないように見える。
判定の目安グレー 「子ども扱いするような呼称で呼ぶ」は心理的虐待の例に挙げられています。
何が違えばグレーでなくなるか:本人に呼び方を聞いたことがあるか。「嫌がっていないように見える」は確認ではありません。1度聞いて記録を残せば、それで解決する類のグレーです。
Q3|送迎車で立ち上がってしまう利用者に、シートベルトの上からさらにベルトを追加している。安全のためで、家族にも口頭で伝えてある。
判定の目安グレー 安全確保が目的でも、本人が自分で外せないなら身体拘束です。正当な理由のない拘束は身体的虐待にあたります。
何が違えばグレーでなくなるか:3要件(切迫性・非代替性・一時性)の検討記録、支援計画への位置づけ、家族への書面での説明と同意、そして代替手段を試した記録。「家族に口頭で伝えた」だけでは足りません。
Q4|放課後等デイサービスで、活動中に走り回った利用者に「今日はおやつなしね」と伝え、実際に出さなかった。
判定の目安虐待にあたる 交換条件の提示であり、かつ他の利用者と差別的な取り扱いをすることにも該当します。
何が違えばグレーでなくなるか:ここはグレーにできません。罰として食べ物を取り上げる運用は、支援計画に書いてあっても正当化されません。走り回る行動への対応は、環境調整と支援手順で組み立て直してください。
Q5|グループホームで、職員が居室のドアをノックせずに開けて入ることが日常になっている。緊急時にすぐ対応できるようにという理由。
判定の目安グレー 行為そのものは5類型の明示例ではありませんが、プライバシーの侵害が常態化している職場は、他の虐待も起きやすいというのが手引きの整理です。
何が違えばグレーでなくなるか:ノックと声かけを手順として決めていること、居室に入る必要がある場面を明文化していること。「緊急時のため」が24時間に拡張されていないかを点検してください。
Q6|生活介護で、時間内に食べ終わらない利用者の食事を、職員が混ぜて食べやすくして提供している。本人からの申し出はない。
判定の目安虐待にあたる 手引きは「職員が提供しやすいように食事を混ぜる」を心理的虐待の例に挙げています。
何が違えばグレーでなくなるか:本人が希望していることが確認され、記録されていること。または嚥下の状態から形態調整が必要で、その根拠が支援計画にあること。「時間内に終わらないから」は職員の都合です。
Q7|グループホームで、夜中に大声を出す利用者に、職員が「続くようなら出ていってもらうことになるよ」と伝えた。実際に退居させるつもりはない。
判定の目安虐待にあたる 「ここにいられなくなるよ」「追い出す」と言い脅す行為として例示されています。実行の意思があったかどうかは関係ありません。
何が違えばグレーでなくなるか:ここもグレーにできません。住まいを失う可能性をほのめかすことは、居住系サービスでもっとも重い心理的圧力です。困っているのは事実なので、職員個人の言葉ではなく、委員会で対応を決めてください。
Q8|男性職員しかいない時間帯があり、女性利用者の排泄介助を男性職員が行っている。人員上やむを得ない。
判定の目安グレー 本人の意思に反した異性介助の繰り返しは心理的虐待の例に挙げられています。一方で、人員体制の制約は現実に存在します。
何が違えばグレーでなくなるか:本人の意向を確認した記録があること、確認した結果をシフトに反映しようとした形跡があること。令和6年度改定でも、本人の意思に反する異性介助がなされないようサービス管理責任者等が確認することが求められています。「やむを得ない」で止めず、やむを得ない理由と代替の検討を記録に残してください。
Q9|放課後等デイサービスで、特定の利用者が他の利用者を叩くことが続いている。記録には毎回「本児が◯◯君を叩いた」と書いているが、対応策は決めていない。
判定の目安虐待にあたる 他の利用者による行為を放置することは、職員による放棄・放置として法律の定義に明記されています。記録があることは免罪符になりません。
何が違えばグレーでなくなるか:予防的手立てを決めていること。座席配置、活動の分け方、人の配置、前兆への対応。「記録は残している」は、むしろ放置の証拠として読まれます。ここは運営指導でも見られる論点です。
Q10|忙しい時間帯に利用者から話しかけられ、「ちょっと待ってね」と言って、結局その日は戻らなかった。
判定の目安グレー 手引きは「話しかけ等に対し『ちょっと待って』と言ったまま対応しない」を放棄・放置の例に挙げています。ただし1回の出来事と常態化は区別されます。
何が違えばグレーでなくなるか:あとで戻る仕組みがあるかどうか。申し送りに書く、同僚に振る、その場で「◯時に聞くね」と時刻を言う。この設問は、個人の心がけではなく人員配置の話として議論してください。全員が該当するはずです。
Q11|活動中の様子を職員が私物のスマートフォンで撮影し、事業所の記録用として共有アプリに送っている。
判定の目安グレー 撮影の目的が業務でも、私物端末に画像が残ります。手引きは性的虐待の防止策として、勤務中の個人のスマートフォンの携行を禁止し不当な撮影を防止することを挙げています。
何が違えばグレーでなくなるか:事業所の端末を使うこと、保存先と削除の手順が決まっていること、保護者からの同意があること。ここは研修よりルールで止める論点です。
Q12|入浴を拒む利用者について、「本人の自己決定を尊重する」として、3週間入浴の声かけをしていない。
判定の目安虐待にあたる 手引きは「自己決定といって、放置する」を放棄・放置の例に明記しています。
何が違えばグレーでなくなるか:拒否の理由を探った記録、別の方法を試した記録(時間帯・順番・介助者・声のかけ方)、チームで検討した記録。自己決定の尊重は、働きかけをやめる理由にはなりません。この設問は、支援の言葉で正当化された放置を見つけるためのものです。
演習のあとに必ずやること
  • 割れた設問だけを書き出す。3問やって1問割れたら、その1問がその年の課題です
  • 出た言葉をそのまま記録する。「本人に聞いたかどうか」「計画に書いてあるかどうか」など、判断の分かれ目になった言葉は、次の委員会の議題名になります
  • その場で結論を出さない。20分では出ません。「委員会に持っていきます」で正解です
  • 配った設問用紙は回収して記録に添付する。レジュメと同じ扱いで、研修内容の証明になります

【確認テスト20問】研修の最後に配る理解度チェック

そのまま印刷して使える◯×問題です。研修実施記録の「理解度の確認」欄は、これを添付するだけで埋まります。20分版なら前半10問だけで十分です。動画研修の場合は、視聴後に提出してもらってください。

配るときは解説を伏せて印刷し、回収後に解説つきを配り直すか、その場で読み上げてください。間違いが多かった問題は、次回の研修のテーマにします。集計結果を1行メモして記録に残すと、翌年の計画が立てやすくなります。

基本編(1〜10問)

Q1|障害者虐待は、身体的虐待・性的虐待・心理的虐待・放棄放置・経済的虐待の5つに分類される。
◯ 障害者虐待防止法の定義です。5つすべてが「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」の対象になります。
Q2|身体に触れていなければ、虐待にはあたらない。
× 心理的虐待・放棄放置・経済的虐待は、身体に触れなくても成立します。無視すること、放置することも虐待です。
Q3|正当な理由のない身体拘束は、身体的虐待にあたる。
◯ 法律の定義に「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」と明記されています。3要件を満たさない拘束は、手続きの不備ではなく虐待です。
Q4|自分で食べられる利用者に、職員の都合で全介助をすることは虐待にあたりうる。
◯ 「意欲や自立心を低下させる行為」として心理的虐待の例に挙げられています。悪意がなくても成立します。
Q5|「これができたら外出させてあげる」という声かけは、支援技法なので問題ない。
× 交換条件の提示として心理的虐待の例に明示されています。目的が支援であっても変わりません。
Q6|他の利用者が特定の利用者を叩いているのを、手立てを打たずにいることは、職員の虐待にはあたらない。
× 他の利用者による行為の放置は、職員による放棄・放置にあたります。法律の定義に明記されています。記録を残していても、対応策がなければ同じです。
Q7|虐待を受けたと思われる利用者を発見したら、事実が確認できていなくても市町村に通報する義務がある。
◯ 条文は「虐待を受けたと思われる障害者を発見した者」です。疑いの段階で通報義務が生じます。虐待かどうかを判断するのは通報を受けた市町村です。
Q8|通報義務は施設の外部の人に課されるもので、施設の職員には適用されない。
× 内部の職員にも同じように課されます。職員から相談を受けた管理者やサービス管理責任者にも、疑いを感じた時点で通報義務が生じます。
Q9|通報したことを理由に、解雇その他の不利益な取り扱いを受けることはない。
◯ 法律で禁止されています。また、市町村は通報者が特定されないよう配慮して聴取します。匿名での通報も可能です。
Q10|虐待防止研修は、支援員だけを対象にすればよい。
× 対象は従業者です。手引きは、給食調理・事務・運転・宿直管理などの業務を担う職員も広い意味での支援者であるとしています。受講率の分母は全従業者です。

実務編(11〜20問)

Q11|虐待防止措置として義務づけられているのは、委員会・研修・責任者の3つである。
◯ ①虐待防止委員会を定期的に開催し結果を従業者に周知徹底する ②従業者に対し研修を定期的に実施する ③これらを適切に実施するための担当者を置く、の3つです。
Q12|研修さえ実施していれば、虐待防止措置未実施減算は適用されない。
× 3つのうち1つでも欠けていれば減算の対象です。委員会を開いていない、責任者を決めていない事業所は、研修をやっていても減算になります。
Q13|虐待防止措置未実施減算は、所定単位数の1%である。
◯ 令和6年度報酬改定で新設され、令和6年4月1日から施行されています。サービス種別による違いはありません。
Q14|虐待防止研修を実施していれば、身体拘束適正化の研修も実施したことになる。
× 別建てです。減算も要件も別で、身体拘束側は指針の整備が必須、施設・居住系では減算が所定単位数の10%になります。記録も分けて残してください。
Q15|研修は年1回以上実施すればよく、新規採用時に改めて行う必要はない。
× 年1回以上に加えて、新規採用時にも必ず実施する必要があります。年次研修の記録とは別に、採用のつどの記録が必要です。
Q16|虐待防止研修は、必ず事業所内で自前で実施しなければならない。
× 解釈通知では、協議会や基幹相談支援センター等が実施する研修に事業所が参加した場合でも差し支えないとされています。参加記録を事業所として残してください。
Q17|研修に参加できなかった職員には、録画の視聴や伝達研修で対応してもよい。
◯ 手引きが「効果的と考えられる取組ポイント」として明示しています。ただし視聴記録を個人単位で残すことが前提です。
Q18|虐待防止委員会は、事業所ごとに設置しなければならない。
× 解釈通知では法人単位での設置も可とされています。また、開催に必要な人数は、管理者と虐待防止担当者が参画していれば最低人数は問わないとされています。
Q19|虐待防止委員会は、開催して議事録を残せば要件を満たす。
× 運営基準は「定期的に開催し、その結果について従業者に周知徹底を図ること」を求めています。周知まで含めて1セットです。周知の方法と日付を記録に残してください。
Q20|施設内で虐待の疑いを把握した場合、まず内部で事実確認を済ませ、虐待と確定してから市町村に通報すればよい。
× これが最も重大な誤りです。市町村に通報することなく施設の中だけで事実確認を進め、事態を収束させると通報義務に反します。手引きは、内部処理で済ませた事案が後に発覚し、行政処分に至った例を挙げています。疑いの段階で通報し、そのうえで行政と連携して対応します。
採点と、記録への書き方
  • 点数は記録しない。個人の成績を残すと、次回から正直に答えなくなります。残すのは「提出者数」と「間違いが多かった設問番号」だけで十分です
  • 間違いが集中しやすいのはQ7・Q15・Q18・Q20です。とくにQ20(内部で確定してから通報)は、管理者層でも間違えます。ここが割れたら、次回はここだけで15分やる価値があります
  • 研修実施記録の「理解度の確認」欄には、「確認テスト20問を実施(提出◯名/◯名)。Q20の誤答が多く、通報のタイミングについて補足説明を行った」のように1行足すと、実施の実態が伝わります

通報義務|「不適切な支援」と言い換えた瞬間に、事故になる

虐待の通報と委員会の線引きの図。被害を受けた人が特定できていれば通報、特定できない一般的な課題は委員会・研修で扱う

研修の中身としてはここが最重要で、しかも管理者がいちばん間違えるところです。20分版では4分しか使えないので、管理者・虐待防止責任者はこの節を読んでから研修に臨んでください。

通報義務は「疑い」の段階で発生する

障害者虐待防止法第16条は、障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に、速やかな市町村への通報を義務づけています。手引きはこの「思われる」を次のように説明しています。

「明らかに虐待を受けた場面を目撃した場合だけでなく、虐待を受けたのではないかと疑いを持った場合は、事実が確認できなくても通報する義務があることを意味しています。」

厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月)

つまり確認は通報の前提条件ではありません。順番が逆です。通報を受けた市町村と都道府県が事実確認調査を行い、虐待にあたるかどうかを認定します。認定は第三者の仕事であって、事業所の仕事ではありません。

現場でいちばん多い誤解が「まず事実を確かめてから」です。善意の慎重さなのですが、これをやると通報義務違反になります。研修では、ここを1回はっきり言い切ってください。「調べるのは市町村の仕事です。私たちの仕事は、疑った時点で電話することです。」

管理者が相談を受けた時点で、管理者にも義務が生じる

見落とされやすい点です。職員から「あれはちょっとおかしいと思うんですが」と相談を受けた管理者やサービス管理責任者は、その相談内容や利用者の様子から虐待の疑いを感じた時点で、自分自身に通報義務が生じます。「報告を受けた」で止まらず、そこから義務が動き出します。

手引きは、通報義務が果たされなかった典型として「不適切な支援」という言葉に言い換えて内部の職員指導のみで終わらせた事例を挙げています。この言い換えは、現場では極めてよく使われます。そして、これをやった法人が後に特別監査を受け、行政処分に至っています。

「不適切な支援」で処理してよい場合と、いけない場合
状況 対応
グレーゾーンとして研修や委員会で扱う 適切 呼称・交換条件・食事の混ぜ方など、特定の利用者に生じた被害が見えていない場面は、支援の質の議題として扱って構いません。この記事の演習12問は、まさにその範囲です
特定の利用者に対する特定の行為が疑われている 通報 「◯◯さんが△△さんに」という形になった瞬間、それは委員会の議題ではなく通報案件です。委員会は通報のあとで動かします
職員から名指しの相談があった 通報 相談を受けた管理者に通報義務が生じます。「事実確認してから判断する」は選択肢にありません
本人や家族から申し出があった 通報 内部で聞き取りをして収束させると、通報義務違反かつ隠蔽と評価されます
判断に迷ったときの基準は1つです。「被害を受けた人が特定できているか」。特定できているなら通報。特定できない一般的な支援の課題なら委員会。この線引きを研修で共有しておくと、現場が迷いません。

通報の手順|職員に配る5ステップ

手引きが示している手順を、そのままレジュメに使える形に整理しました。この5つを1枚にして配るだけで、研修の実務的な価値はかなり上がります。

職員がとるべき通報の手順
  1. 虐待を受けたと思われる利用者を発見したら、速やかに市町村の障害者虐待防止センターに通報する
  2. 事業所が通報の手順を定めている場合は、まず直属の上司や管理責任者に報告し、通報してもらうことでも構わない
  3. 報告したのに通報されなかったときは、うやむやにせず自ら通報する。期間を長く置くと機会を逸します
  4. 虐待であったかどうかは第三者が認定するので、事実が確認できていなくても通報できる
  5. 通報したことによって、その人に不利益が生じないようにされる
レジュメには、この5つの下に自事業所の虐待防止責任者(役職と氏名)と市町村の窓口名・電話番号を印刷してください。番号が書いていないレジュメは、実際には使われません。

「通報は全員を守る」を、研修でどう伝えるか

条文を読み上げるだけでは、職員の中の「仲間を売る」という感覚は消えません。手引きが示している整理を、講師の言葉にして伝えてください。

研修で使える言い方
  • 軽い段階で通報できれば、利用者の被害は最小限で済む。これが第一です
  • やってしまった職員にも、やり直す道が残る。大きくなってから発覚すると、刑事責任を問われる段階まで行きます
  • 事業所も守られる。隠して発覚した法人は行政処分を受け、新規利用者の受け入れが止まり、設置者・管理者の刷新を求められることもあります
  • 実際、自分の施設から通報する割合は年々増えている。「通報する施設=悪い施設」ではなく、機能している施設のほうが通報しています
最後の1点は、研修で言うと空気が変わります。通報が「失敗の告白」ではなく「機能している証拠」だと伝わると、現場の言いやすさが変わります。

虐待は個人の資質では起きない|職場環境チェックリスト

ここは、虐待防止研修でほぼ確実に飛ばされる論点です。そして飛ばしたぶんだけ、研修が効かなくなります。

厚生労働省の調査では、虐待の発生要因として「教育・知識・介護技術等に関する問題」が最も高く、障害者支援施設では「職員のストレスや感情コントロールの問題」が高くなっています。共同生活援助ではこれらに加えて「倫理観や理念の欠如」も高い。つまり、大半は個人の人格ではなく、知識と余裕の不足です。

この整理が研修にもたらす意味は大きい。「気をつけましょう」で終わる研修が効かない理由が、ここではっきりします。気をつけても、残業が続いて休憩が取れず、相談できる相手がいなければ、いずれ手が出ます。

労働環境・条件のチェックリスト

手引きに掲載されているチェックリストです。各職員に配って記入してもらい、集計して委員会に上げるのが本来の使い方です。15分×4回シリーズの第3回は、これだけで1回分になります。

様式:労働環境・条件メンタルヘルスチェックリスト
確認項目 改善不要 改善必要
残業時間が多くならないように配慮されているか、または管理されているか □ □
休日出勤はあるか、あっても多くなっていないか □ □
休憩する時間と場所が確保されているか □ □
年休は法定以上付与され義務日数以上取得している、かつ取得しやすい状況であるか □ □
宿直は法定回数以内かつ宿直環境が整っているか □ □
勤務後の次の勤務までのインターバルは十分か(遅番の後の早番はないか等) □ □
上司・同僚などからフォローを受けられるか、または相談できるか □ □
人員配置や仕事量は適切に行われ、特定の人に負荷が偏っていないか □ □
各々の力量にあった難易度の仕事が割り振られているか □ □
指示命令系統は明確になっているか □ □
業務の内容や方針にしっかりとした説明があるか □ □
このチェックリストを使うときの条件が1つあります。「改善必要」が集まったときに、経営側が何かを動かすこと。集めるだけで何も変わらないと、翌年から全員が「改善不要」に丸をつけます。手引きも、これらの項目は経営者とともに取り組まなければならないものだと整理しています。

既存のチェックリストに足りないのは、この部分です

手引きははっきり指摘しています。よくある虐待防止チェックリストは支援場面の点検に偏っていて、労働環境・労働条件・人間関係・相談体制・会議体の設定といった、経営者と一緒でないと動かせない項目が不足していることが多い。

もし自事業所のチェックリストが「利用者を子ども扱いしていませんか」「乱暴な言葉を使っていませんか」だけで構成されているなら、職員に反省を求めるだけの道具になっています。上の11項目を足してください。

研修の中で5分だけ、この話をする

20分版に組み込む余裕はありませんが、時間が取れる回では次の一言を入れてください。効果が大きい割に、ほとんどの研修で言われていません。

[読み上げ・時間があるときの追加パート]

最後に1つだけ。虐待は、性格の悪い人がやることではありません。

国の調査でいちばん多い原因は、知識や技術が足りないことです。次に多いのが、職員のストレスと、感情のコントロールです。倫理観の問題は、その次です。

つまり、余裕がなくなれば誰でも起こしうるということです。だから「気をつけます」では防げません。

皆さんにお願いしたいのは1つです。きついときに、きついと言ってください。休憩が取れていない、シフトが回っていない、あの方への対応が分からない。それを言ってもらえないと、こちらは手を打てません。

言いにくいことを言える職場かどうかが、虐待防止の実体です。今日の研修の内容より、そっちのほうが大事です。

管理者がこれを言うと、アンケートの自由記述の質が変わります。虐待防止研修のアンケートが「勉強になりました」で埋まる事業所は、ここを言っていないことが多いです。

虐待防止委員会を、現実的に回す

虐待防止委員会の条件(法人単位・最低人数なし・オンライン可・既存会議と併催)と現実的な最小構成の図

研修とセットで義務になっているのが委員会です。そして研修より委員会のほうが止まっている事業所が多い。小規模事業所ほどそうです。ここは、規制が思っているより緩いことを知るだけで動き出します。

思っているより、条件は緩い

解釈通知で認められていること
よくある思い込み 実際
事業所ごとに設置しないといけない 法人単位での設置も可。多拠点なら法人でまとめて、理事長が運営や取りまとめをサポートする形が推奨されています
何人か集めないと成立しない 最低人数は問われません。管理者と虐待防止担当者(必置)が参画していれば成立します
集まって対面でやらないといけない オンライン会議でも可。むしろ第三者が参加しやすくなるという理由で勧められています
単独の会議を新たに立てないといけない 既存の会議体と併せて開催できます。定期的な事業所会議やケースカンファレンスの時間に続けて実施する形が示されています
指針を作らないといけない 虐待防止措置未実施減算の要件には指針は含まれていません(身体拘束側は必須)。ただし作ること自体は推奨されます
現実的な最小構成は、「月次の事業所会議の最後30分を虐待防止委員会にする。年1回はその直後に15分の研修をつける」です。これで委員会・周知・研修の3つが同時に片づきます。

委員会の3つの役割

「何を話せばいいのか分からない」という声が多いので、手引きが示す3つの役割を、議題の形に落としておきます。

そのまま議事次第に使える3項目
役割 この回で話すこと
①計画づくり 年間研修計画、掲示物やチェックリストの作成、虐待が起こりやすい職場環境の確認、ストレス要因が高い労働条件の見直し
②チェックと
モニタリング
各職員の自己点検結果の集計報告、個別支援計画の作成過程で出てきた課題、発生した事故(不適切な対応事例を含む)・苦情相談・職員のストレスの状況
③発生後の検証 虐待やその疑いが生じた場合、行政の事実確認を踏まえた事案の検証と再発防止策の検討
②の集計は、虐待防止マネジャー(サービス管理責任者等)が行って委員会に報告する、という役割分担が想定されています。研修のアンケートと演習で出た「割れた場面」は、そのまま②の材料です。研修と委員会がつながるのはここです。

「結果を従業者に周知徹底」を、記録でどう残すか

要件は「開催すること」ではなく「開催し、その結果について従業者に周知徹底を図ること」です。議事録だけ残して周知の記録がない事業所が、非常に多い。

周知の記録の残し方(どれか1つで可)
  • 議事録の末尾に周知欄を作る。「◯月◯日 申し送りにて全職員へ周知(欠席者◯名には◯月◯日に個別に伝達)」の1行
  • 周知用の要約を1枚作って回覧し、押印欄をつける。回覧板方式がいちばん証拠として強い
  • 委員会の直後に15分の研修を実施し、その研修実施記録を周知の証拠にする。年間シリーズを採る場合はこの形がもっとも効率的です
委員会の議事録と研修実施記録を1枚で兼ねないでください。兼ねると、委員会をやった証拠にも研修をやった証拠にもなりません。同じ日でも、紙は2枚に分けます。

虐待防止責任者は、誰を置くか

運営基準上は「措置を適切に実施するための担当者」です。手引きは、サービス管理責任者・サービス提供責任者・ユニットリーダーなど現場で虐待防止のリーダーになる職員を虐待防止マネジャーとして配置する形を示しています。

責任者を決めるときの実務ポイント
  • 掲示と、利用者・家族への周知をセットにする。手引きには「当施設の虐待防止責任者は◯◯です。ご心配がありましたら、お気軽にご相談ください」という掲示の例が載っています
  • 研修で名前を言う。決めただけで現場が知らない状態がいちばん多い。20分版台本では、必ず役職と氏名で言い切るようにしてあります
  • 複数事業所がある法人は、マネジャー間で基準をそろえる。同じ場面を別の人が見て判断が違うと、報告が上がる事業所と上がらない事業所ができます
  • 総務など支援に利害のない部門があれば、巡回に入れる。金銭管理や施設内環境の点検に、第三者的な視点を法人内で確保する方法として挙げられています

研修実施記録・アンケート様式

そのままコピーして使える様式です。研修そのものより、この紙のほうが指摘に直結します。20分の研修でも、この2枚さえ整っていれば説明は通ります。

様式1:虐待防止研修 実施記録

研修実施記録(そのまま転記して使えます)
欄 記入例 注意点
研修名 虐待防止研修(年次) 「年次」か「新規採用時」か「継続」かを必ず書く。身体拘束の研修と同じ紙にしない
実施日時 〔◯年◯月◯日〕
17:30〜17:50(20分)
前回実施日から13か月を超えていないか。時間が20分でも問題ありません
実施方法 集合研修/
動画視聴+話し合い
実態どおりに書く。動画なら「集合研修」と書かない
講師 〔役職・氏名〕 外部研修に参加した場合は主催者名と研修名を書く
対象/受講者 全従業者〔◯〕名中
〔◯〕名受講
分母は送迎・調理・事務・宿直を含む全従業者。名簿を添付する
欠席者対応 〔◯〕名欠席。
〔◯月◯日〕に個別実施予定
空欄にしない。予定日が書いてあれば未了でも説明が通ります
内容 ①虐待の5類型と、職員の都合が優先される場面
②グレーゾーン判定3問(呼称・交換条件・他害の放置)
③通報義務と自事業所の報告ルート
④この1年で変えることを1つ決める
3行以上。ここが「虐待防止について」の1行だと中身を疑われます
使用資料 レジュメ1枚
設問用紙
確認テスト20問
現物を添付する。添付がないと内容を証明できません
理解度の確認 確認テスト実施(提出〔◯〕名)。Q20の誤答が多く、通報のタイミングを補足説明 テストかアンケートの結果の要約を1行。実施したという事実だけでは弱い
次回への申し送り 演習で判断が割れた〔◯◯の場面〕を次回委員会の議題とする この欄があると、研修が単発でないことが伝わります
添付するものは「レジュメ・受講者名簿・設問用紙・確認テスト・職員が書いた『1年で変えること』の紙」の5点。これで研修の実在は十分に証明できます。

様式2:研修アンケート(その場で回収する1枚)

設問は4つだけにしてください。多いと書かれません。3番目が、この研修でいちばん価値のある回答になります。

アンケート(A5・1枚でよい)
  • Q1 今日いちばん意外だったことを1つ書いてください。(自由記述1行)
  • Q2 うちでも起きていると思った場面はありましたか。(ある/ない/わからない + 差し支えなければ内容)
  • Q3 この1年で変えることを1つ書いてください。(自由記述1行)
  • Q4 言いにくくて言えていないことがあれば書いてください。無記名で構いません。(自由記述)
Q4は必ず入れてください。虐待の早期発見で機能するのは、研修の知識より、この1行です。ここに何か書かれていたら、その日のうちに動いてください。書かれたのに動かなかった場合、次からは誰も書きません。

様式3:新規採用時研修の記録

忘れられがちで、運営指導では必ず見られます。年次研修の記録とは別の紙にしてください。

新規採用時研修 記録(1人1枚)
欄 書くこと
対象者 氏名・職種・入職日。入職日から実施日までの間隔が見えるようにする
実施日 入職後おおむね1か月以内が目安。配属前が理想です
実施方法 動画視聴でも可。その場合も自事業所の責任者名と通報窓口を伝えたことを書く
内容 虐待の5類型/通報義務/自事業所の報告ルート/身体拘束の3要件。この4つは最低限
確認 確認テスト10問の提出、または口頭での確認内容
実施者 虐待防止責任者または管理者の氏名・押印
送迎の運転手やパート職員も対象です。「支援に入らないから」は理由になりません。短時間で構わないので、動画視聴+確認テストの形で回してください。

運営指導で見られるポイントと、記録のNG5

研修そのものが否定されることは、まずありません。指摘されるのは、ほぼ記録です。よくあるNGを5つ挙げます。

虐待防止研修の記録・NG5
NG 何が問題か 直し方
内容欄が
「虐待防止について」
何を扱ったか分からない 項目を3行以上。レジュメを添付する
受講者数だけで
分母がない
全従業者の何割が受けたか分からない 「全従業者◯名中◯名」と書き、名簿を添付。分母に送迎・調理・事務を入れる
欠席者欄が空白 フォローしていないと読まれる フォローの日付か予定日を必ず記入
身体拘束の研修と
1枚にまとめている
どちらの要件も満たした証拠にならない 紙を2枚に分ける。同日実施でも分ける
委員会の議事録に
周知の記載がない
「結果を従業者に周知徹底」の要件が欠ける 議事録末尾に周知の方法と日付を1行足す
もう1つ、実施日の間隔に注意してください。「毎年3月に実施」と決めていても、前年が3月5日で今年が3月20日なら12か月半です。問題ありませんが、前年3月に実施して今年4月にずれ込むと13か月を超えます。年度で考えず、前回実施日から数えてください。

よくある質問

Q|虐待防止研修と身体拘束適正化研修を、同じ日にまとめて実施してもいいですか。
A 実施はまとめて構いませんが、記録は必ず分けてください。2つは別の要件で、減算も別建てです。1枚の記録に両方書くと、どちらの証明にもなりません。実務的には、同日に「虐待防止20分+身体拘束20分」で計40分、記録は2枚、レジュメも2枚という形が現実的です。
Q|外部の研修に参加するだけで要件を満たせますか。
A 満たせます。解釈通知では、施設内で行う職員研修のほか、協議会や基幹相談支援センター等が実施する研修に事業所が参加した場合でも差し支えないとされています。ただし条件が2つ。受講記録を事業所として残すことと、参加できなかった職員への伝達研修または録画視聴を行うことです。管理者1人が参加して終わりだと、全従業者への実施にはなりません。
Q|動画視聴やeラーニングでも要件を満たしますか。
A 満たします。手引きも、研修に参加できなかった職員への対応として録画の視聴を明示しています。ただし視聴記録を個人単位で残すことが前提です。「全員に動画を共有した」では実施の証明になりません。視聴管理表の様式は「研修を動画にして回す」の節に置いてあります。
Q|パートや送迎の運転手も受講させないといけませんか。
A 対象です。手引きは、福祉職に限らず給食調理・事務・運転・宿直管理等の業務を担う職員も広い意味での支援者であるとしています。とくに新任職員やパート職員は障害分野の理解が不十分な場合が多く、優先的に実施すべき対象とされています。受講率の分母に入れ忘れていないかを点検してください。
Q|虐待防止委員会は何人必要ですか。小規模事業所で人が集まりません。
A 最低人数は問われません。解釈通知では、管理者や虐待防止担当者(必置)が参画していれば人数は問わないとされています。法人単位での設置も可、オンラインでも可、既存の会議と併せての開催も可です。管理者と責任者の2名で、月次会議の最後に30分、という形で成立します。
Q|虐待かどうか微妙な場面です。委員会で検討してから通報でもいいですか。
A いけません。被害を受けた利用者が特定できている場面なら、疑いの段階で通報が義務です。事実確認は市町村が行います。委員会は通報のあとで、再発防止のために動かします。順番を逆にすると通報義務違反になります。「不適切な支援」と言い換えて内部指導だけで終わらせた事案が、後に行政処分につながった例が手引きに載っています。
Q|通報したことが事業所に知られて、働きづらくなりませんか。
A 通報を理由とする解雇その他の不利益な取り扱いは法律で禁止されています。また、市町村の職員には通報者を特定させる情報についての守秘義務があり、個人が特定されないよう配慮して聴取されます。匿名での通報も可能です。この点は、研修で必ず伝えてください。伝わっていないと、現場は黙ります。
Q|上司に報告したのに通報してくれません。どうすればいいですか。
A 自分で市町村に通報してください。手引きは「上司や管理責任者に報告したにもかかわらず、通報がされなかったときにはうやむやにせず自ら通報すべき」とし、期間を長く置かずにと付け加えています。これは手順として認められている行動であって、組織への裏切りではありません。
Q|虐待防止措置未実施減算は、いつから何%ですか。
A 令和6年4月1日から、所定単位数の1%です。委員会・研修・責任者の3つのうち1つでも欠けると対象になります。なお身体拘束廃止未実施減算は別建てで、施設・居住系が所定単位数の10%、訪問・通所系が1%です。グループホームや施設入所支援は身体拘束側が10%なので、そちらの確認も忘れないでください。
Q|「うちでは虐待は起きていない」と職員が思っている状態で、どう研修を始めればいいですか。
A ニュース事例から入らないでください。「うちはあそこまでひどくない」で終わります。呼称・交換条件・食事の混ぜ方・「ちょっと待って」のような、全員に心当たりがある場面から入ってください。この記事の20分版台本は、その順番で書いてあります。
Q|研修で職員が黙り込んでしまいます。
A 原因はほぼ2つです。「正解を当てさせられる」と思われているか、「誰かの名前が出る」と警戒されているか。対策も2つで、冒頭に「この3問に公式の正解はありません。割れたら成功です」と言うこと、そして「今日は個人の話にしません。場面として委員会に持っていきます」と線を引くことです。挙手で判定を取る形にすると、発言せずに参加できるので、最初の一歩が軽くなります。
Q|身体拘束の研修記事もありますか。
A あります。身体拘束適正化研修【障害福祉版】20分で終わる講師台本・事例30・確認テスト20問に、同じ形式で20分版台本・具体例30・確認テスト20問・記録様式をまとめています。義務づけられている研修の全体像は、【障害福祉】令和6年度報酬改定で義務化された研修で確認してください。

まとめ

最後に、この記事でいちばん伝えたいことを5つだけ。

虐待防止研修を、明日やるとしたら
  1. 20分でいい。研修時間に法令上の定めはありません。90分の計画を立てて実施できずに記録が飛ぶほうが、はるかに危険です
  2. 「殴る」の話から始めない。呼称・交換条件・食事を混ぜること・「ちょっと待って」から始めてください。全員が自分の話だと気づいた瞬間に、研修が始まります
  3. 通報は疑いの段階で。確認してからではありません。そして「不適切な支援」と言い換えて内部処理した瞬間に、事故になります
  4. 言い先を実名で言う。虐待防止責任者の役職と氏名、市町村の窓口の電話番号。これを言わない研修は、内容が正しくても行動を変えません
  5. 記録は、研修そのものより重い。内容欄3行以上、分母は全従業者、欠席者のフォロー予定日、レジュメとテストの添付。この4つで20分の研修は説明が通ります
そして、忘れやすいことをもう1つ。虐待は、知識と余裕の不足から起きます。研修で伝えられるのは知識のほうだけです。余裕のほうは、シフトと人員配置と、きついと言える職場かどうかで決まります。研修の最後に「きついときはきついと言ってください」と一言足すことが、いちばん効く場合があります。

この記事の台本・設問・テスト・様式は、すべてコピーして自事業所用に書き換えて使ってください。〔 〕の中を自分の事業所の言葉に置き換えたら、それはもう自事業所の研修資料です。

参考にした一次情報

・厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月)
・厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」
・障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律
・厚生労働省「障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修 資料・動画」

本記事は上記をもとに、障害福祉の実務向けに整理したものです。個別の取扱いは指定権者の判断によります。最新の内容は必ず出典元でご確認ください。

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室長:ユイン
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介護福祉士・保育士・サビ菅

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グループホーム・放課後等デイサービスの施設長・管理者を20代から経験。現在も現場の最前線に立ちながら、4人の子どもを育てる6人家族の父として、福祉と子育ての両方をリアルな目線で書いています。

  • 支援歴10年以上、管理職は20代後半から GH施設長 / 放課後等デイ管理者
  • 実務者研修・強度行動障害研修の講師資格あり 研修講師として登壇経験多数
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資格
  • 介護福祉士
  • 保育士
  • サービス管理責任者
  • 3級ファイナンシャル・プランニング技能士
  • 実務者研修教員講習会修了
  • 強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践)
  • 防火管理者(甲種)
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