子どもとの信頼関係を築く5つの習慣、ほめ方・叱り方が伝わる土台のつくり方【保育士が解説】
「ほめて伸ばそうとしても調子に乗るだけ」「叱るときは短くと聞いて試したけれど、まったく響かない」。ほめ方や叱り方のコツを実践しても、うまくいかないと感じていませんか。
この記事では、保育士・介護福祉士・サービス管理責任者として子どもと関わってきた立場から、ほめ方・叱り方の前に整えたい「信頼関係」の築き方をまとめました。毎日の中でできる5つの習慣と、信頼があるからこそ届くほめ方・叱り方を、具体的な声かけの例とあわせて紹介します。
- ほめ方・叱り方が響かないときに見直したい「土台」
- ほめすぎ・叱りすぎで起きやすいこと
- 信頼関係を築く5つの習慣と、1日5分の「子どもが主役の時間」
- 信頼があるから届くほめ方と、信頼を壊さない叱り方
- 関係を整えても難しいときに考えたいこと
ほめ方・叱り方が響かないのは、土台の問題かもしれません
ほめ方や叱り方のテクニックは、たくさん紹介されています。でも、同じ言葉でも誰に言われるかで、受け取り方は大きく変わります。ふだん話を聞いてくれない上司に、急に「君のためを思って」と叱られても響かないのと同じです。

図:ほめ方・叱り方は「信頼の土台」の上に乗る
この土台になるのが、「この人は自分の味方だ」「困ったときは守ってもらえる」という安心感です。心理学ではアタッチメント(愛着)と呼ばれ、こども家庭庁がまとめた「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」でも、子どもの育ちの土台として大切にされています。
安心できる大人がいると、子どもはそこを「安全基地」にして、新しいことに挑戦したり、失敗しても立ち直ったりしやすくなります。叱られたときも、「嫌われた」ではなく「この行動はよくなかった」と受け取りやすくなります。
アタッチメントについては、発達の特性と愛着形成の違いの記事でもくわしく説明しています。
ほめすぎ・叱りすぎで起きやすいこと
ほめることも叱ることも、どちらも必要です。ただ、どちらかに大きくかたよると、次のようなことが起きやすくなります。
| 起きやすいこと | 見直しのヒント | |
|---|---|---|
| ほめすぎ | ほめられないとやらない。失敗をこわがって、挑戦しなくなる | 結果よりやり方や過程を言葉にする |
| 叱りすぎ | 「自分はダメだ」と思いこむ。大人の顔色ばかり見るようになる | 叱る場面を環境や伝え方で減らせないか考える |
| どちらも少ない | 何がよくて何がよくないのかが、わかりにくい | よい行動に気づいたら、すぐ言葉にする |
信頼関係を築く5つの習慣
信頼関係は、特別なことではなく毎日の小さなやりとりの積み重ねでできていきます。家庭でも、保育や障害児支援の現場でも大切にされている5つの習慣を紹介します。

図:信頼関係を築く5つの習慣
目線を合わせる 横に並んで話してもOK
話しかけるときは、しゃがんで子どもと同じ高さになり、名前を呼んでから話しはじめます。見下ろされるより、同じ高さのほうが安心して話を聞けます。
自閉スペクトラム症(ASD)などの特性がある子の中には、目を合わせることがつらい子もいます。無理に「こっちを見て」と言わず、横に並んで座る、一緒に何かを作りながら話すなど、視線のプレッシャーが少ない形のほうが話しやすいことがあります。
最後まで聞く 途中で答えを言わない
子どもの話は、まとまっていなかったり、話が飛んだりします。大人がつい「それはね」と結論を言いたくなりますが、最後まで聞いてもらえたという経験が、「この人には話していいんだ」という安心につながります。「そうだったんだ」「それでどうなったの?」と、相づちで話を広げてみてください。
ふれあう 本人が心地よい形で
抱っこ、手をつなぐ、背中をさするなどのふれあいは、安心感を伝えるいちばんシンプルな方法です。ただし、さわられるのが苦手な子もいます。ハイタッチや、そばに座るだけなど、その子が心地よいと感じる形を選びましょう。
ありがとうを伝える 小さなことにも
「くつをそろえてくれてありがとう」「手伝ってくれて助かったよ」。ありがとうは、「あなたは役に立つ存在だ」と伝える言葉です。ほめ言葉より自然に言えるので、ほめるのが照れくさい人にもおすすめです。
一緒に考える 「どうしたらいいかな?」
困ったことが起きたとき、大人が答えを決めて言い聞かせるのではなく、「どうしたらいいと思う?」と一緒に考えます。自分で考えた方法は、言われた方法より守りやすくなります。うまく言葉にできない子には、「AとB、どっちがいいかな」と選択肢を出しても大丈夫です。
1日5分の「子どもが主役の時間」
関係を整えたいときにおすすめなのが、子どもが遊びを決め、大人はそれに付き合うだけの時間を、1日5分ほどつくることです。親子の関係を育てるプログラム(ペアレント・トレーニングなど)でも取り入れられている方法です。
| すること | 子どもがしていることを言葉にする(「赤いブロックを高く積んでるね」)、まねる、よいところをほめる |
|---|---|
| 控えること | 指示(「こうしたら?」)、質問攻め、注意やダメ出し。この時間だけは子どもに主導権をわたす |
| コツ | スマホを置いて、5分だけ。きょうだいがいる場合は、1人ずつ順番に |
短い時間でも、「自分のことを見てもらえている」と感じられると、ふだんの声かけも届きやすくなります。
信頼があるから届く、ほめ方のコツ
- 具体的に:「えらいね」より「最後までお片づけできたね」
- 過程をほめる:「100点すごい」より「毎日練習してたもんね」
- すぐに:できたその場で伝える。あとからまとめてほめるより届きやすい
- 当たり前のことも:「起きてきたね」「いすに座れたね」も立派なほめどころ
大きな声でほめられるのが苦手な子には、親指を立てる、シールを貼るなど、その子が受け取りやすい形でかまいません。具体的な言いかえの例は、発達障害の子どもとの関わり方の記事でもまとめています。
信頼を壊さない叱り方
信頼関係があっても、危ないことやいけないことは伝える必要があります。大切なのは、人ではなく行動について、短く伝えることです。

図:伝わる叱り方・伝わりにくい叱り方
| ポイント | 声かけの例 | 理由 |
|---|---|---|
| 人ではなく行動を | 「たたくのはやめよう」 | 「いつもダメ」は、子ども自身を否定してしまう |
| 短く1つだけ | 「ボールは外で投げよう」 | 長いお説教は、何が大事かが伝わりにくい |
| その場で | 起きたときに、落ち着いた声で | 時間がたつと、何について叱られているかわかりにくい |
| してほしい行動で | 「ここは歩こうね」 | 「〇〇しない」より、何をすればいいかがわかる |
| あとで関係を戻す | 「さっき止めたのは、ケガしてほしくないからだよ」 | 叱られても嫌われていない、と伝わる |
2020年4月から、親による体罰は法律で禁止されています。たたく、怒鳴る、おどすといった関わりは、その場では言うことを聞いたように見えても、子どもの心と体の発達に悪い影響を与え、信頼関係そのものをこわしてしまいます。カッとなったときの止め方は、子育てのイライラを減らすコツの記事でまとめています。
年齢で変わる、信頼の育て方
5つの習慣はどの年齢でも使えますが、子どもが大きくなるにつれて、信頼の形は少しずつ変わります。目安として見てください。
| 年齢 | 大人ができること | 育っていくもの |
|---|---|---|
| 0〜2歳 | 泣いたり呼んだりしたら、できるだけ応える。いつも同じ大人がお世話をする | 「困ったら助けてもらえる」という安心(愛着) |
| 3〜5歳 | 「自分でやりたい」を見守り、困って戻ってきたら受けとめる | 外で挑戦して、安心できる場所に戻れる感覚 |
| 小学生 | 約束を守る。大人がまちがえたときは「ごめんね」と謝る。話を最後まで聞く | 「この人の言うことは信じていい」という信用 |
| 中学生〜 | 口出しを減らして見守る。持ち物や部屋のプライバシーを尊重する。相談されたら、まず否定せずに聞く | 困ったときに「親に話してみよう」と思える関係 |
信頼関係があると、子どもは失敗しても「また挑戦していい」と思え、困ったときに大人へ助けを求められるようになります。反対に、話しても聞いてもらえない経験が続くと、困りごとをひとりで抱えこみやすくなります。どの年齢からでも、関係は作り直せます。
支援の現場でも、関係づくりが最初の一歩
この「土台がすべて」という考え方は、家庭だけのものではありません。放課後等デイサービスや児童発達支援などの障害児支援の現場でも、支援者と子どもの信頼関係(ラポール)づくりは、支援の最初の一歩とされています。
| 同じ「片づけようか」でも | |
|---|---|
| 関係ができていない | 「命令された」と感じやすく、反発やパニックにつながることがある |
| 関係ができている | 「安心できる人からの提案」として受け取りやすく、行動に移りやすい |
職場の人間関係でも同じです。ふだんから話を聞き、認めてくれる人からの指摘は、「自分のために言ってくれている」と受け取りやすくなります。
関係を整えても難しいときは
ふだんの関わりを見直しても、特定の場面だけどうしても難しいことがあります。たとえば「どうしても謝れない」「切り替えのたびに大泣きする」などです。その場合は、信頼関係の問題ではなく、その子の特性が関係していることもあります。
- 謝れない理由と対応は、子供が謝らないのはなぜ?と障害特性から考える「謝れない子ども」の記事でまとめています
- 特性に合わせた伝え方は、発達障害の子どもとの関わり方の記事が参考になります
- 気になる様子があれば、市区町村の保健センターや子育て窓口で相談できます
よくある悩み 考え方の例
Yahoo!知恵袋やSNSでは、ほめ方・叱り方についてこんな悩みがよく見られます。個々の投稿をそのまま載せるのではなく、よくある悩みをまとめて書き直しています。
「ほめると調子に乗って、ふざけはじめる」
大げさにほめると、テンションが上がりすぎる子もいます。落ち着いた声で、具体的に、短くほめてみてください。「片づけたね」と事実を言葉にするだけでも、十分伝わります。
「下の子が生まれてから、上の子に叱ってばかりいる」
赤ちゃんのお世話で余裕がなくなるのは当然です。1日5分でも上の子だけと過ごす時間をつくると、気持ちが落ち着きやすくなります。「お兄ちゃんだから」ではなく、その子自身をほめることを意識してみてください。
「思春期になって、話しかけても返事をしてくれない」
思春期は、親と距離をとるのも成長の一部です。根掘り葉掘り聞くより、車の中や食事の準備中など、横に並ぶ時間のほうが話しやすいこともあります。返事がなくても、「おかえり」「ありがとう」は続けてみてください。
よくある質問
Q. 信頼関係ができるまで、叱らないほうがいいですか?
危ないことや、人を傷つけることは、その場で止める必要があります。大切なのは叱らないことではなく、叱る量よりも、認める・聞く・ふれあう量を多くすることです。
Q. 共働きで、子どもと過ごす時間が短いのですが大丈夫ですか?
大切なのは時間の長さより、やりとりの中身です。寝る前の5分、お風呂の時間など、短くても子どもに向き合う時間があれば、信頼関係は育ちます。
Q. 一度こわれた関係は、取り戻せますか?
何歳からでも、関係は少しずつ変えていけます。叱りすぎたと感じたら、まず叱る回数を減らし、話を聞く・ありがとうを伝えるところから始めてみてください。つらさが強いときは、子育ての相談窓口を頼ってください。
まとめ
- ほめ方・叱り方が響かないときは、「この人は味方だ」という土台を見直す
- 信頼関係を築く5つの習慣は目線を合わせる・最後まで聞く・ふれあう・ありがとう・一緒に考える
- 1日5分の子どもが主役の時間は、関係を整えるのに役立つ
- ほめるときは具体的に・過程を・すぐに。叱るときは人ではなく行動を、短く
- 関係を整えても難しい場面は、特性が関係していることもある。ひとりで抱えこまず相談を
信頼関係は、一日でできるものではありません。でも、「ありがとう」を1回伝える、話を最後まで1回聞く、といった小さな積み重ねが、確実に土台を育てていきます。今日できることを1つだけ選んで、始めてみてください。
- こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」
- こども家庭庁「体罰等によらない子育てのために」
- こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン」


