【介護福祉士が解説】介護職に「特定最低賃金」は導入される?国の賃上げ政策(処遇改善加算)の背景と今後の影響

「介護職の給料は、なぜ全産業平均より低いままなのか?」 「『特定最低賃金』が導入されれば、私たちの手取りは本当に上がるの?」
介護現場で働く多くの人が、そんな疑問や期待、そして不安を抱えていると思います。
こんにちは。介護福祉士であり、サービス管理責任者として現場の運営にも関わってきた、4児のパパ・ユインです。
結論から言うと、現在(2025年時点)、「介護職」という産業全体を対象とした「特定最低賃金」は導入されていません。
ですが、政府はそれとは別の強力な方法、すなわち「介護職員処遇改善加算」の拡充によって、介護職の賃金を他産業並みに引き上げようと躍起になっています。
この記事では、
- そもそも「特定最低賃金」とは何か?(地域別最低賃金との違い)
- なぜ介護職の賃金引上げが「国の最重要課題」なのか(背景)
- 国の主な賃上げ策「処遇改善加算」の仕組みと今後の影響
について、現場の視点と厚生労働省の公的データに基づき、徹底的に解説します。
自分の給料が今後どうなるのか、その「根拠」を知りたい現役介護士の方は、ぜひ最後までご覧ください。
特定最低賃金とは
「特定最低賃金」と「地域別最低賃金」の違い
まず、言葉の定義をはっきりさせましょう。 最低賃金には2種類あります。
- 地域別最低賃金: 産業や職種に関わらず、都道府県ごとに定められる最低賃金。(例:「東京都 〇〇円」)すべての労働者に適用されます。
- 特定最低賃金: 特定の産業(例:「〇〇県 鉄鋼業」など)について、労使の申出に基づき設定される最低賃金。通常、地域別最低賃金よりも高い金額が設定されます。
(参考:厚生労働省「最低賃金制度の概要」)

つまり、「介護職」という産業がこの「特定最低賃金」の対象になれば、地域別最低賃金よりも高い最低ラインが保証されるのでは?と期待されているわけです。
特定最低賃金は、特定の産業や職種において、地域別最低賃金を上回る水準で設定される最低賃金のことです。
これは、労使のイニシアティブに基づき、任意に設定される制度であり、地域別最低賃金とは異なります。 厚生労働省
介護職の賃金状況
令和6年度の処遇状況等調査によれば、介護職員の賞与などを含めた平均給与額は前年と比較し4.3%、額にして1.4万円増加しました。
これは、報酬改定など各種取り組みの効果が反映された結果と考えられます。 厚生労働省
特定最低賃金導入の期待される効果
- 労働条件の改善:賃金水準の向上により、介護職員の生活の安定が図られます。
- 人材確保の促進:魅力的な労働条件は、新たな人材の参入を促し、人手不足の解消に寄与します。
- サービス品質の向上:安定した人材確保により、介護サービスの質の維持・向上が期待できます。
導入に向けた課題と対応策
【導入の背景】「賃金格差」と「深刻な人手不足」
では、なぜこれほどまでに介護職の賃金引上げが叫ばれるのでしょうか。 理由はシンプルで、「全産業との賃金格差」と、それに伴う「深刻な人手不足」です。

私も現場の管理者(サビ管)として痛感していますが、介護・福祉の仕事は高い専門性が求められるにも関わらず、その対価(給与)が他産業に見合っていないという現実があります。
賃金が低いままでは、介護という社会に必要な仕事の担い手がいなくなってしまう。 この危機感こそが、国を動かす最大の背景です。
特定最低賃金の導入には、以下の課題が存在します。
- 事業者の負担増加:賃金引き上げに伴う人件費の増加は、事業者の経営を圧迫する可能性があります。
- 地域間格差:地域ごとの経済状況や物価の違いにより、特定最低賃金の設定が難航する場合があります。
これらの課題に対し、政府は処遇改善加算の要件の弾力化や補助金の支給など、事業者支援策を講じています。 厚生労働省
特定最低賃金とはなにか

介護職の賃金向上は、日本の高齢化社会における重要な課題です。特に、介護職に対する特定最低賃金の設定は、労働者の生活安定と業界全体の人材確保に寄与すると期待されています。
特定最低賃金とは、特定の産業や職種において、地域別最低賃金を上回る水準で設定される最低賃金のことです。これは、関係労使の申出に基づき、最低賃金審議会の調査審議を経て設定されます。 厚生労働省
令和7年3月末時点で、全国で224件の特定最低賃金が設定されており、約9万人の使用者と約296万人の労働者に適用されています。
介護職に特定最低賃金を適用することで、以下のような効果が期待されます。
- 労働条件の改善:賃金水準の向上により、介護職員の生活の安定が図られます。
- 人材確保の促進:魅力的な労働条件は、新たな人材の参入を促し、人手不足の解消に寄与します。
- サービス品質の向上:安定した人材確保により、介護サービスの質の維持・向上が期待できます。
しかし、特定最低賃金の設定には以下のような課題も存在します。
- 事業者の負担増加:賃金引き上げに伴う人件費の増加は、事業者の経営を圧迫する可能性があります。
- 地域間格差:地域ごとの経済状況や物価の違いにより、特定最低賃金の設定が難航する場合があります。
これらの課題に対処するため、政府は処遇改善加算の要件弾力化や補助金の支給など、事業者支援策を講じています。
介護職の特定最低賃金設定は、労働者の待遇改善と業界の発展に向けた重要な一歩です。関係者全員が協力し、持続可能な仕組みを構築することが求められます。
今後の展望
【国の本命】賃上げの切り札「介護職員処遇改善加算」
現状、国は「特定最低賃金」の枠組みではなく、「介護職員処遇改善加算(しょぐうかいぜんかさん)」という介護保険制度内の仕組みで、介護職の給与を直接引き上げる政策を続けています。
これは、簡単に言えば「介護職員の給料を上げる」と国に計画書を提出し、要件を満たした事業所に、介護報酬(売上)が上乗せされる仕組みです。

介護福祉士として10年以上の経験がある私(筆者)のような職員を評価する「特定処遇改善加算(令和元年〜)」や、全職員のベースアップ(基本給UP)を目的とした「ベースアップ等支援加算(令和4年〜)」などが、その代表です。
2024年以降も、これらの加算がさらに拡充・一本化される動きがあり、国は「介護職の賃金を全産業平均と遜色ない水準にする」という目標を掲げています。
(参考:厚生労働省「介護職員の処遇改善について」)
【今後の影響と結論】
したがって、介護職の賃金は「特定最低賃金」の導入を待つのではなく、この「処遇改善加算」をしっかりと算定・配分している事業所(職場)で働くかどうかで、今後ますます大きな差がつくことになります。
転職や就職を考える際は、給与明細の「基本給」だけでなく、「処遇改善加算」がいくら支給されているかを確認することが非常に重要です。
特定最低賃金の導入に関しては、労使の意見や実態を再度確認し、検討を進める必要があります。福岡大臣は、労使の皆様のご意見や特定最低賃金の実態について再度確認し、検討を進めてまいりたいと述べています。 厚生労働省

介護職の特定最低賃金導入は、労働者の待遇改善と業界の発展に向けた重要な一歩です。関係者全員が協力し、持続可能な仕組みを構築することが求められます。
介護職の賃上げで現場はどう変わる? 実施内容と課題を解説

少子高齢化が進む日本において、介護職員の確保は重要な社会課題です。
しかし、現状では給与水準が低く、離職率が高いことが問題視されています。
そんな中、政府は介護職員の賃上げを図る新たな施策を打ち出しました。しかし、実際にこれがどのような影響を与えるのか、現場はどう変わるのか気になるところです。
介護職の賃上げの概要
介護職員の給与引き上げは、政府が推進する「介護職員処遇改善支援補助金」の活用によって実施されています。例えば、令和6年2月から5月までの間、月額平均6,000円の引き上げが行われました。さらに、令和7年4月からは「処遇改善加算」の要件緩和も実施され、事業者が加算を取得しやすくなる仕組みが整っています。
ポイント
- 月額平均6,000円の賃上げ
- 処遇改善加算の要件緩和
- 補助金と加算を活用した給与改善
賃上げがもたらす影響とは?
賃上げが実現すれば、介護職員の待遇が改善され、離職率の低下が期待されます。さらに、給与面での魅力が増すことで、介護職への新規参入者が増える可能性もあります。現場での人材不足が解消されれば、サービスの質も向上し、利用者やその家族にとってもメリットが大きいでしょう。
それでも残る課題
賃上げが進む一方で、課題も少なくありません。まず、補助金や加算を適用するためには、事業者が複雑な申請手続きを行う必要があります。これに伴い、給与規程の見直しや職員への情報共有が求められ、現場の負担が増えるリスクもあります。
また、賃上げの財源確保も大きな問題です。国や自治体の支援が途絶えた場合、賃上げが持続できず、一時的な対応に終わってしまう可能性も考えられます。
課題まとめ
- 複雑な申請手続きへの対応
- 給与規程や情報共有の整備
- 財源確保と持続性の問題
実現に向けて取り組むべきこと

賃上げ施策を最大限に活かすためには、次のポイントを押さえる必要があります。
① 申請手続きの効率化
事業者が迅速かつ確実に申請できる体制づくりが必須です。
職員が理解しやすいよう、研修やマニュアルを整備しましょう。
② 財源確保の工夫
助成金だけに頼らず、地域連携や自主財源確保策を検討することが重要です。
③ 職員満足度向上策の導入
給与面だけでなく、働きやすさの改善やキャリアパスの充実も併せて進めるべきです。
自分の給料は大丈夫?「処遇改善加算」がもらえない職場の実態

ここまで国の制度(処遇改善加算)について解説しましたが、現場で働く皆さんはこう思っていませんか? 「国の制度は分かった。でも、うちの職場、そんなに給料上がってないぞ?」と。
これは、介護福祉士・サビ管(管理者側)でもある私が、現場で痛感してきた最大の問題です。
国が賃上げ予算(加算)を事業所に渡しても、その配分ルールは事業所に委ねられている部分が多く、中には職員に公平に分配せず、役員報酬や別事業の赤字補填に使ってしまうブラックな事業所も存在します。

はっきり言います。 「処遇改善加算」がいくら支給され、どう分配されているかを職員に隠したり、曖昧にしたりする職場で、あなたの給料が今後上がることはありません。
あなたの専門性(介護福祉士など)や経験年数が、きちんと給与に反映されるかどうかは、「どの職場で働くか」で全て決まってしまいます。
いますぐ給与明細をチェックしよう!
まずは、あなたの直近の給与明細を見てください。 「処遇改善加算」や「特定処遇改善加算」といった項目で、毎月いくら支給されていますか?
もし、
- 「そもそも、そんな項目がない」
- 「金額が数千円など、明らかに少なすぎる」
- 「上司に聞いても、説明を濁される」
と感じたなら、それはあなたの職場の分配方法に問題がある可能性が非常に高いです。

あなたの貴重な専門スキルは、そんな職場で安売りされるべきではありません。 国が「賃上げする」と決めた予算(加算)を、きちんと透明性をもって職員に分配している「優良な事業所(ホワイト企業)」は、探せば必ずあります。
「自分の給料、もしかして低いかも?」と感じたら、まずは転職エージェントに無料相談し、「自分の市場価値(=加算込みでいくら貰えるか)」を客観的に診断してもらうことが、給料UPへの最短距離です。
まとめ:介護職が給料を上げるには「制度の理解」と「行動」あるのみ

この記事では、「特定最低賃金」というキーワードから、介護職の賃金問題の本質である「処遇改善加算」について、介護福祉士・サビ管の視点から解説しました。
重要なポイントをまとめます。
- 介護職の賃上げは「特定最低賃金」ではなく、「処遇改善加算」で進められている。
- 国は「全産業平均との賃金格差」を埋めるため、多額の予算(加算)を投入している。
- しかし、その加算をどう分配するかは「事業所(職場)次第」という大きな闇がある。
(ここにユインさんの吹き出しアイコン) 私(ユイン)もこの業界に長くいますが、ただ真面目に働いているだけでは給料は上がりません。 大切なのは、国の制度を正しく理解し、自分の給料が正当に評価されているかを見極め、ダメなら環境を変える(行動する)勇気です。
この記事が、あなたの「給与明細」を見直すきっかけとなり、あなたの専門性が正当に評価される職場を見つけるための一歩になれば、これほど嬉しいことはありません。


